オートデスクは、2015年12月10日(木)、東京秋葉原UDX GALLERYにて「SHOTGUN ゲーム業界ユーザ導入事例セミナー」を開催した。オートデスクが、日本国内で「SHOTGUN」を紹介するセミナーを開催するのは今回で3回目。国内の映像制作会社を招き「SHOTGUN」の機能を詳説にも多くの時間を割いた前2回とは異なり、今回のセミナーでは海外からElectronic ArtsとMicrosoft Studios傘下のTurn 10 Studiosから「SHOTGUN」導入担当者を招聘して、ゲーム開発での活用事例を紹介するイベントとなった。

<1>グラフィックデザイナーの仕事に強い「SHOTGUN」

「SHOTGUN」は、Autodeskが2014年7月にShotgun Software社を買収して製品ファミリに加えたクラウドベースのプロジェクト管理ソリューション。タスク、スケジュールといったプロジェクトの進行管理に加え、各種アセットといったグラフィックリソースの管理、中間成果のチェックと承認プロセスの管理機能が付随する。欧米では映画やゲームなどのデジタル・コンテンツ制作会社を中心に720社以上の採用実績を誇る商用ソリューションだけに、柔軟にカスタマイズできる各種ビューは洗練されていて非常に美しい。

本イベントでは、まず新 和也氏(オートデスク)によって、オートデスク製品と、それらを取り巻く市場の概況の解説が行われた。キーワードは、中国とモバイル。すでに中国のTencentが世界売り上げナンバーワンのゲーム会社になっていること、オートデスク製品の売り上げ数字にもモバイルの勢いが反映されていることは、非常に興味深い。そのほか、ゲーム業界向けということで、「SHOTGUN」と同様に、オートデスクにとって比較的新しいプロダクトである3Dゲームエンジン「Stingray」にも触れていた。

オートデスク「SHOTGUN ゲーム業界ユーザ導入事例セミナー」

▲最初に登壇したオートデスクの新 和也氏。「The Future of making Things 〜創造の未来〜」と題して、ゲーム業界のみならず同社に関連するマーケットの状況を網羅した解説を行なった

  • オートデスク「SHOTGUN ゲーム業界ユーザ導入事例セミナー」
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▲オートデスクのメディア&エンターテイメント事業の売上構成。グラフでは具体的な金額はわからないものの、各分野の比率を読み取ることができる

続いて登壇した渡辺揮之氏からは、「SHOTGUN」の概要が紹介された。「SHOTGUN」の主要な機能は、進行管理、アセット管理、レビュー&承認の3つに大別される。それらの機能のうち、多くの人にとって最もイメージしやすいのはタスクやそのステータス、スケジュール進捗の管理といった進行管理の部分だろう。
「SHOTGUN」では、キャラクターモデルの作成やカットシーンの作成といった一連のワークフローを構成する工程をあらかじめ定義しておく。工程項目、担当者、開始日、終了日は個別の作業ごとに簡単に編集することができ、編集に従って見やすいガントチャートを作成、表示させることも可能だ。ガントチャート側を移動させて編集することもできる。

オートデスク「SHOTGUN ゲーム業界ユーザ導入事例セミナー」

▲進行管理機能として、各タスクのスケジュールと作業中、作業完了、チェックOKといったステータスの管理ができる。スケジュール項目を更新すれば、ガントチャートも即座に更新される

アセット管理は、個々のグラフィックリーソースであるアセットを軸に、その完成ステータス、格納場所、メディアファイルなどをサムネールと共に管理する機能だ。「SHOTGUN」自体の機能でバージョン管理ができるほか、バイナリデータの格納にも強い商用バージョン管理システムの「Perfoce」やオープンソースの「Subversion」と連携して本格的なバージョン管理を行うこともできる。「SHOTGUN」インターフェイスから各種グラフィックツールを起動したり、その反対に、各種グラフィックツールのプラグインから、作成したデータを「SHOTGUN」にパブリッシュすることもできる。パブリッシュ時にコメントやスクリーンショットを添える機能があるため、わざわざ「SHOTGUN」画面を開いて、改めて記録する必要はない。

オートデスク「SHOTGUN ゲーム業界ユーザ導入事例セミナー」

▲アセットは、クラウド上に保存されるメディアファイルとメタデータと、ローカルサーバに保存されるシーンデータなどに区別して管理される。バージョン管理システムとの連携も可能

レビュー&承認の機能は、特に外部の協力会社との間で、納品データに関連付けて情報を管理するのに有用だと言える。同じ開発室にいるメンバーならまだしも、遠隔地で作業をしている場合、制作しているデータとリストを別々に管理するのは非常に煩雑だ。修正の経緯を記録に残しきれないこともあるだろう。この機能は、自社が委託側であっても受託側であっても活用できる。

