ゲームやアニメのキャラクター&メカデザインで活躍しているデザイナー・大久保淳二氏(Facebook:@junji.okubo)。今回はTVアニメ『オーバーロードII』とオリジナルプロジェクトの『出雲重機』を例に、Shade3Dを活用しているというデザイン工程を取材した。
※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 237(2018年5月号)からの転載となります
TEXT_石井勇夫(Z-FLAG)
EDIT_海老原朱里/ Akari Ebihara、山田桃子 / Momoko Yamada
Information
TVアニメ『オーバーロードII』
原作:丸山くがね(「オーバーロード」/KADOKAWA刊)/キャラクター原案:so-bin/監督:伊藤尚往/アニメーション制作:マッドハウス
overlord-anime.com
©丸山くがね・KADOKAWA刊/オーバーロード2製作委員
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『出雲重機』
1000toysで展開中のアートトイプロジェクト用に制作したデザイン画と設定情報をまとめた書籍『出雲重機 INDUSTRIAL DIVINITIES 2017』がHera Publishing〈ヘラ社〉より発売中。詳しくはオフィシャルサイトまで。
www.izmojuki.com
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3DCGをデザイン作業に取り入れ幅広いジャンルで活動
キャラクターやメカのデザインで活躍しているデザイナーの大久保淳二氏。クリエイティブに興味をもったきっかけは80年代に観た『スター・ウォーズ』をはじめとするハリウッドのSFX映画で、特にVFXアーティストのジョー・ジョンストンなどに大きな影響を受けたという。高校卒業後は日本電子専門学校に入学。卒業後もそのまま学校へ技術職員として就職し、メンテナンスや教材の制作、広報のCDROM制作、特撮映画作品へのVFX制作協力など、幅広い業務に従事した。その頃に3DCGと出会い、『スター・ウォーズ』シリーズのメカをモデリングして作品をホームページで発表していたところ、雑誌に取り上げられるようになり、自分の作品を見てもらう喜びに目覚めたという。
その後、外の世界を体験するために転職して漫画家の藤原カムイ氏のデジタル・アシスタントに。並行してモデリングは続け、雑誌やCDROMマガジンなどで活躍。始めはSTRATA 3Dを使っていたが、雑誌で講師を務めた縁もありShade3Dを使うようになった。その頃、オリジナルの企画として後述する『出雲重機』をスタートさせている。中でも氏の名前が大きく知れ渡ったのは2000年代はじめに雑誌「月刊ニュータイプ」で連載された小説『フォー・ザ・バレル』やシミュレーションゲーム『鉄騎』(Xbox)のメカデザインだろう。
現在、大久保氏の仕事の範囲は広く、今回紹介するアニメのキャラクター、メカのデザインのほかに、ロゴデザインやUIデザイン、ゲームのアートディレクション、広告関係のグラフィックなど多岐にわたる。「一番やりたいのはメカですが、ほかの分野も経験したいという欲があります」と大久保氏。様々な種類の仕事を経験することで得られるものはとても大きく、メカのデザインにも良い影響を与えてくれるからだ。そんな中から今回はTVアニメ『オーバーロードII』と、オリジナルプロジェクト『出雲重機』におけるキャラクター・メカのデザインのながれについて紹介していきたい。
Topic 1
TVアニメ『オーバーロードII』篇
~主人公のしもべのアンデットをデザイン~
3DCGと手描きの良いとこ取りで効率的にキャラクターデザイン
ここからは大久保氏が担当したTVアニメ『オーバーロードII』のCGクリーチャーのデザイン例を紹介したい。大久保氏はデザインの際、時間やコストをいかに抑えるかを強く意識しながら進めているという。今回はまず依頼されたキャラクターのリストを参考に原作の精査と徹底的なリサーチをしてムードボード(集めたリファレンスをまとめたイメージボード)を作成。それを下にコストを見積る。そして、1回目のラフチェックで担当する8種類のクリーチャーのラフを全て提出。通常のように五月雨でデザインを挙げていくとスケジュールがずれていきがちなため、最初に修正点を洗い出すのが肝心だという。
デザインの手法としては、3DCGでモデリングを行うものの、その工程は最小限に留め、それを下敷きに手描きで細部のデザインを行う。ラフを3DCGでつくることにより、アングルによって意図とちがう形になるのを防ぐことができる。その一方で、ディテールは手で描くデザインを優先させているとのこと。3DCGと手描きの良いところを合わせて効率化を進めているという。
最終的には手描きデザインの設定画に雛形用のラフモデルを付けて納品。これを雛形とすることで、制作会社でレンダリング用のディテールが入ったモデルをつくる際に、モデラーが悩む部分が少なくなり、デザイン破綻の回避につながると考えている。以前、大久保氏が手描きの設定画を3Dモデリングした際に苦労した経験があるため、「なるべく現場に優しいデザイナーを目指しています」とのことだ。特に納期が短いアニメ業界に対応するため、ここ1~2年ほどは作業の自動化や簡略化を進めたという。
