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「GDC 2018」エキスポブースに見る隠れた実力派サービス・ミドルウェア

「GDC 2018」エキスポブースに見る隠れた実力派サービス・ミドルウェア

<2>日本企業の出展

エキスポにおける日本企業の存在感は非常に低い。大前提として、日本から海外に展開されるツール&ミドルウェアは限られている。こうした中、今年もシリコンスタジオとCRI・ミドルウェアがサウスホールにブースを出展、それぞれ、異なる方向性で自社製品をアピールしていた点が印象的だった。

■シリコンスタジオ
www.siliconstudio.co.jp


GDCに国内企業最多となる7年連続でブース出展したシリコンスタジオ。左からポストエフェクトミドルウェア「YEBIS 3」、リアルタイムGIミドルウェア「Enlighten」、機械学習エンジン「YOKOZUDA data」を紹介するブース構成で、同社の力のかけ方が感じられた。

中でも注力されたのが2017年5月にARMの100%子会社であるGeomerics社からライセンスを取得したEnlightenだ。デモ「Seastack Bay」のHDR出力上映や、インディゲーム『RiME』のNintendo Switch版デモなどを通して、東京で結成された新しい開発チームでの再スタートを印象づけた。

■CRI・ミドルウェア
www.cri-mw.co.jp


ソニックの巨大フィギュアと共に出展したCRI・ミドルウェア。同社のオーディオミドルウェア「ADX2」を中心に、マルチプラットフォーム展開を強力にサポートするという趣旨のもと、ミドルウェアのデモ展示が行われていた。特にHTML5によるブラウザゲームへのサポートが行われていた点が印象的だった。

もっとも、同社の隠れたテーマは「アジア展開」だった。ブースで上映された全18タイトルのトレーラーのうち、4作がアジア系タイトルだったのだ。担当者によると「GDCはアジアからの参加者も多いため、アピールしたいと考えた。実際、欧米よりもアジア圏の方が、引き合いが強い」のだという。


会場に張り出されていたパネルによると、アメリカの西海岸・東海岸や欧州、日本に加えて、韓国・北京・上海・台湾からの参加者が多いことがわかる。オーストラリア・中南米・さらにはアフリカと、ますますグローバルに拡大してきた。こうした中、GDCの出展目的も企業ごとに広がりを見せているといえそうだ。

<3>大学・教育機関のブース

GDCの展示会場にはアメリカの大学・教育機関ブースも存在する。日本では学校ブースといえば、東京ゲームショウのイメージが強く、近年ではパブリッシャーなみの派手なブースも存在する。入試を控えた高校生にアピールするためだが、業界関係者向けのカンファレンスとあって、ブースは日本人の目から見れば控えめだ。

出展目的も業界とのコネクションをつくることが中心で、中にはパンフレットと名刺しか置かれていないブースも見られた。そもそも国土が広いアメリカでは、大学の格付け機関の影響力が大きく、ゲームデザイン(=ゲーム開発者教育)向けのランキングも存在する。こうした中でも、学生作品を展示していたブースもいくつか見られた。

■ニューヨーク大学ゲームセンター
gamecenter.nyu.edu


こうした中、学生作品『A Memoir Blue』などを出展していたのがニューヨーク大学ゲームセンターだ。同校はThe Princeton Reviewによる大学ランキングのゲームデザイン部門で2位にランクインする名門校で、ブース出展に留まらず、ワークショップや講演にも多数の教員を送り出している。


『A Memoir Blue』
memoirblue.weebly.com

『A Memoir Blue』は幻想的な水中世界を舞台にしたアドベンチャーゲームで、さまざまなパズルをクリアしていくと意味深なストーリーが展開されていく「雰囲気ゲーム」。美しいグラフィックと、テキストがまったく表示されない点が融合し、独特のプレイ感覚が味わえる。2018年にリリース予定で開発が進められている。

■リング・リング・カレッジ・オブ・アート+デザイン
www.ringling.edu


多くの学校ブースがGDC Playに集中する中、サウスホールにブースを構えていたのがRingling College of Art + Designだ。米フロリダにあるアート系の大学で、学内にゲームアート専攻があり、全米27位に格付けされている。ブースでは灯台守として船の運航を管理するアドベンチャーゲーム『Keeper』がデモされていた。

ゲームアート専攻の特徴はデッサンから3DCGまで網羅するアーティスト教育と、ゲームデザイナー教育、そしてリベラルアーツ教育がバランス良くミックスされている点だ。『Keeper』についてもUnreal Engine 4をベースに、独自のシェーダーを学生が制作し、アーティスティックな雰囲気をうまくビジュアルで醸し出していた。
www.ringling.edu/content/game-art-curriculum


ユタ州立大学(6位)


カーネギーメロン大学(ランク外)


COGSWELL COLLEGE(13位)

なお、GDC2014には日本からもトライデントコンピュータ専門学校がブース出展している(日本からの学校出展はこれが最初で最後だと思われる)。出展内容については同校の和田隆夫氏によってスライドがまとめられている。現地での雰囲気が良くわかる内容で、教育関係者なら目を通すことをおすすめする。


筆者はGDCに2003年から連続参加してきた。その中でも最も変化が激しいのがエキスポだ。単純に面積が広がっただけでなく、インディゲームや大使館ブースの増加など、多彩なコンテンツを受け入れてきた。このようにエキスポはGDC自体の位置づけを大きく変えてきた、急先鋒のようにも感じられる。

講演と異なり、エキスポは実際に足を運ばなければわからない点が特徴だ。また、エキスポパスのみで聴講できるセッションやイベントも存在するため、近年では十分に楽しめるようになってきた。GDCには高額なイメージもあるが、ぜひエキスポパスを活用して、足を運んでもらいたい。

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