オートデスク「SHOTGUN ゲーム業界ユーザ導入事例セミナー」

▲レビュー&承認の機能を活用すれば、動画の上に直接チェックバックコメントを書き入れることができる。クラウドベースであるため、世界中のどこからでもWebブラウザでアクセスでき環境を選ばない

▲前回行われたSHOTGUNユーザー事例セミナー。「SHOTGUN」の機能はこちらの動画を参考にしてほしい。

従来、こうしたプロジェクト管理には、広くマイクロソフトのExcelが使われてきた。確かに、Excelを「万能ツール」として、ありとあらゆる用途に使う人は少なくない。初歩的な使い方であれば比較的習得が容易で、会社であれば多くのPCに標準的にインストールされていることから、環境を選ぶケースが少ないことも人気の理由だろう。
ゲーム開発の場合、プログラマー主導で、バージョン管理システムとの親和性が高いイシュー管理システムから発展してきた「Redmine」や「Trac」を使うことも多いと思われる。オフィスアプリケーションとの連携重視で、プロジェクトマネージャーやプロデューサーによる予算管理がメインなら、マイクロソフト「Project」のオンライン版ということもあるかもしれない。

それぞれのソリューションに一長一短があり、どれが圧倒的に優れた方法だということはできないが、「SHOTGUN」はグラフィックデザイナーの仕事に強いのはまちがいない。ほとんどがバイナリデータで構成されるグラフィックリソースの管理機能に優れ、ユーザーインターフェイスも優しいからだ。
実際、ゲームプロジェクト全体を見渡すと、必ずしも技術的指向の強いメンバーばかりではなく、芸術的、文学的な能力を発揮することにフォーカスしなければならない人材が多数を占める場合もある。彼らの生産性を最大化することがプロジェクトにとってベストというケースもあるはずだ。そういった場合、見やすく簡単で手間が少ないソリューションを導入することは、ゲームクオリティやトータルコストに直結する。

オートデスク「SHOTGUN ゲーム業界ユーザ導入事例セミナー」

▲新氏に続いて登壇し、「SHOTGUN」の概要を紹介した渡辺揮之氏

▶次ページ:<2>EA、そしてTurn 10と、海外スタジオのエキスパートが登壇

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<2>EA、そしてTurn 10と、海外スタジオのエキスパートが登壇

セミナー後半戦では、Electronic Arts(以下「EA」)から、アートワーク部門シニアテクニカルアーティストのJean Sebastien Baril/ジーン セバスチャン バリル氏、Microsoft Studios傘下のTurn 10 Studios(以下「T10」)からは、コア・プロダクション部テクニカル・アート・ディレクターのArthur Shek/アーサー・シェック氏と、いずれも所属するゲーム会社に「SHOTGUN」を初めて取り入れたキーパーソンが登壇した。

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▲EAのJean Sebastien Baril/ジーン セバスチャン バリル氏。『Plants vs Zombies Garden Warfare 2』プロジェクトを皮切りに、EAが社内のスタジオで使用している多種多様なツールと「SHOTGUN」との統合に取り組んでいる

EAに入社したバリル氏は、インディ開発チームのように小規模であった『Plants vs Zombies Garden Warfare』のチームに注目する。小規模チームであれば、当時のEAにとって未知のツールである「SHOTGUN」の導入のPCDAサイクルを短期間で回すことができ、多少実験的で軽微な問題が起きたとしても影響範囲が小さいと考えてのことだろう。

『Plants vs Zombies Garden Warfare 2』(以下、『GW2』)から本格的にプロジェクトに関与したバリル氏は、プロジェクト管理ツールを「JIRA」から「SHOTGUN」に変更するとともに、パイプラインの自動化を推し進める。加えて、「SHOTGUN」のデータベースに格納されたタスクと作業時間の分析を行い、キャパシティに余裕のあるスタッフに対する追加タスクの割り当てを容易にした。

これらの改善の結果、『GW2』プロジェクトは、6つの新キャラクタークラスと100以上のプレイ可能なキャラクターの追加といったデータボリュームの拡大、シングルプレイヤーモードの追加やマルチプレイモードの最大参加可能人数の引き上げといった新機能の実装に成功する。

