米サンフランシスコで3月19日から23日まで開催されたGDC2018(ゲーム・ディベロッパーズ・カンファレンス2018)。世界最大級のゲーム開発者会議で、今年は期間中に2万8000人が参加し、過去最高を記録した。本稿ではエキスポエリアから、キラリと光る一点モノの展示を行なっていたブースを紹介する。

TEXT & PHOTO_小野憲史 / Kenji Ono
EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada

<1>ツール&ミドルウェア

GDCのコンテンツは大きく講演と展示に分類される。このうち講演は過去の事例共有だが、展示は各社が最新のツールやミドルウェアを展示しており、「ゲーム開発の今」が体感できる。会場となったモスコーニュセンター・サウスホールでは約500社がブースを構え、それぞれユニークな製品を展示して注目を集めていた。

■Spirit(キャラクターAI)
spiritai.com


「シンギュラリティ」がバズワード化するなど、社会的な注目を集めているAI技術。その一方でゲームのキャラクターAIについては、足踏み状態が続いている。こうした中、ストーリーゲームにおける会話の受け答えに特化したミドルウェア「Spirit Character Engine」が英Spiritブースで展示されていた。

同エンジンの特徴は、単にキャラクターが知的な受け答えをするだけでなく、あらかじめ定められたストーリーラインに従って、即興で会話をつくり出していく点だ。背後には機械学習ベースのクラウドエンジンが走っており、開発者はAPI(すでにUnity向けのSDKが公開されている)を経由してゲームと統合できる。

会場ではノベルゲームでおなじみの選択肢による会話だけでなく、キーボードをタイプして、自然文入力での会話デモも体験できた。マイクを介したボイス入力や、自動音声出力にも対応するという。現在はプレイヤーとNPCとの1対1会話のみに留まっているが、今後NPC同士での自動会話生成にも対応する予定だ。



公式サイトではシナリオライター向けのエディタとサンドボックス環境が提供されており、Unityのプロダクトと統合できる。現在は英語にしか対応していない点がネックだが、ゲーム体験の可能性を大きく広げるように感じられた。特にスマートスピーカーなどと融合することで、新たなゲームが開発できそうだ。

■Shopify(ECプラットフォーム)
www.shopify.jp


ECサイト向けにサイト構築や決済などのサービスを提供するShopify。2006年にわずか5人の従業員からスタートし、今や世界175ヵ国・地域、60万ストアが活用する、世界最大級のEC作成プラットフォームにまで成長した。ネスレ・GEといった海外大手から、ゴーゴーカレー公式通販まで幅広い企業に採用されている。

そんな同社がなぜGDCでブース出展したのか。それはUnity向けSDKのアピールのためだ。事前にクライアント側に設定しておけば、特定のタイミング(実績のアンロックなど)でオリジナルキャラクターグッズの購入ボタンなどを表示させられる。販売ページはゲーム内に統合化され、シームレスに注文できる。


今やTシャツを筆頭にオリジナルのノベルティを制作・発注できるサービスは世界中に存在する。特別な実績を解除するようなロイヤリティの高いユーザーに対して、ゲーム内でしか入手できない限定グッズを用意して販売すれば、新たな収益源として期待できるというわけだ。

モバイルゲーム市場が成熟する中、ビジネスモデルの多様化がゲーム会社にとって大きな課題になっている。こうした中、同社の提供するソリューションは、スマートな解決法を示しているように感じられた。ドキュメントは英語のみだが、国内にも2017年から現地法人が開設されているので、チェックしてみると良いだろう。
help.shopify.com/api/sdks/custom-storefront/unity-buy-sdk/getting-started

■genvid technologies(ゲーム実況配信)
www.genvidtech.com


今やゲームビジネスにおいて不可欠な存在となったゲームプレイの実況動画配信。Twitchを筆頭にさまざまなサービスが急成長している。しかし、現状のサービスは視聴者が動画を見るだけに留まっている。ひいきのプレイヤーのアクションに注目したくても、ままならないのが現状だ。

こうした中、特別な機材を必要とせず、ブラウザのみで視聴者がリアルタイムにゲーム内に参加できる配信ソリューションを提供する企業がgenvid technologiesだ。旧シンラ・テクノロジーズのながれを組んでおり、会場ではアーケードゲームやVRゲームをデモプレイしながら、その模様を動画配信していた。

同サービスは複数の動画ストリームを出力するゲームサーバ側と、ブラウザベースの視聴用インターフェイスに分かれている。これによりgenvidを組み込んだゲームでは、視聴者が「カメラ視点の切り替え」、「ゲーム中のさまざまな情報の閲覧」、「プレイヤーやゲーム世界に対するインタラクション」などの行為ができる。

会場では超高層ビル群を跳び回りながら、3対3でプレイするeSports感覚のVRアクションゲーム『Blitz Freak』(ActEvolve)を用いたデモも行われていた。HTC Viveを使用し、「eSportを見せる」ための演出に注力したタイトルで、視聴者は任意のタイミングでステージ上空から隕石を降らせるなどができた。

【PV】Blitz Freak


ニューヨークとモントリオールに拠点をもつ同社だが、国内でも現地法人を設立する動きがあるという。国内でも遅まきながらeSports市場が拡大する中、視聴者参加型の動画配信ソリューションを提供する同社の存在は、台風の目になりそうだ。公式サイトではUnityとUnreal Engine 4向けにSDKも配布されている。

