世界最大級のゲーム見本市「E3(Electronic Entertainment Expo)」。今年も米ロサンゼルスで6月14日から16日まで、関連イベントを含めると7万人以上の集客を集めて開催された。任天堂・ソニー・マイクロソフトのゲーム機メーカーを筆頭に、大手パブリッシャーの巨大ブースがずらりと並び、新型ハードや大作ゲームの新情報が発表される。世界のゲームビジネスの中心地ともいえるイベントだ。今回は、インディゲームをキーワードに本イベントをレポートする。

TEXT & PHOTO_小野憲史
EDIT_沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)

<1>インディ(独立系)ゲームが集まる「IndieCade」ブース

E3は大企業以外は関係ないイベントと思われがちだ。事実、E3は米業界団体「ESA(Entertaimnent Software Asociation)」が主催する、パッケージゲームの合同商談会&メディア向けの新作発表会としてスタートした。第1回のE3が開催されたのは1995年で、ちょうどアメリカでPlayStationとセガサターンが発売された年。それ以来、E3は家庭用ゲームやPCゲームの成長と共に進化を続けてきた。

しかしスマホゲームなどの拡大や、デジタル流通の進展に伴い、E3にも変化が見られるようになった。インディ(独立系)ゲームが集まる一角、「IndieCade」ブースがそれだ。今年もタブレットを内蔵した縫いぐるみとセットで楽しむ新感覚の絵本や、シカゴに住む高校生となって現実に起きている諸問題を実感するアドベンチャーゲーム、ゾンビになって跳ね回るゲームなど、個性豊かな34作品がデモを行なっていた。

E3の影で広がるインディゲームという名の新しいムーブメント

『シムシティ』のウィル・ライト氏や、GDCでディレクターを務めたジャミル・モルディナ氏など、蒼々たるメンバーが発起人に名を連ねている。出展数の減少が続くE3で、IndieCadeは今や欠かせない存在となった

E3の影で広がるインディゲームという名の新しいムーブメント

『Octobo』(Thinker-Tinker)
縫いぐるみにアプリをインストールしたタブレットを差し込み、絵本を開いて貝や海藻といったアイテムを口元にセットすると、タブレットの画面が様々な表情に変化する。親子で絵本の読み聞かせを楽しむという内容だ
youtu.be/2EXTGtLdEL0


E3の影で広がるインディゲームという名の新しいムーブメント

『We are Chicago』(Culture Shock Games)
シカゴの最も危険な地域で暮らす高校生となって、暴力やギャングが身近に存在する生活を仮想体験するアドベンチャーゲーム。実際に現地で生活している人々への取材に基づいてシナリオが作成されており、社会派ゲームという側面をもつ


E3の影で広がるインディゲームという名の新しいムーブメント

『We are Chicago』の開発を主導したMichael Block/マイケル・ブロック氏(Culture Shock Games)。来日経験もあり、京都でインディゲーム開発者との交流を楽しんだという

E3の影で広がるインディゲームという名の新しいムーブメント

『Zombies Shall Not Pass!』(Wengu Hu)
LeapMotionを使用するアクションゲーム。モニタの前で両腕を伸ばし、まるで自分がゾンビになったかのようなスタイルで世界を徘徊できる。両腕を上下にぶらぶらさせて警官を倒すことも可能だ。サイケデリックな映像と音楽も印象的だ
youtu.be/NWp2Mo4ton4


「IndieCade」はゲーム業界で大作志向の進展と、それによるゲーム内容の硬直化が強まる中、現状の変革を求める業界有志らによって2005年に発足した。2009年からはインディゲームのデモイベントも開催している。2016年はE3以外にロサンゼルスで10月、パリで11月と、3回のイベントが開催される予定だ。デモに加えて、インディゲーム開発者の講演やパーティなども開催され、開発者と投資家が出会う場としても機能している。

次ページ:
<2>インディゲーム向けの展示イベント「The Mix(Media Indie Exchange)」

[[SplitPage]]

