>   >  E3の影で広がるインディゲームという名の新しいムーブメント
E3の影で広がるインディゲームという名の新しいムーブメント

E3の影で広がるインディゲームという名の新しいムーブメント

<3>日本発のインディゲーム『蒼き雷霆ガンヴォルト爪』

Mixでは日本企業の姿もみられた。元カプコンのメンバーが中心になり、1996年に独立したインティ・クリエイツだ。大手ゲーム会社からの受注開発が中心だったが、2014年に初のオリジナルタイトル『蒼き雷霆(アームドブルー)ガンヴォルト』をニンテンドー3DSとPCでダウンロード発売した。元カプコンの稲船敬二氏とタッグを組んで開発したアクションゲームで、日本以上に海外で人気を博したタイトルとなった。

ブースではニンテンドー3DS向けに今夏発売予定の続編『蒼き雷霆 ガンヴォルト爪(ソウ)(英語名:Azure Striker GUNVOLT 2)』が出展され、代表の會津卓也氏が、自らゲームのアピールを行なっていた。企業も個人開発者も仲良く同じサイズのテーブルで出展する、いわゆる「コミケ」スタイルだ。日本のゲーム会社が、こうした海外の草の根イベントに出展する例は珍しく、ゲームを試遊する来場者で常にごったがえしていた。

『蒼き雷霆ガンヴォルト爪(アームドブルー ガンヴォルト ソウ)』第1弾PV
SF系ライトノベル調の世界観と、スピーディーな攻防やコンボの爽快感が特徴的な2D横スクロールアクションゲーム。新たな敵である多国籍能力者連合「エデン」の出現に、ガンヴォルトとアキュラという二人の戦士が立ちむかっていく。ニンテンドー3DSのデジタル流通プラットフォーム「ニンテンドーeショップ」で今夏配信予定だという


日本に比べて北米での販売数が2.5倍にのぼった『ガンヴォルト』のセールス。そこで『2』の発売でも、北米向けの販促展開が検討された。しかし大手と異なり潤沢な予算があるわけではない。そこで選択されたのが、SNSでの情報発信と併せて、海外の小規模イベントに数多く出展し、草の根的な情報拡散をねらう戦略だ。そうした中、Nintendo of America(アメリカ任天堂)から勧められたのがMixへの出展で、まさに渡りに船だったという。

「E3会場内のIndiecadeでは、3日間ブースに担当者が張り付きとなります。そのため、その人物は取材を受けることも、他のブースを視察することもできません。これは弊社のような小規模デベロッパーには正直、痛手です。これに対してMixは正味4時間のイベントで、E3の開場時間外に設定されています。そのためE3の出張に合わせて、同じスタッフが集中して対応できます」(會津卓也代表取締役社長)。

E3の影で広がるインディゲームという名の新しいムーブメント

近年インディゲーム界で流行しているピクセルアートスタイルのアクションゲーム。『ガンヴォルト爪』もこうした文脈の下にあるタイトルだ。ハードコアゲーマーを中心に根強いファンがいるジャンルでもあり、多くの参加者が試遊していた(写真提供:インティ・クリエイツ)

Mix出展に際して、「インディゲームが好きなプレイヤーや、インディゲーム開発者との情報交換や交流」を目的に掲げていたという會津氏。これについては完全に達成できたという。またプレイヤーの反応についても総じてポジティブで、特にゲームの根底となるアクション性の部分を賞賛されることが多かったという。「ゲーム性を第一に評価する文化があるのだなと感じました」(會津氏)。

日本のゲーム会社がMixに出展するメリットについても、會津氏は「北米のブロガーに直接アピールする場として、とても有効だと感じる」と語った。インディゲームでは大手の情報発信サイトだけでなく、個人ホームページやブログ、Twitter、Facebookなどでの口コミ効果も大きいからだ。場合によってはページ登録者数が10万人を越える人気ユーチューバーにもプレイしてもらえる可能性があり、出展機会として無視できないという。

同社では今後もアニメエキスポ(7月、LA)、ビットサミット(7月、京都)、オタコン(8月、ボルチモア)、PAXプライム(9月、シアトル)、東京ゲームショウ(9月、千葉)など、世界中のイベントに出展を計画している。こうした機会を通してユーザーと直接交流し、ネット上でコミュニティを育てていく方針だ。まさにインディゲームならではの販促戦略だといえるだろう。また、Nintendo of Americaがこうした草の根イベントの価値を理解し、企業に推薦してくる点も興味深く感じられた。

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ブースで参加者と直接交流する會津氏。日本のゲーム開発スタジオが海外の草の根イベントに出展すること自体、非常に珍しい(写真提供:インティ・クリエイツ)

Mixではインティ・クリエイツ以外にも、京都のゲーム開発会社キューゲームズから独立したメンバーを中心に起業したFunktronic Labsなど、日本にゆかりのあるインディゲーム開発者の姿も見られた。『風ノ旅ビト』など数々のインディゲームを生み出す母体となった南カリフォルニア大学(USC)が新たに「USC Games」を設立し、PS4にサードパーティとして参入。Mixでも学生たちが中心となってブース出展しており、こちらも驚かされた。

『COSMIC TRIP』(Funktronic Labs)
元キューゲームズからの独立組が制作したHTC Vive専用ゲーム。コントローラーを銃に見立てて、フリスピーの要領で四方八方から迫り来る敵を撃退していく。ゲームはリアルタイムストラテジーで、基地を拡充しながら敵エリアを征服すれば勝利だ


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Funktronic Labsの設立者、Eddie Lee/エディー・リー氏(中央)と共同設立者のKALIN/カリン氏(左)。リー氏は東京ゲームショウ2013で開催された「センスオブワンダーナイト」イベントで、インディゲーム『Kyoto』を発表した経験もある

長くE3といえば日本のゲーム開発者にとって海の向こうの話で、どこか他人事めいて聞こえていた。その脇でインディゲームを中心に、こうした新しい動きが広がっている。インターネットの普及で世界が狭くなった結果だ。インディゲームとは「自分たちが作りたいモノを作る」という精神であり、法人や個人といった形態は関係ない。そうしたインディゲームの世界的な潮流や、勢いが感じられたE3だった。

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