>   >  実写カメラの基礎知識はCG制作にも必須の知識! ーカメラ知識をプリビズで活かそう!ー 事例:映画『進撃の巨人』&日産自動車TVCM
実写カメラの基礎知識はCG制作にも必須の知識! ーカメラ知識をプリビズで活かそう!ー 事例:映画『進撃の巨人』&日産自動車TVCM

実写カメラの基礎知識はCG制作にも必須の知識! ーカメラ知識をプリビズで活かそう!ー 事例:映画『進撃の巨人』&日産自動車TVCM

<2>TVCMにおけるプリビズ

リアルタイムプリビズで実写撮影をシミュレート

皆さんが毎日目にするCMの制作でも、プリビズは活用されています。CMは映画と同様に低予算・短期間での制作が求められているだけでなく、多忙な有名タレントが出演することも多いため、撮影時の拘束時間を短くする努力が求められます。プリビズはVFXやCGが絡む映像を制作する際だけでなく、実写撮影だけのCM制作でも活用されていますので、ここではその事例をみていきましょう。

CMの制作では、全ての制作スタッフが集まって撮影内容などを確認するオールスタッフミーティングというものがあります。私はそのミーティングの場で、スタッフ全員の意見を採り入れながら「リアルタイムプリビズ」を行います。監督だけでなく、キャメラマンや照明スタッフ、美術スタッフ、編集スタッフといった各担当の意見をプリビズに組み込んでいくことにより、全てのスタッフが納得できる撮影の方法や段取り、懸念事項の把握が可能となるのです。

昨年から話題になっている、矢沢永吉さんが自動運転の日産リーフに乗っている日産自動車のCMでは、いくつかの制約がある中でクルマが最も魅力的に見えるような撮影ができるポイントをプリビズで探しました。撮影は自動車のテストコースで行われるため、そのコースをCGモデルで作成し、撮影時間を考えながらクルマたちが走るコースを想定して、撮影機材を搭載するカメラカーの走る位置も検討し、本番撮影に臨みました。

このCMは、矢沢さんのアップからカメラを引いていって車種ラインナップの隊列を見せるようにするという演出意図を確実に達成しながら、非常に魅力的な映像に仕上がっていると思います。

さらに続編として、業務用バンであるキャラバンのCMもつくられました。日産リーフに乗っている矢沢さんのカットからラインナップ隊列に移行してキャラバンまでもっていく数種類の隊列を試し、最終的にこのピラミッド隊形の中をカメラが割っていく動きに決まりました。ラインナップの中でキャラバンが最も大きいため、隠すようなクルマの隊列と動きのタイミング、カメラ設定やカメラカーの動きをどうするかというところには気を遣っています。

LESSON _ 03-1
リアルタイムプリビズシステム


CM制作では、ミーティングの場にPCを持ち込み、スタッフ全員の意見を採り入れながらプリビズを構成する。ヴァーチャルカメラは使用しない。現状のシステムは設置に時間がかかるため、CMの作業には適さないからだ

LESSON _ 03-2
日産リーフの例 CM『自動ブレーキ標準化 矢沢篇』


プリビズ画面。内側の枠内がカメラで撮影できる範囲。その周辺の黒い帯部分は撮影はされないが、見えるようにしておくことで枠外にどれくらいの余裕があるのかを確認することができる


同じくプリビズ画面。テストコース内で、撮影されるクルマの隊列とカメラカーの位置関係を確認する。これにより、自動運転の開発技術者やドライバーが撮影する上で問題があるかを事前にチェックすることが可能だ


完成画の1コマ。実際に自動運転の日産リーフや自動ブレーキ装備のラインナップ車両を隊列で走行させ、カメラカーから実写撮影している

TVCM『自動ブレーキ標準化 矢沢篇』

LESSON _ 03-3
キャラバンの例(1)
CM『自動ブレーキ キャラバン 矢沢篇』


業務用バンであるキャラバンのCMの1シーンより、プリビズ画面。右下に使用するレンズの情報を表示させている。いくつかの隊列パターンをプリビズでチェックし、このピラミッド 型隊列に決定した


隊列とカメラとの位置を確認している。この映像制作でもカメラカーを使用し、撮影車両と並走して撮影を行なっている。クルマの走行スピードとカメラカーの動くタイミングもチェックしておく


前作と同様に、自動運転車である日産リーフをはじめ、自動ブレーキ搭載の日産自動車ラインナップが隊列を組んで走行する

LESSON _ 03-4
キャラバンの例(2)
CM『自動ブレーキ キャラバン 矢沢篇』


キャラバンのCMの1シーン。決めのディスプレイカットだ。キャラバンの実用性を兼ね揃えた格好良さを強調するアングルで捉えられている


プリビズ画面。このディスプレイカットを実現するためには、カメラカーがラインナップのクルマたちとキャラバンの間に入り、右側へ回り込むように移動する必要があった。この動きのために各ドライバーがどういう操作をしなければいけないかをプリビズを使って把握し、撮影に臨んでいる


完成画

TVCM『自動ブレーキ キャラバン 矢沢篇』

統括:映像制作におけるカメラ設定の重要性

黒澤 明監督や小津安二郎監督、溝口健二監督といった日本映画監督の演出術は今でも世界の映画人たちのバイブルとなっています。彼ら巨匠たちの映像の素晴らしさはまさに撮影術の妙と言えるのではないでしょうか。黒澤監督が望遠レンズを好んで使われたのは有名ですし、小津監督の好みのレンズは50mmだったそうです。映像制作においてカメラ設定というものはそれだけ重要であり、映像の質を高める要素なのです。それはCG制作においても同じでしょう。モデリングやアニメーションと同様に、カメラ設定が的確になされていることが、制作する映像をより素晴らしいものにするために必要な技術と言えるのではないでしょうか。

ぜひプリビズを活用して、実写でもCGでも、制作する映像に最も適したカメラ設定を探してみてください。そうすることで、日本の映像制作技術の本当の真価を見せることができると私は信じています。

  • 月刊CGWORLD + digital video vol.212(2016年4月号)
    第1特集「カメラの基礎知識」
    第2特集「アニメCGブースト」ほか

    定価:1,512円(税込)
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    発売日:2016年3月10日
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