<3>写真やCGパースと遜色ないVRコンテンツをめざして
『CVTバーチャルドライビング』の開発に際しては、走行体験にもこだわったという。本作は助手席視点での映像になっている。体験者が実際には運転しないのに、運転席に座らせることで発生する違和感を抑えるためだ。代わりに運転するのはCGのドライバーで、体がFinal IKで作られており、ハンドルに合わせて腕が動く。体験者が横を向くと、ドライバーもこちらを向いてくれる機能も盛り込んだ。走行感覚も細かく調整し、ジヤトコの車輌テストのエンジニアからも太鼓判が出たほどだという。
(左)カメラを頭上に上げた視点。本作がオープンカーによるシミュレータであること、体験者が助手席に座っていることがわかる/(右)体験者が前を向くと助手席からの映像になるが、右を向くとドライバーがいることがわかる
小田桐氏は「自動車は非常に身近な存在なので、ちょっとした違和感でもリアリティが損なわれてしまいます」と語る。そのためには適切に五感を「騙す」ことが必要だという。その一環として組み込まれたのが触覚=振動要素で、PCからのオーディオ信号をOSC経由でMAX MSPに伝達し、サイン波に変換した後にボディソニックで出力している。こうすることでエンジンの回転数に合わせた振動が実現された。
(左)PCからのオーディオ信号をOSC経由でMAX MSPに伝達し、ボディソニックで出力することで振動を表現している/(右)聴覚情報のエンジン音と触覚情報の振動が合わさってリアリティを高めている
そのほかに紹介されたのが、樹木のアニメーションだ。Unity 5では植物生成ミドルウェアのSpeedTreeが内蔵されているが、スタティック・バッチング(同じマテリアルを共有するメッシュをまとめて表示し、処理を軽くする仕組み)が効かないという欠点がある。本作では、ハイスペックPCを用いたため問題なかったそうだが、処理を軽くするには植物の葉に頂点カラーを設定し、それをUnityの頂点シェーダで受け取って揺らすという手法が有効とのこと。
(左)風にそよぎながら自然にアニメーションする樹木/(右)植物の葉に頂点カラーを設定し、Unityの頂点シェーダで受け取って揺らすと、低負荷で自然な揺れが表現できる
ちなみに同じ方式のシェーダはAdvanced Foliage Shader v.4というアセットに含まれており、これを使うと簡単に実装できるとのこと。道路脇の草むらはUnity 5のスタンダードシェーダに含まれているTessellationを使用して、板ポリゴンに凹凸を表現するやり方を紹介。もっとも、これも本作が走行を仮想疑似体験させるコンテンツで、同一方向に一瞬で通り過ぎてしまうため。そこで、こうした効率化が可能だったとも補足していた。
現行のv.4でUnity 5に対応したAdvanced Foliage Shader(20米ドル)。坂道の草や植物を正しくライティングしたり、フェーディングしていくビルボードなどを美しく表現できる
最後に関根氏は、「建築業界ではVRは写真やCGパースと比較される。そのため今後もフォトリアルなビジュアルによるVRコンテンツ制作にこだわりたい」と、今後の展望を語った。
言うまでもなく、快適なVR体験にはフレームレートの確保も必要だ。そのためには最終的に、エンジニアひとりひとりが知恵を絞って効率化を進めるしかない。そうして得られたノウハウを惜しげもなく公開する同社の姿勢に対して、聴講者からも惜しみのない拍手が送られていた。
TEXT & PHOTO(講演スライド)_小野憲史 / Kenji Ono
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
-
CGWORLD 2015 クリエイティブカンファレンス
参加費:無料 ※事前登録制
開催日:2015年11月22日(日)
場所:文京学院大学 本郷キャンパス(東京都文京区向丘1-19-1)
主催:ボーンデジタル、文京学院大学 コンテンツ多言語知財化センター 協力:文京学院大学、ASIAGRAPH CGアートギャラリー
cgworld.jp/special/cgwcc2015