>   >  『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズから『シン・ゴジラ』まで、スタジオカラーが庵野秀明と共に積み上げてきたCG活用の歴史をたどる 〜「あにつく2016」レポート<2>〜
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズから『シン・ゴジラ』まで、スタジオカラーが庵野秀明と共に積み上げてきたCG活用の歴史をたどる 〜「あにつく2016」レポート<2>〜

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズから『シン・ゴジラ』まで、スタジオカラーが庵野秀明と共に積み上げてきたCG活用の歴史をたどる 〜「あにつく2016」レポート<2>〜

<3>実写映画『シン・ゴジラ』のプリビズ制作など、広がりをみせるスタジオカラーの3DCG技法

スタジオカラーとドワンゴの主催による「日本アニメ(ーター)見本市」では、R&Dや人材育成を目的とし、様々なスタジオやクリエイターによるオムニバス短編アニメーション作品のWeb配信が行われた。デジタル部制作としても3作品を発表し、鈴木氏はその全てに関わった。

『HILL CLIMB GIRL』(2014)では、鈴木氏はリグ班(3Dキャラクターをどう動かすか準備するセクション)のリーダーとして参加。とにかく"動きのボキャブラリー"を増やそうとしたという。

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズから『シン・ゴジラ』まで、スタジオカラーが庵野秀明と共に積み上げてきたCG活用の歴史をたどる 〜「あにつく2016」レポート<2>〜

「日本アニメ(ーター)見本市」第2話『HILL CLIMB GIRL』(2014)
© nihon animator mihonichi LLP.


鬼塚氏が監督を務めた『神速のRouge』(2015)ではコンテのないカットがあり、3Dアニメーターから様々なアイデア出しが行われた。「他の2本と比べてもコンテからカットが変わっている量が多い作品ですね」と、鈴木氏は述べる。さらに『カセットガール』(2015)では、3DCGによるセルアニメ調のエフェクトの模索を筆頭に、アクションアニメの追求がなされたことが語られた。

また、「日本アニメ(ーター)見本市」では多数の「オープニング」アニメが公開されたが、デジタル部で手がけた『オープニング スタジオカラーバージョンD』は、コンテのない状態で完全にプリビズから作成されたのだという。

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズから『シン・ゴジラ』まで、スタジオカラーが庵野秀明と共に積み上げてきたCG活用の歴史をたどる 〜「あにつく2016」レポート<2>〜

「日本アニメ(ーター)見本市」『オープニング スタジオカラーバージョンD』
© nihon animator mihonichi LLP.


『:Q』で取り入れられ始めたプリビズの手法を全面的に活用した作品が『シン・ゴジラ』。本来アニメスタジオであるスタジオカラーが、実写映画のプリビズを担当することになった。

本セッションで紹介されたのは、多摩川を挟んでゴジラと自衛隊が対峙する緊張感と高揚感のあるシーンだ。鬼塚氏によれば、この「タバ作戦」のシーンでは人物の芝居の部分は画コンテがあったが、戦車やゴジラといったCGパートはほぼ画コンテに縛られずプリビズだけでカメラワークを含めた演出を作り上げたのだという。ヴァーチャルカメラを使って大量のカットを撮影し、それを編集の中で構成していくという作り方が確立された。

庵野総監督は、出来上がったものが自分のイメージと違えばどれだけ作業が進んでいようとも作り直す、職人肌のクリエイター。その点、どんどんカメラワークを変えて試すことができ、"完成形"を具体的にイメージできてから各セクションの実作業に取りかかれるプリビズは、もってこいの手法だったと言えよう。

<4>スタジオカラーが考える「これからのデジタルワーク」

講演の終盤ではこれからのデジタルワークへの展望が語られた。カラーが掲げるキーワードは、やはりプリビズである。「庵野監督は『脚本からプリビズまでで、完成までの制作費とクオリティを把握したい』と考えています。プリビズの段階で、完成作品の質は見えてくる。何億円もの費用をかけて完成させて失敗するよりは、数千万円というコストでプリビズを作り込み、つまらないものしかできないようであればそこで(制作を)やめる勇気をもった方がいいということですね」(鬼塚氏)。

そして両氏から、スタジオカラーのある試みについても語られた。「従来はラフ原を作画マンが描いて、それを3DCGが仕上げるというながれでしたが、CGで一原(CGアニメでいうブロッキング)まで作り、二原以降を作画マンで仕上げていくという形を少しずつテストしています。『見本市』をやってわかったんですが、デジタル部の20〜30人でわれわれの求めるクオリティの作品をつくろうとすると、せいぜい5分の作品が限界。この先、長編をつくっていくために、われわれはプリビズで演出面を固めて、その先は制作力をもつ(より規模の大きな)スタジオと一緒に制作するというスタイルを模索中です。作品を面白くする部分を自分たちでコントロールしていきたいなということですね」。

最後は鬼塚氏が来場者に「庵野さんの実写作品とアニメ作品、双方に参加しているのは、カラーでも演出陣とデジタル部だけです。庵野作品に参加したい方はスタジオカラー デジタル部にご連絡いただければ採用を検討します!」と呼びかけ、セッションは幕を下ろした。

『機動警察パトレイバーREBOOT』 Blu-ray&DVD

なお、前述の「日本アニメ(ーター)見本市」の作品、『神速のRouge』『カセットガール』をはじめ、新作『機動警察パトレイバーREBOOT』を含む13作品の上映イベント『劇場上映 ゴーゴー日本アニメ(ーター)見本市』が予定されている(2016年10月15日(土)から1週間限定)。常に新しい映像表現を貪欲に模索するスタジオカラーの画づくりに今後も注目したい。

特集