<2>EA、そしてTurn 10と、海外スタジオのエキスパートが登壇
セミナー後半戦では、Electronic Arts(以下「EA」)から、アートワーク部門シニアテクニカルアーティストのJean Sebastien Baril/ジーン セバスチャン バリル氏、Microsoft Studios傘下のTurn 10 Studios(以下「T10」)からは、コア・プロダクション部テクニカル・アート・ディレクターのArthur Shek/アーサー・シェック氏と、いずれも所属するゲーム会社に「SHOTGUN」を初めて取り入れたキーパーソンが登壇した。
▲EAのJean Sebastien Baril/ジーン セバスチャン バリル氏。『Plants vs Zombies Garden Warfare 2』プロジェクトを皮切りに、EAが社内のスタジオで使用している多種多様なツールと「SHOTGUN」との統合に取り組んでいる
EAに入社したバリル氏は、インディ開発チームのように小規模であった『Plants vs Zombies Garden Warfare』のチームに注目する。小規模チームであれば、当時のEAにとって未知のツールである「SHOTGUN」の導入のPCDAサイクルを短期間で回すことができ、多少実験的で軽微な問題が起きたとしても影響範囲が小さいと考えてのことだろう。
『Plants vs Zombies Garden Warfare 2』(以下、『GW2』)から本格的にプロジェクトに関与したバリル氏は、プロジェクト管理ツールを「JIRA」から「SHOTGUN」に変更するとともに、パイプラインの自動化を推し進める。加えて、「SHOTGUN」のデータベースに格納されたタスクと作業時間の分析を行い、キャパシティに余裕のあるスタッフに対する追加タスクの割り当てを容易にした。
これらの改善の結果、『GW2』プロジェクトは、6つの新キャラクタークラスと100以上のプレイ可能なキャラクターの追加といったデータボリュームの拡大、シングルプレイヤーモードの追加やマルチプレイモードの最大参加可能人数の引き上げといった新機能の実装に成功する。
グラフィックリソースの共有化を促進する「Artworks」というチームにも所属しているバリル氏は、『GW2』の成果を踏まえた将来の展望として、自社ツール内でのタスクドリブンなビュー表示、「SHOTGUN」のデータベースを活用した各種パイプラインの管理や、可視化したスタッフ個々のキャパシティの全社共有、スタジオやプロジェクトチームで広範に活用できるプランニングツールの開発といった事項に取り組みたいとしていた。
▲複数の異なるチームによるグラフィックリソースの重複開発を避け、グラフィックリソースの共有化を促進する「Artworks」メンバーとしてのBarilのゴール
▲ちょっと意味がとりきれなかったのだが、自動化といってもプロシージャルに生成するということではない模様。データ作成の前準備やゲーム組み込み用データ出力の自動化を指していると思われる
EAのバリル氏に続いて登壇したT10のシェック氏は、縦横に際限なく続く「破滅のスプレッドシート」でのアセット管理の限界を示した。Excelをはじめとする表計算ソフトでは、柔軟に作表することができる反面、データベースのように格納するデータの正規化や値の制約を厳格に行わなくても良いため、見通しの悪いリストを作ってしまいがちだ。すでにデータで埋め尽くされたリストのビューレイアウトの変更も、後から行うのは困難が伴う。
▲T10のArthur Shek/アーサー・シェック氏。「Forza Motorsport 6」のアートチームに「SHOTGUN」を導入する際のエピソードをユーモアを交えて語ってくれた
その点「SHOTGUN」は、シェック氏がメリットとして挙げた通り、バックエンドにデータベースを使用しているため、比較的柔軟にビューを作成することができる。たとえ技術的スキルに乏しいスタッフであったとしても、優れたユーザーインターフェイスを持つWeb画面で、カスタムビューやクエリを作ることはそれほど難しくない。
また、単一のデータソースとなるため、スプレッドシートでの管理のように異なるバージョンの管理シートを参照してしまったり、管理シートの更新ミスや更新漏れを起こすことがない。既存のツールで確立している開発パイプラインと統合するためのAPIも用意されており、柔軟にカスタマイズできることも大きいだろう。加えて、プロデューサーやディレクターといった、プロジェクトのマネージメントサイドが関心を持つアセット制作の達成度やスケジュールのレポートについても、グラフやチャートで美しくビジュアライズできる点を高く評価していた。
▲伝統的なスプレッドシートやバグトラッカーを改良して管理することを断念したチームは「SHOTGUN」でのアセット管理に行き着く
▲「SHOTGUN」で管理する『Forza Motorsport 6』のアセット。450以上の車種と26のコースが登場し、毎月10車種が追加される
<3>プロジェクト管理に「SHOTGUN」を導入する価値はあるか
結論としては、貴重な人材が数人がかりでExcelシートの保守にかかりっきりになっていたり、既存のプロジェクト管理システムに機能不足を感じているなら、まずは試験的に「SHOTGUN」を導入しても良いのではないだろうか。
「SHOTGUN」は無償で1ヶ月評価可能であり、DCCツールとは異なり評価期間の延長することもできる。採用する場合の利用料も1アカウントあたり月額30USドル(約3,600円)、年払いなら年額33,726円(税別)で利用できる。Turn 10の事例のようにアセット管理の改善を目的にグラフィックセクションのみに導入、という手もある。
一方で、テキストデータを主体としたソースコードやドキュメントの管理が中心であれば、導入を急ぐ必要はないだろう。「Git」や上述した「Subversion」といったバージョン管理システムに、「Redmine」などの既存のプロジェクト管理システムを連携させて管理すれば、プロジェクトの要件を十分に満たすこともあるからだ。
加えて、「SHOTGUN」でプロジェクトの何をどこまで管理するのか、導入に先立ってあらかじめ検討しておく必要がある。プロジェクト管理システムの運用で一般的によく言われることであり、オートデスクの渡辺氏もコメントしていたように、システムを導入しさえすればプロジェクトの抱える問題が一挙に解決するといったものではない。「SHOTGUN」がいかに優れたツールであったとしても、道具を使うのは、あくまで個々のチームメンバーであり、運用法はプロジェクト次第だ。
TEXT_谷川ハジメ(トリニティゲームスタジオ)
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SHOTGUN ゲーム業界ユーザ導入事例セミナー
日程:2015年12月10日(木)
場所:秋葉原UDX GALLERY
主催:オートデスク
協力:Too、ボーンデジタル
area.autodesk.jp/event/shotgun_game