デザインは基本的には原作小説の描写を基につくり上げていくが、それぞれのキャラクターによりキャラクター原案であるso-bin氏のオリジナルデザインがあるものとないものの2通りがあった。右記は原作イラストが存在せず、デザインをゼロから起こす必要があったナザリック・オールドガーダー、ナザリック・エルダーガーダー、ナザリック・マスターガーダーの3体のデザインの工程。「オリジナルデザインがないものを考える際は、小説の記述から描き起こしはじめて世界観に合わせるのはもちろん、キャラクター原案のso-bin氏のデザインにも合わせる必要があり、かなりのプレッシャーがありました」と大久保氏。厳しい条件の中でも劇中で映えるデザインを非常に効率的に生み出している。
1.最初期ラフ
ラフはスケジュール初期に全てのキャラクターを作成。全体のコスト検討のほか、早い段階でチェックを受け、後半にリテイクが発生しないようにすることが目的だ。現場でもシナリオやコンテの作業時に絵があるほうが捗ることや、コンテの検討を進めてもらえば省略可能な箇所の判明も早く、無駄なデザイン作業が発生しにくくなる。なお、このガーダーたち3種類はこのラフ段階でのチェックにより、主人公・アインズたちに比べてかなり強靱な印象があるため、スリムな体型に変更するよう伊藤尚往監督から指示が出ている。大久保氏としては「ゲーム世界から転移した存在」という設定から、あえて屈強な印象のシルエットにしたが、視覚的・演出的なわかりやすさが優先された。盾も芝居に関わるオーダーに応じて大きく変更している
2.ラフモデリング
最初期ラフがOK、もしくはリテイクの指示があった段階で、Shade3Dでモデル制作を開始
マスターガーダー。この時点でコンテやレイアウトなどシーンの参考になる素材はないが、打ち合わせの段階で想定されていたシーン「整列したマスターガーダーの間をアインズが進む」を構成する際に、最適と思われるデザインを三次元的に検討。通常は角を左右へ広げることが多いが、劇中でマスターガーダーが向かい合わせに整列する重要なシーンを考慮して角や肩の突起を前後方向に伸ばした。また、3種のガーダーで共通化できる要素も考慮している
3.リテイク後のラフ
モデルデータをトゥーンレンダラの輪郭線のみでレンダリングして出力。これを下敷きにして描かれたラフ画をスキャンして彩色(はじめに彩色して見せている場合は、この段階での彩色を省略するケースも多々あり)。最初期ラフのマッチョな体形ではなく、伊藤監督のオーダー通りの細身になっている
4.清書
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ラフのOKが出たので清書。手や足裏などディテールも書き足している。スキャンしてPhotoshopの彩色工程へ
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指示用の色を使った影指定は不慣れなこともありグレースケールの彩色で検討する。基本色、BL影(黒ベタ影)、1号影、2号影、ハイライトなどのレイヤーに分けて彩色
グレースケールで彩色後、各レイヤーに対して影指定用の輪郭線・カラーオーバーレイのレイヤー効果を付与。キャプションを追加して完成
旗槍の設定画、他のガーダーとの対比など付随する設定画・資料と合わせて納品
第4話より、マスターガーダーが整列するカット。肩や頭の突起が非常によく映える
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Topic 2
『出雲重機』篇
~メカデザインから合成画像の作成まで~
1000toysとコラボしてアートトイや書籍で展開中
大久保氏がオリジナルプロジェクト『出雲重機』をスタートさせたのは20年前、97年のことだ。「最初は海外の方に向けて、"日本はこんなロボットが街中で働いているくらい進んでいるんだよ"と騙くらかしてみようと思って始めたんです」と企画の動機を茶目っ気たっぷりに語ってくれた。当時はインターネットの黎明期で、サイトも企業と個人の差があまりなかっただけに、本当に重機メーカーだと思い込んだ人から問い合わせもきたという。サイトとオリジナルのTシャツの販売が話題となって、99年にデザイン専門誌で取り上げられ、06年に書籍化。おおいに盛り上がったが、そこでいったん『出雲重機』は落ち着いた。
そこから10年たった15年に1000toysにより1/12アートトイが発表され、クラウドファンディングで目標を達成。リブートとも言える動きが始まった。リブートにあたってAIやクラウド技術などの設定を足すなど、現代ロボットのトレンドを取り入れ、17年には再びクラウドファンディングを成功させてアートトイプロジェクト用に制作した多数のデザイン画と設定情報をまとめた書籍『出雲重機 INDUSTRIAL DIVINITIES 2017』が出版された。
