Topic 2
『出雲重機』篇
~メカデザインから合成画像の作成まで~
1000toysとコラボしてアートトイや書籍で展開中
大久保氏がオリジナルプロジェクト『出雲重機』をスタートさせたのは20年前、97年のことだ。「最初は海外の方に向けて、"日本はこんなロボットが街中で働いているくらい進んでいるんだよ"と騙くらかしてみようと思って始めたんです」と企画の動機を茶目っ気たっぷりに語ってくれた。当時はインターネットの黎明期で、サイトも企業と個人の差があまりなかっただけに、本当に重機メーカーだと思い込んだ人から問い合わせもきたという。サイトとオリジナルのTシャツの販売が話題となって、99年にデザイン専門誌で取り上げられ、06年に書籍化。おおいに盛り上がったが、そこでいったん『出雲重機』は落ち着いた。
そこから10年たった15年に1000toysにより1/12アートトイが発表され、クラウドファンディングで目標を達成。リブートとも言える動きが始まった。リブートにあたってAIやクラウド技術などの設定を足すなど、現代ロボットのトレンドを取り入れ、17年には再びクラウドファンディングを成功させてアートトイプロジェクト用に制作した多数のデザイン画と設定情報をまとめた書籍『出雲重機 INDUSTRIAL DIVINITIES 2017』が出版された。
『出雲重機』といえば、まるで現実に存在するかのようなリアリティが特徴だが、これには現実の重機や機械からディテールを取り出し再構築するという、大久保氏のこだわりの姿勢と技術がある。「見る人は日常にあるものを引き合いに出してリアルかどうかを判定していますから、現実にある重機などの要素を取り入れるのは大事です。"カッコイイ"と"リアルさ"とはちがうものなんです」と大久保氏。アニメなどの先人のつくった記号的なリアリティを基礎にメカをデザインしている人が多く見える現状へのカウンターでもあるという。加えて一般的に人気のある"兵器"ではなく、"重機"という部分もカウンター的だ。
仕事をしながら自主制作でこれだけの品質を維持していくのは、並大抵のことではない。最後に『出雲重機』を20年続けられた理由を聞くと「頑固に、そして妥協しないことです」と笑いながら語ってくれた。今も仕事をしながら自主制作をしているアーティストへの金言だろう。今後の展望については「『出雲重機』もひと段落したので、今度は商品としてもっと訴求しやすいものをつくってみたい」との答え。出雲重機では海外のファンも含めてマニアの心を掴めた感触はある。一方で、例えばガンダムやトランスフォーマーのようなヒロイックなメカもつくってみたいとのことだ。「もっと広い一般の人たちにも認知されるような作品をつくりたいですね」と締めくくった。
デザイン1. コンセプトスケッチ
仕事の合間に描かれたコンセプトスケッチ群。これらのスケッチを描いたのは2013年頃で、1000toysによるアートトイプロジェクトが起ち上がる以前のものだ(そのころの大久保氏はスマートフォン向けゲーム開発に従事していた)。その後、2017年にアートトイ開発と『出雲重機』の書籍出版に関連して、この中のひとつ(右)を新型機「Hanger PSS4」として再構築することになった。普段、こういったスケッチは描いては捨てをくり返しているという
デザイン2. 脚部のモデリングとディテールアップ
再構築時に他の機体への転用の必要もあり、脚から着手した際のラフ画。アニメの打ち合わせの帰りにファーストフード店で食事を摂りつつメモ帳に描いたという。『出雲重機』は大型のインタークラス重機と小型のミジェットクラス重機の2系統があり、ミジェットクラス重機になかった二足歩行型の標準的な脚ユニットとして検討している
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Shade3D上でシルエットや構成(パーツ数)、可動域などについて検討。大腿部に油圧シリンダを設けるつもりだったが、トイとしての拡張性(大腿部のみ新パーツ化する場合など)を考えてアキレス腱の位置に移設
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詳細なモデリングでデザインを固める。ディテールも考えているが、作画時に不要な造形はここでは省略する。このデータは実際のトイ設計者向けに提供する雛形モデルでもあるので、通常より情報量は多めだ
出力したものをベースに作画。ディテールを加える
デザイン3. 上半身のモデリングとバランス調整
脚部と同じ要領で上半身もモデリング。胴体部分は既存機体と共通であり、先につくられていた。胴体部分を基準に2013年のラフ画のイメージに合わせて全体のバランスを調整している。パーツ単位で清書していき、Photoshop上で組合せ、それぞれ彩色。パーツ単位で制作しているのは、絵の上でもトイ同様にパーツ組み換えでバリエーション検討を行うためだ。仕上げに描き加える影は別途モデルデータからレイトレーシング設定でレンダリングしたものを利用しているが、線画で描き加えられたディテールを反映したりするなど、多少演出的な調整が入っている