<2>VFX主体の表現
確かな技術と表現力の下"未知なる制作"を克服する
前述したT.o.E.が紐状になり分裂していく表現をはじめとする、実写素材が介在するビジュアル制作をリードしたのが、瀬賀氏である。「"VFXパート"については、Houdiniをメインに、3ds Maxも併用するかたちで制作しました。紐状化エフェクトは、まずT.o.E.を演じた役者さんを3Dスキャンし、それを基にT.o.E.のキャラクターモデルを作成。その3Dジオメトリを糸巻き状にしてくれる変換ツールを鳥居(佑弥)TDに開発してもらいました。その上で、Wire Simulation機能で紐の動きを作成しています」(瀬賀氏)。紐がほどける方向などはアーティストが任意に決められるしくみになっているとのこと。
ドーム(全天周)かつS3Dの作品ということで一連のVFXワークにはステレオ工程も含まれているのだが、実写撮影は単眼のカメラで行われたため、実写素材が絡むショットは2D/3D変換で対応、フルCGのショットはL/Rそれぞれのカメラでレンダリング(4,096×4,096ピクセルのL/R)したという。「L/Rカメラリグについても、鳥居TDに360度の全周に対して視差が付けられるHoudini用のレンズシェーダを開発してもらいました(前ページ参照)」(瀬賀氏)。なお実写素材については、ドーム向けに魚眼レンズで撮影されたが、魚眼のゆがみ度合いが実写と3DCGでは異なるためNUKEによるコンポジット作業でゆがみの整合性がとられている。「コンポジット作業は、細かな調整が求められるショットはNUKEで作業を行い、逆にコンポジターを立てずにデジタルアーティストが一貫して対応できるショットはAfter Effects(以下、AE)を利用するといった具合に、できるだけ効率良く作業を進めることを心がけました」(瀬賀氏)。
実は瀬賀氏は、本作のプリプロ時は別の4K劇場長編案件のVFX作業が佳境だったため、その両立に苦労したそうだ。「今回初めてドーム映像の制作に携わったのですが、S3Dや360度コンテンツ制作に関する多くのノウハウを得ることができました。なによりも"未知なる表現"に取り組む際のコツみたいなものをつかむことができたのが自分にとって大きな収穫でした」(瀬賀氏)。
2−1.T.o.E.の紐状化エフェクト
▲T.o.E.役を演じたジェームス・サザーランドの3Dスキャニングデータを基に作成したモデル
▲T.o.E.の3Dジオメトリに対して今回開発したツールを用いて糸巻き処理を施すかたちで作成した紐状化させた例
▲HoudiniのUI、3Dモデルを紐に変換するためのノードツリーの一部(1箇所)。パーツ単位で分けられており、全部で8箇所、40本ほどの紐で構成されている
▲紐がバラバラに広がっていくアニメーション途中のキャプチャ
2−2.紐状T.o.E.のブレイクダウン。
2−3.量子力学における「ゆらぎの世界」をグリッドで表現
Houdiniの作業UI。
▲科学コンテンツにありがちなグリッドにしないために、ディテールを足すための様々な素材が作成された
▲ノードツリーのオーバービュー
▲ポイントクラウドを用いて人物の周囲を検索し、接地した部分を凹ますしくみを構築
本シーンのブレイクダウン(ドームマスター形式)。
▲最終コンプ。この表現はAEでコンポジット作業が行われた