<2>インディゲーム向けの展示イベント「The Mix(Media Indie Exchange)」

一方でE3会期中の6月15日(水)には、隣接する商業施設でインディゲーム向けの展示イベント「The Mix(Media Indie Exchange)」が開催された。2012年にスタートし、E3やGDC、SIGGRAPHといったイベントに合わせて開催されてきたイベントだ。「he Mix E3 2016」はビルのオープンテラスに机やPCなどを持ち込んで開催され、手作り感にあふれた雰囲気が印象的。全45タイトルが出展され、ビールを片手に活発な交流が行われていた。

E3の影で広がるインディゲームという名の新しいムーブメント

伝説の「ホームブリュー・コンピュータ・クラブ」を彷彿とさせるようなMIXの雰囲気。長机にPCを並べてデモするスタイルで、ビジネスというよりサークル出展といった印象だ

『CHAMBARA』(team ok)
最大4人までプレイできる対戦アクションゲーム。プレイヤーは白と黒の世界で二陣営に分かれて戦っていく。自分の色と同じエリアにいると姿を隠せるため、上手く近づいて太刀や手裏剣で倒すのがコツだ。USC Games第1弾で、学生が中心になって開発された


E3の影で広がるインディゲームという名の新しいムーブメント

『CHAMBARA』を開発したKevin Wong/ケビン・ウォン氏(左)とCathy Trang/キャシー・トラン氏(右)。PS4向けに開発が進んでおり、Xbox OneやPCでもリリースが検討されている。大学が家庭用ゲームのパブリッシャーになるという前代未聞のスタイルだ

『Disc Jam』(High Horse Entertainment)
エアホッケーと同じルールで、最大4人まで気軽に遊ぶことができ、オンライン対戦にも対応している。シンプルな内容だが思わず熱くなる内容だ。キャラクターや必殺技の追加といった要素を加えてリリースしたいとのこと


E3の影で広がるインディゲームという名の新しいムーブメント

High Horse Entertainment創設者のJay Mattis氏(左)。アクティビジョンで『Call of Duty』シリーズなどの開発に携わった後、2014年3月に独立した。サンタモニカにスタジオを構えている

次ページ:
<3>日本発のインディゲーム『蒼き雷霆ガンヴォルト爪』

[[SplitPage]]

<3>日本発のインディゲーム『蒼き雷霆ガンヴォルト爪』

Mixでは日本企業の姿もみられた。元カプコンのメンバーが中心になり、1996年に独立したインティ・クリエイツだ。大手ゲーム会社からの受注開発が中心だったが、2014年に初のオリジナルタイトル『蒼き雷霆(アームドブルー)ガンヴォルト』をニンテンドー3DSとPCでダウンロード発売した。元カプコンの稲船敬二氏とタッグを組んで開発したアクションゲームで、日本以上に海外で人気を博したタイトルとなった。

ブースではニンテンドー3DS向けに今夏発売予定の続編『蒼き雷霆 ガンヴォルト爪(ソウ)(英語名:Azure Striker GUNVOLT 2)』が出展され、代表の會津卓也氏が、自らゲームのアピールを行なっていた。企業も個人開発者も仲良く同じサイズのテーブルで出展する、いわゆる「コミケ」スタイルだ。日本のゲーム会社が、こうした海外の草の根イベントに出展する例は珍しく、ゲームを試遊する来場者で常にごったがえしていた。

『蒼き雷霆ガンヴォルト爪(アームドブルー ガンヴォルト ソウ)』第1弾PV
SF系ライトノベル調の世界観と、スピーディーな攻防やコンボの爽快感が特徴的な2D横スクロールアクションゲーム。新たな敵である多国籍能力者連合「エデン」の出現に、ガンヴォルトとアキュラという二人の戦士が立ちむかっていく。ニンテンドー3DSのデジタル流通プラットフォーム「ニンテンドーeショップ」で今夏配信予定だという


日本に比べて北米での販売数が2.5倍にのぼった『ガンヴォルト』のセールス。そこで『2』の発売でも、北米向けの販促展開が検討された。しかし大手と異なり潤沢な予算があるわけではない。そこで選択されたのが、SNSでの情報発信と併せて、海外の小規模イベントに数多く出展し、草の根的な情報拡散をねらう戦略だ。そうした中、Nintendo of America(アメリカ任天堂)から勧められたのがMixへの出展で、まさに渡りに船だったという。

