Topic 4 多くの観客を魅了したライブの舞台裏
弾幕コメントも送信可能なテキスト配信ツール
ライブの盛り上げに欠かせないのが、スクリーンに映し出されるコメントの表現。今回のライブでも技術紹介パートにおいて、MariAの所作を後押しするコメントが配信された。ニコニコ動画などでお馴染みの、いわゆる弾幕コメントと呼ばれるテキスト群や、食いしん坊キャラ設定のMariAを挑発するような料理の写真などが流れ、会場の笑いを誘っていた。この機能を開発した背景には、今後HEAP社が展開する新しいコンテンツを華やかに盛り上げる補助機能として欠かすことができないと考えられているからだろう。「将来的には、観客やユーザーがコメントしたメッセージをダイレクトに配信できるように技術開発し、ファンとアイドルとの間の円滑なコミュニケーションにつなげていきたいですね」と林氏は語る。
テキスト配信ツール
テキストだけでなく画像も転送できるコメントツールは、専用のPCからWeb Socketを通じて送信される。観客との間の双方向コミュニケーションにも活用できるシステムと言える
コメントを送信するため専用のツールからテキストの色や動き方などの各種パラメータを変更し、Previewを押す
するとPreview用のGUI上で再生して確認できる
また、ライブのサプライズ演出として、別室にセットアップされたHTC Viveとシームレスに連動していることがMariAの口から伝えられる一幕があった。アバターとなって突如ステージに上げられてしまうVR客は、観客に向かって手を振るように促される。ヴァーチャルアイドルのライブをステージの間近でVRで見ることができるのも、今後非常に注目されるソリューションと言えるだろう。
VR視聴への同時対応
ライブは、別室に用意されたHTC Viveとも接続されており、MariAを至近距離で鑑賞できる
VR内の描画を90fpsで維持させるために、物理シミュレーションの簡素化や映り込みの軽減などが行われているが、照明やキャラクターのアニメーションはステージとまったく同じ状態になっている
Topic 5 大型プロジェクト始動
今後の展開に備えて各種設備を充実
今回の発表のための技術開発では、ソースコードやデータのバージョン管理システムにはGitが用いられた。Gitは大規模な開発を他拠点で分散して進めるため非常に有益なシステムだが、運用していくためのルールや作法をしっかりと決めておかないとコードの先祖返りが起こってしまったり、同じ部分を同時に更新してしまった際に起こる衝突も避けられない。実際に今回の開発では、そのような問題が多数起こったが開発メンバーが一丸となって問題を乗り越えていったとHEAP社エンジニアの佐藤昌樹氏は話した。
Gitによる制作管理
今回の開発を影で支えたバージョン管理システムのGitのツリー構造。多数のエンジニアが同時並行で開発を進めていくため、分散管理型のGitでなければ実現が難しかったという
今後の制作を支えるインハウスツールも鋭意開発中で、日々アーティストからの要望を受けて効率化を高めるために奮闘している
HEAP社では、CEDEC 2017で発表した「PROJECT MariA」だけにとどまらず、今後様々なかたちで新規IPコンテンツを制作、展開していくという。今後の展開に備えるために、東京・赤坂に大がかりな撮影が可能な本格的なモーションキャプチャスタジオを設置しただけでなく、声優のレコーディングが可能な音声収録スタジオも新設。自社の設備で好きなときに好きなだけ撮影収録が行えるのは、クリエイターにとっては非常に魅力的と言えるだろう。HEAP社から毎日魅力的な新作が発表される日が訪れるのも、そう遠くない未来かもしれない。今回登場したMariAのTwitterアカウント(@MariA_worldchat)も稼働しているので、今後の展開などにもぜひ注目していきたい。
設備面のほかにも、より効率的な制作パイプラインをフルスクラッチで開発しているそうで、プロジェクトの規模に合わせて柔軟にスケール可能な次世代パイプラインの構築を行なっているところだという。コンテンツを制作するために、人海戦術で多数の労力をかけることもときには必要だが、再利用可能なデジタルアセットを効率良く組み合わせてHEAP社独自のアセットライブラリを構築していくことで、短期間に良質なコンテンツを量産できるしくみづくりをしていくとのこと。また現在HEAP社では、アーティストやエンジニアを積極的に採用しており、特設サイトも用意されているそうなので、興味をもった読者はぜひ訪れてみてほしい。
モーションキャプチャスタジオ設備
港区赤坂に構えたモーションキャプチャスタジオは、24台の光学式カメラを備え、大規模な撮影にも対応できる設備となっている。床には、エアロビクスなどにも使われるクッション性と消音性の高いフロアを敷き、激しいダンスにも耐えられる
410万画素の高精細で撮影可能なOptiTrack Prime41などのカメラで、素早い動きでも光学マーカーを見失わない
スタジオ内には執務スペースもあり、ただいま新規コンテンツの制作の真っただ中となっている