『出雲重機』といえば、まるで現実に存在するかのようなリアリティが特徴だが、これには現実の重機や機械からディテールを取り出し再構築するという、大久保氏のこだわりの姿勢と技術がある。「見る人は日常にあるものを引き合いに出してリアルかどうかを判定していますから、現実にある重機などの要素を取り入れるのは大事です。"カッコイイ"と"リアルさ"とはちがうものなんです」と大久保氏。アニメなどの先人のつくった記号的なリアリティを基礎にメカをデザインしている人が多く見える現状へのカウンターでもあるという。加えて一般的に人気のある"兵器"ではなく、"重機"という部分もカウンター的だ。
仕事をしながら自主制作でこれだけの品質を維持していくのは、並大抵のことではない。最後に『出雲重機』を20年続けられた理由を聞くと「頑固に、そして妥協しないことです」と笑いながら語ってくれた。今も仕事をしながら自主制作をしているアーティストへの金言だろう。今後の展望については「『出雲重機』もひと段落したので、今度は商品としてもっと訴求しやすいものをつくってみたい」との答え。出雲重機では海外のファンも含めてマニアの心を掴めた感触はある。一方で、例えばガンダムやトランスフォーマーのようなヒロイックなメカもつくってみたいとのことだ。「もっと広い一般の人たちにも認知されるような作品をつくりたいですね」と締めくくった。
デザイン1. コンセプトスケッチ
仕事の合間に描かれたコンセプトスケッチ群。これらのスケッチを描いたのは2013年頃で、1000toysによるアートトイプロジェクトが起ち上がる以前のものだ(そのころの大久保氏はスマートフォン向けゲーム開発に従事していた)。その後、2017年にアートトイ開発と『出雲重機』の書籍出版に関連して、この中のひとつ(右)を新型機「Hanger PSS4」として再構築することになった。普段、こういったスケッチは描いては捨てをくり返しているという
デザイン2. 脚部のモデリングとディテールアップ
再構築時に他の機体への転用の必要もあり、脚から着手した際のラフ画。アニメの打ち合わせの帰りにファーストフード店で食事を摂りつつメモ帳に描いたという。『出雲重機』は大型のインタークラス重機と小型のミジェットクラス重機の2系統があり、ミジェットクラス重機になかった二足歩行型の標準的な脚ユニットとして検討している
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Shade3D上でシルエットや構成(パーツ数)、可動域などについて検討。大腿部に油圧シリンダを設けるつもりだったが、トイとしての拡張性(大腿部のみ新パーツ化する場合など)を考えてアキレス腱の位置に移設
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詳細なモデリングでデザインを固める。ディテールも考えているが、作画時に不要な造形はここでは省略する。このデータは実際のトイ設計者向けに提供する雛形モデルでもあるので、通常より情報量は多めだ
出力したものをベースに作画。ディテールを加える
デザイン3. 上半身のモデリングとバランス調整
脚部と同じ要領で上半身もモデリング。胴体部分は既存機体と共通であり、先につくられていた。胴体部分を基準に2013年のラフ画のイメージに合わせて全体のバランスを調整している。パーツ単位で清書していき、Photoshop上で組合せ、それぞれ彩色。パーツ単位で制作しているのは、絵の上でもトイ同様にパーツ組み換えでバリエーション検討を行うためだ。仕上げに描き加える影は別途モデルデータからレイトレーシング設定でレンダリングしたものを利用しているが、線画で描き加えられたディテールを反映したりするなど、多少演出的な調整が入っている
[[SplitPage]]合成1. トイや背景の写真撮影
背景の写真撮影の際に用意した資料。撮影日は1日で、北千住周辺から浅草、お台場を経由して川崎の工場地帯まで。撮影時はGoogleマイマップ機能が重宝したという
トイ背景指定と太陽位置の記録。トイ撮影の際に用いるトイとその背景に使う写真の指定。背景写真ごとのデータ(撮影時のカメラの向き、太陽の位置)が記録されている
トイ撮影時の撮影順と照明位置指定。撮影手順に関する実際的な資料と配置イメージ共有用の資料
合成2. トイと背景を合成
オリジナルの背景写真
後日、スタジオでトイを撮影。撮影は背景、トイともにNOZAWA STUDIO(nozawa-studio.com)の野沢朋央氏による
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影を調整。スタンプツールを使いレタッチして馴染ませる
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重機本体の処理。より重機らしい素材感、屋外らしい陰影に調整。トイのパーツ分割線をレタッチで埋めたり、ゴミなどを消したりしている。さらに、発光部のエフェクトを追加
画像全体にフィルタを追加して完成
同じく「Probe 20WT-SPG」の合成画像。制作工程は同様