Topic 4 NHK(2)ショットワーク
恐竜のキャラクター表現に最大限リソースを集中させる
続いては『ダーウィン!』のショットワークについて。まず、MTに提供したアセットである新たに制作された恐竜の羽毛はYetiで表現されている。YetiはNHKが手がけた『精霊の守り人』での導入実績により、今回も羽毛の表現に使用された。ただし、これまでレンダラとして使用していた3Delightでは、Furのレンダリングが遅いため、今回はレンダラにArnoldが使用されている。Arnoldを使った各ショットのレンダリング時間 は平均30分、最大で約2時間だったという。4K解像度でFurのある状態でのレンダリングとしては、かなり効率良くレンダリングされているのではないだろうか。各ショットは、これらの恐竜アセットを使って松永氏がレイアウトを組み、そのレイアウトを基にアニメーションが作成されている。撮影された実写プレートに仮合成したものを作成したりもしているが、今回ディレクターに表現したい明確化なイメージがあったため、リテイクも少なく順調に制作を進めることができたそうだ。今回制作されたショットは前述した通り、フル3DCGで作成されているショットはほとんどなく、ロケ撮影された実写プレートにCGで作成した恐竜のアニメーションとエフェクトをコンポジットするという手法で制作されている。コンポジットにはNUKEを用いており、昼間のシーンを夜に変えるといったようなカラーグレーディング的な要素から、木漏れ日を恐竜に落とすといったリライティング的な表現、またNUKE 10から搭載されたSmartVector/ VectorDistortを使った水の屈折表現など、実写背景に3DCGで制作された恐竜を馴染ませるための工夫が随所に施されいる。前 和佳子コンポジットチーフによれば、ショット数も多く、各コンポジターのNUKEスキルにちがいもあったため、統一性をなるべく保つために全ショットの基本のツリーとなるコンプスクリプトを配布し、恐竜のルックの統一など初歩的な問題によるリテイクが生じないよう効率化を図ったという。「コンポジターとしては、CGにはまらない背景があっても、素材のストックを検討し直してプレートを替えるといった手法をとることもできました。松永さんが撮影現場に立ち会い、監督との信頼も厚いからこそ実現したワークフローだと思います」(前氏)。「社内でもクオリティを評価してもらっていて、今後もこのような企画をやりたいという要望もあるのですが、スケジュールや予算など現状のままでは厳しい点も多い。今後継続的にこのような企画をやっていくためには、こうした案件に対応できる体制をつくらないと思っています。今のような力技では続かない。絶滅した生きものという題材はほかにも数多く存在することから、これらを3DCGやVFXを使って表現するというのは、無限に可能性があると思うのでやり続けたいと思います。大変ですけどね(笑)」と、松永氏。松永氏を中心としたNHKのVFXチームがこれからどんな生きものたちを創り出すのか、ひき続き注目だ。
レンダリング作業の補助ツールを開発
新たにレンダリング用のシーンを作成するためのツール(画像左)を開発。手動ではあるが、アセットとアニメーションの読み込み、ロケーションごとに作成したテンプレートのライトリグ(画像右)の読み込み、共通のレンダリング設定の適用、レンダーレイヤーの構成、マッスルキャッシュの作成等を、ある程度簡単にミスなく行えるように設計された
ペースコンプの作成
3DCG素材は、ベースとなるノードツリーを作成し、そこへレンダーパスを差し込みエラーの有無の確認等を済ませればコンポジターに渡せるワークフローを構築。本プロジェクトのCGエレメントは大半が恐竜(キャラクター)に関するものであり、レンダリング設定を共通化(※エフェクトをのぞく)することができたという
CGキャラ用のレンダーパスは、AOVを書き出しコンポジター側でビューティを再構築するかたちを採用。これにより、コンポジット工程で細かな要素ごとにカラコレを施すといった対応がとれるようになり、コストパフォーマンスを高めることができたそうだ
地表の点群データを用いた足下FX
森の中をティラノサウルスの子供たちが走り抜けるショット。boujouでマッチムーブした後に、NUKEのPointCloudGeneratorを使い、地面の形状を生成。そのデータを用いて、Houdiniで地面の巻き上がる葉などのエフェクトが作成された
Goboマスクによる木漏れ日の表現
トリケラトプスが寝床を見つけて休むという夜のシーン。一連の実写撮影は日中に行われており、こうしたナイトシーンはコンポジット作業時に夜化させている。加えて、このシーンでは木漏れ日の表現もNUKEで施された
NUKE上で木漏れ日の表現を追加
グレーディングを施した最終形。「CGシーンから書き出したポイントポジションとワールドノーマルを使い、NUKEでポイントクラウドを作成、そこへ木漏れ日のGoboマスクを投影することでカラコレ用マスクにしています。3DCG側でライティングするよりも作業負荷を軽減できるだけでなく、最終的な合成結果を見ながら細かな調整が行えるメリットもありました」(前氏)
渾身の恐竜バトル
松永氏いわく、ひときわ気合いを込めて制作されたのがトリケラトプスとティラノサウルスのバトルだ。「DJIのOsmo(高精度なスタビライザに定評ある小型4Kカメラ)による手持ち撮影によるダイナミックな動きの実写を撮ってもらい、トランジスタ・スタジオさんに迫力あるアニメーションを付けてもらいました」(松永氏)
Column.
番組PRを兼ねたVRコンテンツも制作中
番組用アセットを流用するかたちでVRコンテンツ(360度動画)も開発中だ。オンエアに先立ちNHKホームページ「NHKVR NEWS」(www.nhk.or.jp/d-navi/vr)などで公開予定である。