Topic 3 ライティング&コンポジット
ArnoldとPer Light AOVsにより思い通りの"自然な画"を演出
「舞台が日常なので、違和感なく表現するためには、まずレンダラに素直な画を出させる必要があると考えました」と語るのは、ライティング&コンポジットのスーパーバイザーを務めた堀井龍哉氏。人の手が入りすぎると不自然さが出るため、まずはコンポツリーを組み、フローもシンプルなものにした。ライティングもFurありきで行い、トータルで満足のいく画にするまで非常に苦労したという。
ツールの検討を行なった結果、他部署に働きかけ、プロジェクトにArnoldの導入を進めた。去年の6月くらいから転換をはじめ、2ヶ月で完全に乗り換えを完了した。Arnoldは、大きなデータを扱うことができ、かつ動作の安定性が高いレンダラだ。また、様々なログを取得することができるため、クラッシュした場合の問題の特定が容易という特徴がある。レンダリングにかかった時間は、短いもので1枚30分、長いもので2時間程度となっている。レンダリングそのものに関しては、ノイズの除去に苦労はしたが、それでもmental rayの使用時と比較して大幅に試行錯誤の回数を減らすことができたという。毛の質感を思い通りに表現できるようになるまで、モデル・レンダリング共に試作をくり返し時間がかかっていたため、全体的には一部背景のレンダリングを優先的に進めるなどの工夫も行なっている。
また、大垣氏に前述のPer Light AOVsを開発してもらったことで、ライトの管理が格段に楽になったという。「常にキャラクターの目にキャッチライトを当てたい」という監督のオーダーに応えるために、このシェーダに合わせてキャッチライトの場所を決め、いったん機械的に配置し、最終的な調整を手で行なったとのこと。
コンポジットにはNUKEが用いられた。フォトリアルで映像を作成するため、まずカメラの挙動を模したツリーを構築し、ショットで演出があれば都度調整を行うというかたちを採った。自然さを出すことに徹底的にこだわったため、演出をどこまで入れるかといったところには大変気を遣ったという。
特に見てほしいのは時間の移り変わりを表現した部分である。ルドルフがデビルと戦う明け方の光の演出や、ルドルフの最後の旅のシーンなど、キャラクターの心情にも寄り添いつつ細やかな感性で描かれる空気感の移り変わりが、実際にそのシーンに入り込んでしまったような感覚を視聴者に与えてくれるだろう。
Per Light AOVs
Per Light AOVsの解説スライド。各ライトからの照明計算を個別の画像に保存することで、各ライトの色や強さを再レンダリングの必要なく後から変更することが可能になるというもの。Mayaに戻る回数を減らし、コンポジットでフットワークよくライティング作業ができないかといったところから始まった
ライトにAOVを振ることで管理のしやすさを高めた。どのIDにどのライトを振るかあらかじめ決めておけば、コンポジットの手間を大きく減らすことができる。本作では1を空、2を発光体に固定した
夜のシーンでの活用例
実際に使用されたMayaのシーン
実際に使用されたコンポジットのツリー。すっきりと整理されている
光の演出が際立つ4シーン