Topic 3 アニメーション&コンポジット
所属や業務の壁を超えて新たなワークフローを確立させる
グランドフィナーレのMOCAPでは、12キャラクター分を同時収録という日本のCG業界では類を見ない大規模な収録が実践された。当初は、通常よりも広大なスペースが必要になるのではないかという意見もあったそうだが、最終的には確かなノウハウのあるツークン内の常設キャプチャスペース(7m×10m)にて、カメラを12台追加し10×10mのエリアに増床するかたちで対応したという。DLASにおけるアニメーション制作では、"2.5次元"であって、アニメCG的なリミテッドなアニメーション表現ではないという基本方針に基づきアニメーションが作成されていった。アニメーション工程においても効率化に向けた様々な取り組みを実践。まずは、アニメーション作業の中でかなり作業の負担となる髪の毛や揺れものについては、全てジョイントを使用したダイナミクスシミュレーションで対応することに決めたほか、ShaderFXを独自にカスタマイズし、レンダリング結果と同等のプレビューを実現させた。これにより、プレイブラストでディレクターに対してチェック出しをすることができるようになり、チェックのためのレンダリングコストを大幅に減らすことができたという。さらに作画特有の手癖を含めて表情修正することができるショット内スカルプトツール「AnimShape」の開発により、正確なブラッシュアップができるようになったという。「まともにやっていたらとても終わらない物量でしたが、テクニカル班をはじめとする他部署の協力が得られたことで完遂することができました」(松井一樹リードアニメーター)。そして、富岡TDも「これまで棚上げしていた開発を進めることができました。ぜひ今後の案件にも活用していきたいですね」と、確かな手応えを感じているそうだ。
最後に、本作の3DCGによるキャラクター表現について川崎監督は、「自分はアニメ業界に身を置いているが、作画は表現手法のひとつに過ぎないので、面白い表現ができれば表現方法はなんでもかまわないと思っています。その意味では、本作のコンサートシーンを3DCGで描くことに何の迷いもなかったし、実際に完成した映像を見て自分たち作画畑の人間は遅かれ早かれ仕事がなくなるのではと思ったり(笑)。ただ、カメラワークなど『なぜその画を撮りたいのか』という映像屋としての貪欲さの面では自分たちに一日の長があるとも思いました。CG畑の人たちがそうした面をもっと貪欲に追求していけばさらに良くなると思うので、今後もチャンスがあれば3DCGを積極的に採り入れていくつもりです」と語ってくれた。これまで作画との比較でのみ語られることが多かったアニメCGの表現だが、本作のようにFCAPなどの3DCGの特性を積極的に活かした表現が確かな成果を挙げていくことで、日本のアニメーション業界にも新たな風を吹き込むのではないだろうか。
アニメーションフロー
アニメーションの制作工程を図示したもの
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プリビズ。この段階でカメラ演出の方向性を確定させる。収録したMOCAPデータを未編集のままキャラクターモデルに流し込み、Mayaのシーン上でカメラワークやアングルの検討を行なっていく
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プライマリアニメーション。フェイシャルの演技構成に関してはこの段階で決め込み、必要に応じて作監修正を入れてもらう段取りがとられた(こちらのワークフロー図を参照)。「セル調CGキャラ向けのFCAPについてもR&Dは続けていたのですが、世に出るタイトルとしては今回が初めてのプロジェクトになりました。そうした意味でも思い出深い作品になりましたね」(木下氏)
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本カットの作画監督による修正指示。これを基にさらなるブラッシュアップが施される。なお作監修正を必要としないカットは、セカンダリアニメーション(揺れもの等)を施したらコンポジット工程へ出荷される
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ターシャリ(三次)アニメーションを施した状態(アニメーションとしての最終形)
コンポジット(撮影)処理を施した完成形
12人同時収録のモーションキャプチャ
グランドフィナーレのMOCAP収録のリハーサル(左)と当該カットのアニメーション作業の例(右)。国内では類を見ない12人同時収録にあたり、Viconカメラを12台増設し、キャプチャ対象のエリアが拡大された
シミュレーションの活用
『ツキアニ。』の3DCGアニメーション制作では、揺れものについてはシミュレーションが積極的に活用された。「これにより、揺れものアニメーションの工数を減らすのと同時に、クオリティの最低ラインの確保ができました」(松井氏)。このカットの場合、揺れもの表現はほぼシミュレーションのみで完結したという(もちろんカットによっては手付けによる調整や誇張表現も併用されている)
コンポジット処理を施した状態(被写界深度とフレアなし)
揺れもの用リグを構築するにあたっては、西田CGディレクターならびに松井アニメーションリードらとの間でブレストが行われた。図は、松井氏が作成したClothシミュレーションの挙動範囲をイメージしたもの。「ブレストにて、めり込み修正をなるべく行わずに済むように、ジャケット等は布っぽい動きがほしいといった要件を洗い出し、今回は①nClothを使用したClothシミュレーション対応のスプラインIKリグ、②nHairを使用した振り子のように動くFKリグ、③インハウスのプラグインを使用した振り子のように動くFKリグという3種類のリグを開発しました」(富岡TD)。また、各リグを補助するためのツールも適宜開発された