グラフィックリソースの共有化を促進する「Artworks」というチームにも所属しているバリル氏は、『GW2』の成果を踏まえた将来の展望として、自社ツール内でのタスクドリブンなビュー表示、「SHOTGUN」のデータベースを活用した各種パイプラインの管理や、可視化したスタッフ個々のキャパシティの全社共有、スタジオやプロジェクトチームで広範に活用できるプランニングツールの開発といった事項に取り組みたいとしていた。

オートデスク「SHOTGUN ゲーム業界ユーザ導入事例セミナー」

▲複数の異なるチームによるグラフィックリソースの重複開発を避け、グラフィックリソースの共有化を促進する「Artworks」メンバーとしてのBarilのゴール

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▲ちょっと意味がとりきれなかったのだが、自動化といってもプロシージャルに生成するということではない模様。データ作成の前準備やゲーム組み込み用データ出力の自動化を指していると思われる

EAのバリル氏に続いて登壇したT10のシェック氏は、縦横に際限なく続く「破滅のスプレッドシート」でのアセット管理の限界を示した。Excelをはじめとする表計算ソフトでは、柔軟に作表することができる反面、データベースのように格納するデータの正規化や値の制約を厳格に行わなくても良いため、見通しの悪いリストを作ってしまいがちだ。すでにデータで埋め尽くされたリストのビューレイアウトの変更も、後から行うのは困難が伴う。

オートデスク「SHOTGUN ゲーム業界ユーザ導入事例セミナー」

▲T10のArthur Shek/アーサー・シェック氏。「Forza Motorsport 6」のアートチームに「SHOTGUN」を導入する際のエピソードをユーモアを交えて語ってくれた

その点「SHOTGUN」は、シェック氏がメリットとして挙げた通り、バックエンドにデータベースを使用しているため、比較的柔軟にビューを作成することができる。たとえ技術的スキルに乏しいスタッフであったとしても、優れたユーザーインターフェイスを持つWeb画面で、カスタムビューやクエリを作ることはそれほど難しくない。
また、単一のデータソースとなるため、スプレッドシートでの管理のように異なるバージョンの管理シートを参照してしまったり、管理シートの更新ミスや更新漏れを起こすことがない。既存のツールで確立している開発パイプラインと統合するためのAPIも用意されており、柔軟にカスタマイズできることも大きいだろう。加えて、プロデューサーやディレクターといった、プロジェクトのマネージメントサイドが関心を持つアセット制作の達成度やスケジュールのレポートについても、グラフやチャートで美しくビジュアライズできる点を高く評価していた。

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▲伝統的なスプレッドシートやバグトラッカーを改良して管理することを断念したチームは「SHOTGUN」でのアセット管理に行き着く

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▲「SHOTGUN」で管理する『Forza Motorsport 6』のアセット。450以上の車種と26のコースが登場し、毎月10車種が追加される

<3>プロジェクト管理に「SHOTGUN」を導入する価値はあるか

結論としては、貴重な人材が数人がかりでExcelシートの保守にかかりっきりになっていたり、既存のプロジェクト管理システムに機能不足を感じているなら、まずは試験的に「SHOTGUN」を導入しても良いのではないだろうか。
「SHOTGUN」は無償で1ヶ月評価可能であり、DCCツールとは異なり評価期間の延長することもできる。採用する場合の利用料も1アカウントあたり月額30USドル(約3,600円)、年払いなら年額33,726円(税別)で利用できる。Turn 10の事例のようにアセット管理の改善を目的にグラフィックセクションのみに導入、という手もある。

一方で、テキストデータを主体としたソースコードやドキュメントの管理が中心であれば、導入を急ぐ必要はないだろう。「Git」や上述した「Subversion」といったバージョン管理システムに、「Redmine」などの既存のプロジェクト管理システムを連携させて管理すれば、プロジェクトの要件を十分に満たすこともあるからだ。

加えて、「SHOTGUN」でプロジェクトの何をどこまで管理するのか、導入に先立ってあらかじめ検討しておく必要がある。プロジェクト管理システムの運用で一般的によく言われることであり、オートデスクの渡辺氏もコメントしていたように、システムを導入しさえすればプロジェクトの抱える問題が一挙に解決するといったものではない。「SHOTGUN」がいかに優れたツールであったとしても、道具を使うのは、あくまで個々のチームメンバーであり、運用法はプロジェクト次第だ。

TEXT_谷川ハジメ(トリニティゲームスタジオ



  • オートデスク「SHOTGUN ゲーム業界ユーザ導入事例セミナー」
  • SHOTGUN ゲーム業界ユーザ導入事例セミナー
    日程:2015年12月10日(木)
    場所:秋葉原UDX GALLERY
    主催:オートデスク
    協力:Too、ボーンデジタル
    area.autodesk.jp/event/shotgun_game