>   >  「映画はクイズではない」ピクサーのカメラコントロールに見る映像演出の舞台裏〜「コンテンツ東京 2016」レポート(2)
「映画はクイズではない」ピクサーのカメラコントロールに見る映像演出の舞台裏〜「コンテンツ東京 2016」レポート(2)

「映画はクイズではない」ピクサーのカメラコントロールに見る映像演出の舞台裏〜「コンテンツ東京 2016」レポート(2)

<3>動くものはちゃんと動く、止まるものはちゃんと止まる

続いて第2のルールは、「動くものはちゃんと動く、止まるべきものはちゃんと止まる」というものだ。これにはタメやツメといった、心地の良い動きも含まれる。『モンスターズ・ユニバーシティ』では壁越しにカメラが移動しながら、モンスターたちのグループが次々に登場するシーンがある。ここでもカメラは移動とパンの動きが組み合わさり、緩急をつけながら複雑な動きが設定されている。一方で壁に打ち付けられたリベットの位置が微妙に動いて見えるような場面もあった。こうしたミスは必ず修正されるという。

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『モンスターズ・ユニバーシティ』の学園祭シーン中のひとコマ。カメラワークを作成する際は、図のようにシーン全体を捉えた俯瞰ショット(上段)とカメラビュー(下段)を見比べながら、丁寧に動きが付けられていく

「映画はクイズではない」ピクサーのカメラコントロールに見る映像演出の舞台裏〜「コンテンツ東京 2016」レポート(2)

キャラクター自体の動きと同様にカメラワークも最終的には手作業で細かな修正が施される。ちょっとした動きのミスが演出意図を台無しにしかねないため、何度もアニメーションを確認しながらブラッシュアップされていく

<4>カメラワークを通して映像に意味を埋め込む

第3のルールは、「カメラワークを通して、映像に意味を埋め込む」だ。『インサイド・ヘッド』では終盤に母親がハンドバッグをテーブルに置きっ放しにするシーンがある。母親の移動後もカメラは動かないが、これは娘のライリーが中にある財布を盗んで家出するシーンの伏線にするため。また故郷のミネソタですごした親子三人による回想シーンは、最後にズームアウトしながらフェードアウトしていく。これも観客に対して「子供時代の楽しかった記憶が精算され、新しい世界が訪れる」ことを示す意味合いがある。

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『インサイド・ヘッド』後半シーンより。母親がフレームアウトしてもカメラはテーブルを捉えたアングルを保つ。テーブルの上に置かれたハンドバッグの存在を観客にアピールすることで、ストーリー上の伏線へと視覚的につなげている。上段はアニメーション工程のショット、下段がファイナルイメージ

<5>被写界深度による意味づけ

被写界深度に関するルールも紹介された。「ボケのコントールを通して、観客に対して画面のどこを見て欲しいか明確にする」というものだ。『カーズ2』のレースシーンでは当初、スターティンググリッドにいるライトニング・マックイーンにきちんとピントが合っていなかった。監督のジョン・ラセター氏から、ファイナルレンダリングの試写でこの点について指摘されたカープマン氏は、穴があったら入りたい思いをしたという。あわててレンダリングをしなおし、事なきを得たとのことだった。

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映画『カーズ2』より。左図では画面中央・奥にいる主人公ライトニング・マックイーンがフォーカスアウトしているが、零号試写の際にそれを指摘され慌ててフォーカスを修正(右図)したそうだ

宝石のカッティングのように、カメラのコントロールは全てが完璧でなければならない・・・。背景にあるのがグローバル市場を当初からみすえたピクサーの作品づくりだ。同社の作品はしばしば、言語がわからなくても、画面をみればなんとなく意味がわかるようにつくられていると言われる。その背後にあるのが、このように徹底したカメラコントロールだ。普段当たり前のように見ている映像が、徹底した品質管理を経て世に送り出される。その意味をあらためて想起させられるセッションだった。

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『モンスターズ・ユニバーシティ』より。観客に注目してほしいのは、主人公のマイクとサリーなのか、その対面にいる群衆なのか。当初は主人公たちにフォーカスを合わせていたが、このシーンに込められたメッセージから群衆にもピントを合わせるべきだという結論に達し、深い被写界深度へと修正された

「映画はクイズではない」ピクサーのカメラコントロールに見る映像演出の舞台裏〜「コンテンツ東京 2016」レポート(2)

『モンスターズ・ユニバーシティ』より。ロングショットで被写界深度を浅くすると、図のようにミニチュアのように見えてしまうため注意が必要だという

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