Topic 2 アセット制作&フェイシャルキャプチャ
セル調CGキャラに適したフェイシャルキャプチャとは
本作では、2組のアイドルユニット Six GravityとProcellarumの各6キャラクター、全12体が作成された。キャラクターのモデリングに際して西田氏は、「作成されたモデルは、最終的な画づくりに直結するアセットなので、コンポジターがその構造を理解できるようなモデリングに注力してほしいとモデラーたちにお願いしていました」と、ふり返る。コンポジットとモデリングは通常のワークフローではあまり結びつかない作業だが、本作では、コンポジット時に必要なモデルや足りないモデルをコンポジターが自らモデリングして補足できるようにとの配慮だという。こうして一部の作業工程をコンポジターに託すことでモデラーの負担を軽減し、短期間で12体というモデリングを可能にした。また、セルシェーディング用のモデルを作成する場合は、2次元のアニメキャラクターのデザインを完全再現できるようにモデリングしていくため、モデラーにとっては非常に手間がかかりスケジュール的にも負担となることが多いが、その手間をシェーダを独自に開発することでモデラーの負担を軽減する工夫も行われている。テクスチャに関しても、マルチUVマップを使用し、シェーダとキャラクターで1対1にまとめるといった具合に管理のしやすさが重視された。各キャラクターはボディと頭部を作成し、FCAP用の表情ターゲットを用意し、最後に衣装を作成するながれとなっている。衣装のモデルはひと通り仕上がったボディのモデルに仮のMOCAPデータを流し込んで、Clothシミュレーションを行いながら詰められている。「制作当初は12キャラとは物量が多いなあと心配していたのですが、終わってみるとそれぞれに個性やこだわりができてきて満足いく仕上がりになりました」とは、金谷翔子リードモデラー。また、背景アセットについては佐藤裕記リードモデラーが一手に担当しており、特にグランドフィナーレで使用されるステージは、実際の東京ドームにおけるライブ公演等をリファレンスとして、DLAS側でイメージボードを描くところから一括して手がけたという力作だ。
アセットが完成したところで、FCAPを実施。ツークンでは、キャプチャデータの解析にイメージベースのシステムであるDynamixyzの「Performer」を利用しているが、その際にDLASから提供されたフェイシャルリグをツークン研究所側でPerformer用に微調整を施した。トライアルでは、童謡『きらきらぼし』を歌うスタッフのFCAPを収録して、設定されたキャラクターの母音の発音の精度や、そもそもアニメキャラクターが歌っているように見えるのかが検証された。口の形状は、このトライアルの結果をフィードバックをくり返してブラッシュアップ。「12人キャラ分のFCAPを3人のアクターさんに分担してもらいました。各キャラの歌い方をジャンル分けし、同じパートやカット内での重複が生じないよう配慮しました」(ツークン研究所の木下 紘FCAPスペシャリスト)。
フェイシャルキャプチャ〈1〉事前の検証
DLASから提供された仮モデル&リグを用いた事前検証。ツークン研究所のスタッフが童謡『きらきらぼし』を歌い、フェイシャルキャプチャの精度や特性、どのような歌い方が適しているかなどが検証された。ちなみに、『きらきらぼし』が選ばれたのは母音がはっきりしているからとのこと
フェイシャルキャプチャ〈2〉本番収録
グランドフィナーレ用のFCAP収録の様子。「事前検証とOP1、2の制作を経ていたので、アクターさんにお願いする演技が事前に定まっていました。ねらったフェイシャルを確実に収録するためにボディモーションとの同時収録ではなく、個別にキャプチャを行いました」(西田氏)
実際に収録された動画キャプチャの例。用いられたHMC(ヘッドマウントカメラ)はツークン研究所が自社製作したものであり、アクターへの負荷を少しでも抑えるため、無駄を極限まで省き軽量化が図られている。携帯性にも優れており、外部スタジオ等への出張収録も行なっているそうだ
ツークン研究所では、キャプチャデータの解析にDynamixyz「Performer2 SV」を用いてる。今回はアクター3名で12キャラ分のフェイシャルがキャプチャされたが、歌のパートごとでアクターの重複が生じないように振り分け、1体のキャラモデルに対してリターゲットを行うように配慮された
キャラクターモデル
Six Gravityのリーダー「睦月 始(むつきはじめ)」の完成モデル。(左)メッシュ表示/(右)レンダリングイメージ。セル調キャラの場合、髪の毛の表現が難しくなりがちだが、毛束の本数など細かなルールを定めることでクオリティの統一が図られた
本プロジェクトでは、シェーダ管理の効率化の一環としてマルチUVマップを採用。1キャラ1シェーダに定められた
ラインの見え方を制御するためのグラデーションマップ/各UVのライングラデーションマップ
フェイシャルリグと調整用インハウスツール
「アングルターゲット」と名付けらたDLASが独自に開発したコントローラ。「左右横顔や俯瞰、アオリ、斜め等の各アングルの全てのターゲットを矢印型のコントローラ1つに集約して、矢印リグの回転値を変化させることで全方向のターゲットを一度に制御しています」(富岡孝輔TD)。矢印リグをカメラ方向にエイムさせることで、アングルターゲットの変化をモデルに自動反映させることが可能となっている
アングルターゲット適用前と後の比較。事前に用意された作画資料を参考に造形が丁寧に調整された
新開発された「AnimShape」UI(左)と作業例(右)。このツールでは、ショット内にてフレーム単位でキャラクターモデルの頂点編集を行い、アニメーションさせることができる。単体オブジェクトだけでなく、複数のモデルやグループも1つのシェイプとして扱えるほか、編集したシェイプのインポート&エクスポートも可能。「AnimShapeを導入したことことで、リグの変形に依存しない大胆な変形を気軽に行えるようになりました。ブレンドシェイプをベースとしているので、変形アニメーションを管理しやすく動作も軽快です」(松井氏)。表情やポーズの最終仕上げで多用したそうだが、リギング作業時からAnimShapeを用いることが決まっていたため、セットアップ工数の削減にも寄与したという
コンセプトアートも手がけた背景セット
グランドフィナーレの舞台となる美術ボード(上)と背景セット(下)。東京ドームのコンサートステージなどを参考に、DLASが美術から一括して制作している