<3>モーショングラフィックス主体の表現
抽象的な科学の概念をモーショングラフィックスで描く
"モーショングラフィックスパート"の制作をリードした河上氏は、もともとコンポジターとしてキャリアを重ねてきた後にモーショングラフィックスデザイナーへ転身した。「日頃から山本さんの下でやっていることもあり、ごく自然に今回も参加していました(笑)」(河上氏)。"モーショングラフィックスパート"の制作では、直感的な画づくりが行いやすいということで、河上氏が日頃からメインツールとしているCINEMA 4D(以下、C4D)とAEで作業を進めていき、制作の後半ではHoudiniやMayaなども併用したとのこと。「今回は、立体視への対応や後からの調整のしやすさを考慮してC4DのMoGraphを活用しました。ただ、見た目的に2D処理でも遜色がない表現についてはAEプラグインのPlexusを利用するといった具合に、効率良くつくることも心がけました」(河上氏)。C4Dで全天周かつS3Dのレンダリングを行うにあたっては、V-Ray for CINEMA4Dが用いられた。「V-RayのSphericalカメラを利用することで効果的な立体視を得ることができました。今回初めてドーム映像を制作したのですが、空間にビジュアルを配置するという感覚が新鮮でした。映像で空間を表現するというアプローチには、今後も積極的に取り組んでいければと思います」(河上氏)。
科学の概念をビジュアライズする上では、例えば「粒子の衝突」の表現にはCERNから提供された衝突データ(座標軸)が利用されているが、前ページで紹介したとおり、それらのデータをDCCツールに読み込むための各種ツールも開発された。一連の抽象的な科学の概念のビジュアライズの中でも特に悩んだのが"無の空間"こと、ビッグバンによって宇宙が生まれる前の表現だったという。「この表現を詰める上では、大栗教授に会いに行ったりもしました。最終的に宇宙が生まれる前という科学的な概念を、ドーム空間に満たされるサンドノイズのようなビジュアルで表現したのですが、伝えたいことの核心が押さえられていれば積極的に演出してもらってかまわないというのが日本科学未来館さんの方針だったので、クリエイティブワークはやりやすかったですね。また、メインラインのストーリーが実写ベースのため、観客の周りを粒子が飛び交うようなドームの特性を活かした純粋な視覚体験的な演出も積極的に取り入れているのが"モーショングラフィックスパート"の特色にもなっています」(山本氏)。
3−1.素粒子を表現する現
ニュートリノの可視化例。
▲C4DのUI(カメラビュー)。V-Ray for CINEMA 4Dは、通常のブレビューではマテリアルが反映されず黒く表示されてしまう仕様のため、色味を確認するために部分的にレンダリングしていたという
▲Sphericalカメラでレンダリングした例
▲V-Ray for CINEMA 4DのUI
コンポジット作業のながれを図示したもの。
▲ドームマスター形式に変換し、角度を調整
▲AEでカラコレや2Dエフェクトを追加
▲シーンをエディット
▲本番環境での試写を経て、完成形に近い表現(左)と、山本氏が描いた空間展開のプラン (右)
完成した原子の表現例。
3−2."無"をビジュアルで表現する
▲大栗教授と「限りなく0の瞬間に近づく時間」の表現に関してやりとりをした際のメモとイメージボード。鑑賞者がノイズに包み込まれるような空間の知覚が模索され
▲完成したビジュアル。最終的にはノイズの中にもぼんやりと具体的なイメージを垣間見るという演出にたどり着いた
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日本科学未来館ドームシアターガイア
『9次元からきた男』
4月20日(水)公開
監修:大栗博司
監督:清水 崇
ビジュアル・ディレクター:山本信一
脚本:井内雅倫
撮影:福本 淳
照明:市川徳充
宇宙進化シミュレーション映像:武田隆顕
編集:金山慶成
データ提供:The Illustris Collaboration(宇宙シミュレーション)、CERN〔欧州原子核研究機構〕(加速器データ)
制作・CG/VFX:オムニバス・ジャパン
企画・制作・著作:日本科学未来館
www.miraikan.jst.go.jp/sp/9dimensions/