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<2>日本企業の出展

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<2>日本企業の出展

エキスポにおける日本企業の存在感は非常に低い。大前提として、日本から海外に展開されるツール&ミドルウェアは限られている。こうした中、今年もシリコンスタジオとCRI・ミドルウェアがサウスホールにブースを出展、それぞれ、異なる方向性で自社製品をアピールしていた点が印象的だった。

■シリコンスタジオ
www.siliconstudio.co.jp


GDCに国内企業最多となる7年連続でブース出展したシリコンスタジオ。左からポストエフェクトミドルウェア「YEBIS 3」、リアルタイムGIミドルウェア「Enlighten」、機械学習エンジン「YOKOZUDA data」を紹介するブース構成で、同社の力のかけ方が感じられた。

中でも注力されたのが2017年5月にARMの100%子会社であるGeomerics社からライセンスを取得したEnlightenだ。デモ「Seastack Bay」のHDR出力上映や、インディゲーム『RiME』のNintendo Switch版デモなどを通して、東京で結成された新しい開発チームでの再スタートを印象づけた。

■CRI・ミドルウェア
www.cri-mw.co.jp


ソニックの巨大フィギュアと共に出展したCRI・ミドルウェア。同社のオーディオミドルウェア「ADX2」を中心に、マルチプラットフォーム展開を強力にサポートするという趣旨のもと、ミドルウェアのデモ展示が行われていた。特にHTML5によるブラウザゲームへのサポートが行われていた点が印象的だった。

もっとも、同社の隠れたテーマは「アジア展開」だった。ブースで上映された全18タイトルのトレーラーのうち、4作がアジア系タイトルだったのだ。担当者によると「GDCはアジアからの参加者も多いため、アピールしたいと考えた。実際、欧米よりもアジア圏の方が、引き合いが強い」のだという。


会場に張り出されていたパネルによると、アメリカの西海岸・東海岸や欧州、日本に加えて、韓国・北京・上海・台湾からの参加者が多いことがわかる。オーストラリア・中南米・さらにはアフリカと、ますますグローバルに拡大してきた。こうした中、GDCの出展目的も企業ごとに広がりを見せているといえそうだ。

<3>大学・教育機関のブース

GDCの展示会場にはアメリカの大学・教育機関ブースも存在する。日本では学校ブースといえば、東京ゲームショウのイメージが強く、近年ではパブリッシャーなみの派手なブースも存在する。入試を控えた高校生にアピールするためだが、業界関係者向けのカンファレンスとあって、ブースは日本人の目から見れば控えめだ。

出展目的も業界とのコネクションをつくることが中心で、中にはパンフレットと名刺しか置かれていないブースも見られた。そもそも国土が広いアメリカでは、大学の格付け機関の影響力が大きく、ゲームデザイン(=ゲーム開発者教育)向けのランキングも存在する。こうした中でも、学生作品を展示していたブースもいくつか見られた。

■ニューヨーク大学ゲームセンター
gamecenter.nyu.edu


こうした中、学生作品『A Memoir Blue』などを出展していたのがニューヨーク大学ゲームセンターだ。同校はThe Princeton Reviewによる大学ランキングのゲームデザイン部門で2位にランクインする名門校で、ブース出展に留まらず、ワークショップや講演にも多数の教員を送り出している。


『A Memoir Blue』
memoirblue.weebly.com

『A Memoir Blue』は幻想的な水中世界を舞台にしたアドベンチャーゲームで、さまざまなパズルをクリアしていくと意味深なストーリーが展開されていく「雰囲気ゲーム」。美しいグラフィックと、テキストがまったく表示されない点が融合し、独特のプレイ感覚が味わえる。2018年にリリース予定で開発が進められている。

■リング・リング・カレッジ・オブ・アート+デザイン
www.ringling.edu


多くの学校ブースがGDC Playに集中する中、サウスホールにブースを構えていたのがRingling College of Art + Designだ。米フロリダにあるアート系の大学で、学内にゲームアート専攻があり、全米27位に格付けされている。ブースでは灯台守として船の運航を管理するアドベンチャーゲーム『Keeper』がデモされていた。

ゲームアート専攻の特徴はデッサンから3DCGまで網羅するアーティスト教育と、ゲームデザイナー教育、そしてリベラルアーツ教育がバランス良くミックスされている点だ。『Keeper』についてもUnreal Engine 4をベースに、独自のシェーダーを学生が制作し、アーティスティックな雰囲気をうまくビジュアルで醸し出していた。
www.ringling.edu/content/game-art-curriculum


ユタ州立大学(6位)


カーネギーメロン大学(ランク外)


COGSWELL COLLEGE(13位)

なお、GDC2014には日本からもトライデントコンピュータ専門学校がブース出展している(日本からの学校出展はこれが最初で最後だと思われる)。出展内容については同校の和田隆夫氏によってスライドがまとめられている。現地での雰囲気が良くわかる内容で、教育関係者なら目を通すことをおすすめする。


筆者はGDCに2003年から連続参加してきた。その中でも最も変化が激しいのがエキスポだ。単純に面積が広がっただけでなく、インディゲームや大使館ブースの増加など、多彩なコンテンツを受け入れてきた。このようにエキスポはGDC自体の位置づけを大きく変えてきた、急先鋒のようにも感じられる。

講演と異なり、エキスポは実際に足を運ばなければわからない点が特徴だ。また、エキスポパスのみで聴講できるセッションやイベントも存在するため、近年では十分に楽しめるようになってきた。GDCには高額なイメージもあるが、ぜひエキスポパスを活用して、足を運んでもらいたい。