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荒廃した世界にアンドロイドが舞う。プラチナゲームズが生み出す『NieR:Automata』の世界観

荒廃した世界にアンドロイドが舞う。プラチナゲームズが生み出す『NieR:Automata』の世界観

"人ならざるもの"を描き出すキャラクター表現

本作は人類が衰退した世界を舞台とするため、登場する人型キャラクターはほぼ全てがアンドロイドだ。造形やシェーダについてもその点を意識して開発が進められた。

ヒロイン・2Bのモデリング


本作のプレイヤーキャラクターのひとり「2B(ヨルハ二号B型)」は約7万2,000ポリゴン。主人公側のキャラクターは一度に2体しか画面に出ないため、そこまで厳密に制限をもたせなかったという。キャラクターモデリングアーティストの松平 仁氏は、吉田明彦氏のデザイン画からモデルに起こす際に「前作のキャラクターの魅力を自分の中で分解してみて"壊れそうなアンバランス感"、"端々に感じるチープさ"が何とも言えない魅力を出しているのではと考え、それらを加味して制作しました」と語る。具体的には前作のキャラクターの頭身に近づけ、実際に服をつくった場合を想定した服の縫い合わせを考え、細い腰や極端に大きい下半身などアンバランスなシルエットを入れていったとのこと。ハイモデル制作にはZBrushMaya3D-Coatのほかに、シワが複雑な場合にはMarvelous Designerも活用された

布と眼球のシェーダ

2Bが身にまとう服の素材はベルベット

【画像左】やサテン【画像右】の生地を想定し、柔らかい光沢のある布の表現には物理ベースにファズ(毛羽立ち)と異方性の要素が加えられた特殊なシェーダが使用されている



  • 眼球は光彩が凹んで見える専用シェーダ



  • 眼球に高精度な影が落ちて見えるよう半透明のシェーダを乗算ブレンドで被せている



  • 半透明影なし



  • 半透明影あり

これら特殊なシェーダやコアとなる汎用シェーダは、アーティストから提示された要望に応じてプログラマーが作成したとのこと。また、肌についてはスクリーンスペース・サブサーフェススキャタリング(SSSSS)を採用している。「SSSSSは強めにかけると蝋人形のような質感になりますが、本作ではその方が世界観に合っていると判断してわざと強めにしています」(松平氏)

キャラクター固有のシェーダ

プレイヤーキャラクターのひとり「A2」は、バーサーカーモード時に手足が鉄を熱したときのように赤くなる【画像左】。この表現は頂点カラーで赤熱しやすさを設定しており【画像右】、しきい値を調整して加算ブレンドしている。しきい値のアニメーション制御も可能で、発光させる色はテクスチャで指定しているとのこと

また、エネミーとして登場する「イヴ」は刺青が体を侵食していく表現が特徴のキャラクターだ。こちらも頂点カラーでグラデーションを設定しており【画像左上】 、しきい値を変えることで黒い模様がアルベドを覆っていく【画像右上と下段】。黒い模様は専用のテクスチャを用意。「体のUVが左右反転していても頂点カラーでブレンドをコントロールしているので、体の半分だけ侵食させることが可能です」(松平氏)

頂点カラーによる水濡れ制御

フィールド内で自由に行動できる本作では、水場に入ったり水飛沫を浴びたりすると段階に応じてキャラクターが濡れる表現が実装されており、衣装などの材質ごとに濡れた際のアルベドやグロッシネスの値が設定されている

画像は濡れる前【画像左】と後【画像右】を比較したもの。クロスシェーダやヘアシェーダは濡れた際のファズの値なども設定可能だ

また、足元から頭にかけてのグラデーションを頂点カラーで設定しており【画像左】 、濡れた値をブレンドするためのマスク代わりになっている。キャラクターがどこまで濡れたかは足元から頭まで連なる7つのNullと水場とで接触判定して8段階の濡れレベルを決め【画像右】、レベルに応じて頂点カラーの値を高めることで濡れた状態の値がブレンドされるしくみだ。それだけでなくプレイヤーの着地や走りなど行動によって表示される水飛沫にも濡れレベルが設定されており、大きな水飛沫が立てば濡れレベルが上がるようにもなっている

