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生配信を支えるVRアニメ制作ツール「AniCast®️」

生配信を支えるVRアニメ制作ツール「AniCast®️」

「東雲めぐ」ができるまで

「はぴふり! 東雲めぐちゃんのお部屋」
AniCast® XVI Inc./©うたっておんぷっコ♪/©Gugenk®
www.showroom-live.com/megu

キャラクターデザインと3Dモデル



  • デビュー当時からのコスチューム「冬服」。うさ耳スカーフや背面の大きなリボンのほか、ちょっと高めのヒールといったポイントが目を引く。また生地の紺がデザイン時点ではやや暖色寄りなのも特徴だ



  • 変身案のデザイン画。うさぎのモチーフがより前面に押し出され、また音符要素も付与されている。今後はこうした制服姿以外のコスチューム展開も見られるかも?

Maya上でリギングを施した状態。ポリゴン数は約5万5千ほど。バーチャルキャラクターの3Dモデルでは、めり込みを避ける意図もあり袖がないデザインになることが多いが、コンセプト的に露出を控えたデザインとなっている。めり込みのせいで実在感が削がれてしまわないように、ウェイトは慎重に調整したとのこと。袖口を揺らすためのボーンのほか、股関節やふくらはぎのウェイトを適切にふるために、補助ボーンが設けられている。なお、デザイン&モデリングはGugenka®の五十嵐拓也氏が担当した

補助ボーンの追加でより自然な変形を可能に

手首の形状変形を改善するための工夫として、手首と肘の間に補助ボーンが追加された。手首の捻りを表現する際、手首のボーンを直接回転させるのではなく、この補助ボーンを捻ることでより綺麗にデフォームさせられる



  • 補助ボーン追加前のデフォーム。前腕から手首へつながるシルエットが不自然に見える



  • 補助ボーン追加後。自然なシルエットになっている。手首の回転は前腕の尺骨・橈骨がねじれることで行われるという、身体の構造に沿った骨打ちと言える。「XVIさんから知見をいただくかたちで補助ボーンを入れました。とても綺麗な変形になって良かったです」(鈴木氏)

豊かなフェイシャルによってキャラクターに魂を吹き込む

モーフターゲットは顔パーツを上下に分け、それぞれ作成されている。目元とまゆげがそれぞれ12パターン、口元が24パターンだ。目元は眼球の動きに合わせて微妙にデフォームするようになっており、例えば眼球の上下動と連動して目の見開きが調整される。また表情筋が連動するようなかたちで、眉毛も若干移動する。口元はOculusの配布しているOVRLipSyncをベースに拡張(XVIからAniLipSyncとしてGitHubにてMITライセンスで公開中)。この際、ある形状から別の形状への補完をリニアで行わず、モーフ開始の早い段階で大きめに形状変形するようなカーブにすることで、アニメの口パクのような、リミテッドなリップシンクが実現された。詳しくはBOOTHで公開中のUniteの資料で確認できる



  • 顔付近のボーン構成。前髪にボーンは配置されておらず、髪飾りの花、横髪が物理演算で揺れるようになっている。またボリューム感のある後ろ髪は、途中までは1本のジョイントチェーンで、比較的末端近くで中・左・右に分岐して揺らしている



  • 表情の一例

創意工夫を加速するポテンシャル

YouTubeチャンネル「MeguRoom」には歌ってみた動画が投稿されている。いずれもめぐさんが制作したもので、ある日ふと投稿され、XVI・Gugenka®の誰もが驚いたという。「動画のことは知らず、編集から配信まで、めぐちゃん本人が4時間くらいでつくったと聞いて驚きました」(室橋氏)。「AniCastはもともと簡単に映像を制作するためのツールで、カメラアングルも動かせました。ベース機能の応用と、めぐちゃん本人の素質でびっくりするような動画がつくられていました」(狩野氏)

満点の星空の中で歌うめぐさん。全天を覆う背景は、普段の配信中にファンアートを掲示する機能を応用して、星空を貼った板を拡大し、複数敷き詰めることで再現している

同様にハートの画像をVR空間内に多数固定し、描き割りの中でポーズをとっている表現。「最近はめぐちゃんからのリクエストで、風を吹かせる"扇風機"を用意しました」(室橋氏)とのことで、髪が風になびく表現も見られるかもしれない

実在感を最大化する工夫と今後の展開

コンテンツとして、キャラクターとしての魅力など、めぐさんの放送には様々な側面がある。それらを下支えしている"安定感"や"自然さ"という雰囲気も視聴者を引き込んでいるのだろう。めぐさん本人の創意やスキルによるところも大きいが、実在感を損ねないためにAniCastに施されたチューニングの数々も忘れることはできない

「Unite Tokyo 2018でも触れたのですが、関節や目線の補正には気を遣っています。肘の角度は手にもったOculus Touchの情報のみからは正確には得られません。しかし実際の関節の可動範囲を基に、必要以上に動かないように制限し、手がこれくらいの位置にあるときに肘や肩はこれくらいになるはず、というしくみにしました」(狩野氏)。これによってOculus Touchの位置・角度によって肘が極端な向きになってしまうことを回避している。目元については、普段「考えながら動かしているわけではない」動きを手で操作してもらうのは酷だということで、諸々の制御がセミオートで行われるようになっているそうだ。「こうした制限や補正を応用し、将来的にキャプチャしたデータからキャラクターのテイストが宿ったモーションをワンタッチで得られるようにできないかと構想しています。CG映像はキャラクター崩れが起きないなど、ボトムを揃えやすいのが特徴ですが、そのボトムラインをさらに押し上げることになるでしょう。そうして良質な作品がどんどん増えていくことにつながれば良いですね」(室橋氏)



  • サングラスをかけためぐさん。こうしたオブジェクトの装着を発展させ、ゲームのキャラクターメイクのような衣装の切り替えも予定されている



  • 7月9日(月)の生放送では夏服姿が披露された。今後の展開に期待したい



  • 月刊CGWORLD + digital video vol.241(2018年9月号)
    連載「アニメCGの現場」にて『詩季織々』CGメイキングを掲載!

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