>   >  さらに進化したNHKの恐竜VFX『NHKスペシャル』&『ダーウィンが来た! 生きもの新伝説』
さらに進化したNHKの恐竜VFX<br />『NHKスペシャル』&『ダーウィンが来た! 生きもの新伝説』

さらに進化したNHKの恐竜VFX
『NHKスペシャル』&『ダーウィンが来た! 生きもの新伝説』

Topic 3 NHK(1)アセット制作&ロケ撮影時の対応

実際に撮影したかのような臨場感あふれるVFXを求めて

続いては、NHKのチームがリードした『ダーウィン!』について。2話構成でティラノサウルスと日本に棲息していた丹波竜やスピノザウルスの仲間の生態が、リアルな動物紹介番組として制作されている。これまで『ダーウィン!』は現存する生物を中心に生態を紹介することが多かったが、番組ディレクターから「古代生物を扱った番組をできないだろうか」という要望があったという。松永氏は「『生命』は解説パートも多かったのでVFXやCGが中心というわけではなかったのですが、この『ダーウィン!』は動物番組なので、僕がこれまでやりたかった生物のCGやVFXをしっかりとつくり込むということにチャレンジでき、非常に興味深い企画でした」と話す。本番組は帯で放送されている一般番組なので、『生命』のような特別番組のような規模では制作できないという心配もあったが、アーティストの座組みなどをしつつ成立するであろうプランを立てて企画がスタートした。今回の制作ではコンセプトを「生きものを実際にライブで撮影しているような臨場感のある画づくり」という点におき、『ダーウィン!』の他の放送回で撮影されているような、カメラマンが動物を撮影する際の手法や表現をリアルに再現させることを目標に制作された。まず制作は登場する恐竜のモデリングからスタート。『生命』で使用されたアセットを流用するとはいえ、恐竜の身体に羽毛が生えているという科学考証のアップデートによって、多くの恐竜に手が加えられている。モデラーは『生命』からひき続き、田口工亮氏、森田悠揮氏、福田裕也氏が参加している(今回はNHK常駐ではなくフリーランスとして参加)。リギングについては『Nスペ』ではアニメーションを担当していた神央薬品が担当した。

今年4月にアメリカでの実写プレート撮影に始まり、7月に納品という約3ヶ月の制作期間のなか、2話分222ショットをつくり上げた。恐竜は当然のことながらCGだが、背景プレートは実写を使用することで制作期間の効率化、およびリアル感のあるシーンが実現された。実写プレートを使用したシーンがほとんどであるため、実写ロケには松永氏が同行しショットに応じた臨機応変な現場対応が行われている。「現場でのジャッジは『生命』での経験がとても役に立ちました。実写のカメラマンは、撮影 する対象があれば素晴らしい画を撮れるのですが、CG用の背景プレートとなると対象がないので慣れ ないと非常に難しい。やはりVFXスーパーバイザーが現場にいて、コンポジットに必要になる素材を臨機応変に指示させていただいて撮影してもらうことがとても大事になってきます」(松永氏)。ケツアルクアトルが飛び立つシーンでは、土埃を実際に立てて撮影したり、スピノザウルスが水に入るシーンではデッキブラシを湖に突き刺して水飛沫を撮影するなど、VFXの全工程が見えているスーパーバイザーが現場で撮影する素材の内容を具体的に判断して、コンポジット時に必要になるであろう素材、作業しやすい素材を撮影することで、ポスプロ作業の効率がまったくちがってくるのだとか。

毛の生えたティラノサウルスの制作


ティラノサウルス完成モデル





  • MARIによるディフューズマップの作成



  • 完成した胴体用ディフューズマップ



その他の主な胴体用マップ



  • リフレクション



  • SSS



  • ベクター・ディスプレイスメント



  • 濡れた表現用のマップ





  • Mudboxによる細部のスカルプト調整



  • Yetiによる体毛のシミュレーション


リギングを施した完成モデル

番組ディレクターによる絵コンテ

植田和貴ディレクターが作成した絵コンテの例。こうした絵コンテをたたき台として、具体的な画づくりや演出が詰められていった

ドローンによる空撮ショット



  • ケツアルコアトルスが飛行する様を描いたショットには、ドローン「DJI Inspire 1」による空撮素材が用いられた



  • Mayaによるアニメーション作業例。ケツアルコアトルスについてはレンダラは3Delight、HairはShave and a Haircutが用いられた


完成ショット

実物とのインタラクション

トリケラトプスが植物を食べるショットでは、ディレクター自らデッキブラシを使って植物をゆらした状態で撮影。「単純にゆらしただけですが、CG(トリケラトプス)と植物(本物)のインタラクションが生まれたことで、さらにリアリティを高めることができました」(松永氏)



  • 実写プレート



  • CGアニメーションを合成


グレーディングを施した最終形

撮影小道具を兼ねたCGガイド

丹波竜の幼体が孵化するショットでは、北米でのロケ撮影時に松永氏が近くのウォルマートで購入したボールを卵に見立てて埋めた状態で撮影。これを接地のエッジに利用することで、実写素材との馴染みを大幅に高めることに成功した



  • おもちゃのボールを卵に見立てて撮影。ミニチュアの恐竜はルックの参考用



  • Sony F55で撮影した背景プレート



  • CGアニメーションを合成



  • ルックを整えたCGとしての完成形



  • マスクを切って実写との馴染みを高める



  • グレーディングを施した最終形

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Topic 4 NHK(2)ショットワーク

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