アニメーションとUIの工夫

アクションの爽快感に定評のあるプラチナゲームズだけあって、本作も60fps を死守したキレのある戦闘モーションが満載だ。一方、UIは柔らかな落ち着いた色味で統一されている。

MotionBuilderによるモーション制作

本作のプレイヤーのモーション数は1,000ほど。基本的にはモーションキャプチャしたデータを基にMotionBuilderで尺やポーズを整えて実機に出力している

【画像左】は2Bの骨構造、【画像右】MotionBuilderでの作業の様子。リグもMotionBuilderで組んでおり、Mayaはいっさい使っていないという。実際にプレイするとわかるが、走り出しなど基本アクションの繋がりがとても自然で、リードアニメーターの村中高幸氏によると「移動周りは繋ぎモーションを数多く用意し、フレーム単位での分岐設定も細かく調整をくり返しました」とのこと


一方、エネミーのモーション数は400ほどでほぼ全て手付けによるもの。形状もそれぞれで異なるため基本的に全て専用の骨になっている

モーションキャンセルの繋ぎの工夫

本作では武器を浮かせて操るような攻撃が存在するが、キャンセル受付フレームを広めに取っている影響から、大きな武器になると連続攻撃でモーションキャンセルした際に突然位置が大きく変わってしまう現象が目立ったため、独自の対策が行われている。具体的には、モーションキャンセル受付開始のポーズと次の攻撃の開始時のポーズを合わせており、キャンセル受付開始から実際にキャンセルされるまでのフレーム数分、次の攻撃モーションの頭のフレームをスキップするというものだ



  • 1撃目:83f



  • 2撃目:0f

例えば1撃目でキャンセル受付が開始される83フレーム目でキャンセルした場合【画像左】には、2撃目は先頭のフレームから再生される【画像右】



  • 1撃目:123f



  • 2撃目:40f

また1撃目でキャンセル受付が終了する123フレーム目でキャンセルした場合【画像左】には、2撃目は40フレーム目から再生される【画像右】という具合だ。モーションが変わっても剣の位置が近いことがわかる。それでも位置が瞬間的に変わりはするが「そこはモーション補間で補いつつ、自然に見える範囲で調整しました」(村中氏)とのことだ

UIのデザインコンセプト


本作のUIのデザインは「フラットデザイン」を軸に、『ニーア』の世界観に沿って「ファンタジー」「システマチックで清潔なデザイン」「シンボリックな装飾」「デジタルテイスト」といった要素を加えている。色味に関してはヨコオ氏のオーダーにより柔らかいベージュ系でまとめられた。「視認性を確保しつつ色が散らばらないようデザインしています」と木嶋氏。さらに「フラットデザインにより堅い印象にならないようアニメーションを柔らかくしています」という

また、味気なくならないよう画面に極小の格子模様を入れ【画像左】 、ビネットやレンズ歪みを加えてモニター越しに見ているかのようなプラス要素を加えている。制作フロー面では、Illustratorでレイアウトやデザインを作成後、Photoshopのベクタースマートオブジェクトを使用してテクスチャ化。完全非破壊編集を徹底したという【画像右】

UIの特殊な表現

キャンプメニューの開閉時には、画面が徐々に切り替わって表示されていく「パンチスルー描画」による遷移が採用されている【画像左】 。これはアルファチャンネル【画像右】 に設定している0~100の値の順にアルファを抜いていくことで、メニュー画面が徐々に表示されていくというもの。もともとはエフェクト用に用意されていた機能をデジタルテイストのワイプ演出に活用したものだという


また、プレイヤーが深刻なダメージを受けた際に「ノスタルジックフィルタ」と呼ばれる画面効果が入るのも特徴的だ。懐かしいゲーム画面を想起させるこの効果では、彩度を変えたり色収差を加えたりといった様々な調整が可能であり「同じシェーダで様々な表現ができるのが特徴」とのこと

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広大なオープンワールドの構築

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