HDRIの活用
カットに合わせた臨機応変な調整
具体的な手順は、まず使用するHDRIを選択し、キーライトの方向を回転させて実写プレートに合わせる。基本的にEmit LightはONにする(映り込みとして使う場合はOFFにする)。IBLのライトは、半自動的にHDRIの輝度情報を基にしてライトに変換されるが、その際IBLのUVに沿ったQuality U、Quality Vの値で、HDRIをライトに置き換える精度を調整する。数値を上げれば品質は上がるが時間もかかり、上げすぎてもノイズが出やすくなる。サンプルの規定値は256だが、白組では思いきって規定値より低い数値にしているそうだ。
また、HDRIによってもレンダリング時間は変わるそうで、太陽がひとつの屋外と蛍光灯がたくさんある室内などでは、後者の方が重くなる。杓子定規にマニュアル通りにするのではなく、画のクオリティ基準をチームで共有し、自分たちで検証することも大切だ。カットによってはレンダリングでブラーをかけずにコンポで加えるなど、後工程でのフォローも含めて、常に時間とクオリティのせめぎ合いをしているという。結果、ミギーのレンダリングは標準的なサイズで約1分と時間短縮に成功した。
実作業では、HDRIを設定して終わりではない。現状使っているHDRIでは、太陽がもつ高輝度を再現しきれないことや、IBLライトのQualityを下げているため高輝度のところが上手くサンプリングに当たらないことがあるなどの理由で、IBLのほかにライトを一灯足すことが多い。また、カメラや被写体、ライトが動く場合は、ライトを作成して実写プレートに合せて動かす必要がある。Emit LightをOFFにして、環境ライトとAOだけを使う場合もあるそうだ。このように、HDRIを置くだけでなく、演出としてのクリエイティブなライティング知識が必要となってくる。最後に使いやすいHDRIはどのようなものか聞いてみると、カットごとのワンオフが最良だが、曇りのHDRIがあると取り回しが良いそうだ。それをベースにキーライトを置くと、良い仕上がりなるという。
HDRIの比較
白組社内で「ミギーの旅」と呼ばれているHDRIを用いた質感確認のためのテストカット。現場で撮影してきたHDRIの中にミギーを置き、違和感がないかチェックした。HDRIのライティングのみで上手く馴染ませている。HDRIが変わることでライティングも変わることがひと目でわかり興味深い
ミギー
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分断されたミギーが泉 新一の下へ戻ってきたカットのMaya作業画面。HDRI以外にも、演出用のライトがいくつか置かれている -
実写プレート。腕が見えないのでこれだけだとイメージしづらい。奥はグリーンバックになっている
HDRI×ライト
新一が長い距離を歩くシーンの作業画面。MayaのIBLライトはスフィアをひとつしか持てないため、キャラクターやカメラが動くときはライトを足して動かすなど、動的に合わせていく。このシーンではIBLライトのEmitLightをOFFにして環境ライトとして使い、足したライトで実写プレートと合うようなライティングを演出した。設定はQuality UとVが28と低い値にすることで、負荷を抑えている