「E3会場内のIndiecadeでは、3日間ブースに担当者が張り付きとなります。そのため、その人物は取材を受けることも、他のブースを視察することもできません。これは弊社のような小規模デベロッパーには正直、痛手です。これに対してMixは正味4時間のイベントで、E3の開場時間外に設定されています。そのためE3の出張に合わせて、同じスタッフが集中して対応できます」(會津卓也代表取締役社長)。

E3の影で広がるインディゲームという名の新しいムーブメント

近年インディゲーム界で流行しているピクセルアートスタイルのアクションゲーム。『ガンヴォルト爪』もこうした文脈の下にあるタイトルだ。ハードコアゲーマーを中心に根強いファンがいるジャンルでもあり、多くの参加者が試遊していた(写真提供:インティ・クリエイツ)

Mix出展に際して、「インディゲームが好きなプレイヤーや、インディゲーム開発者との情報交換や交流」を目的に掲げていたという會津氏。これについては完全に達成できたという。またプレイヤーの反応についても総じてポジティブで、特にゲームの根底となるアクション性の部分を賞賛されることが多かったという。「ゲーム性を第一に評価する文化があるのだなと感じました」(會津氏)。

日本のゲーム会社がMixに出展するメリットについても、會津氏は「北米のブロガーに直接アピールする場として、とても有効だと感じる」と語った。インディゲームでは大手の情報発信サイトだけでなく、個人ホームページやブログ、Twitter、Facebookなどでの口コミ効果も大きいからだ。場合によってはページ登録者数が10万人を越える人気ユーチューバーにもプレイしてもらえる可能性があり、出展機会として無視できないという。

同社では今後もアニメエキスポ(7月、LA)、ビットサミット(7月、京都)、オタコン(8月、ボルチモア)、PAXプライム(9月、シアトル)、東京ゲームショウ(9月、千葉)など、世界中のイベントに出展を計画している。こうした機会を通してユーザーと直接交流し、ネット上でコミュニティを育てていく方針だ。まさにインディゲームならではの販促戦略だといえるだろう。また、Nintendo of Americaがこうした草の根イベントの価値を理解し、企業に推薦してくる点も興味深く感じられた。

E3の影で広がるインディゲームという名の新しいムーブメント

ブースで参加者と直接交流する會津氏。日本のゲーム開発スタジオが海外の草の根イベントに出展すること自体、非常に珍しい(写真提供:インティ・クリエイツ)

Mixではインティ・クリエイツ以外にも、京都のゲーム開発会社キューゲームズから独立したメンバーを中心に起業したFunktronic Labsなど、日本にゆかりのあるインディゲーム開発者の姿も見られた。『風ノ旅ビト』など数々のインディゲームを生み出す母体となった南カリフォルニア大学(USC)が新たに「USC Games」を設立し、PS4にサードパーティとして参入。Mixでも学生たちが中心となってブース出展しており、こちらも驚かされた。

『COSMIC TRIP』(Funktronic Labs)
元キューゲームズからの独立組が制作したHTC Vive専用ゲーム。コントローラーを銃に見立てて、フリスピーの要領で四方八方から迫り来る敵を撃退していく。ゲームはリアルタイムストラテジーで、基地を拡充しながら敵エリアを征服すれば勝利だ


E3の影で広がるインディゲームという名の新しいムーブメント

Funktronic Labsの設立者、Eddie Lee/エディー・リー氏(中央)と共同設立者のKALIN/カリン氏(左)。リー氏は東京ゲームショウ2013で開催された「センスオブワンダーナイト」イベントで、インディゲーム『Kyoto』を発表した経験もある

長くE3といえば日本のゲーム開発者にとって海の向こうの話で、どこか他人事めいて聞こえていた。その脇でインディゲームを中心に、こうした新しい動きが広がっている。インターネットの普及で世界が狭くなった結果だ。インディゲームとは「自分たちが作りたいモノを作る」という精神であり、法人や個人といった形態は関係ない。そうしたインディゲームの世界的な潮流や、勢いが感じられたE3だった。