Topic 2
むかわ竜やティラノサウルスが暮らす陸上世界
高解像度、高精細を活かしたVFXのあくなき追求
続いては、むかわ竜やティラノサウルスが登場する陸上世界。8K映えする表現とはどのようなものだろうかと考えた末に、800頭を超える恐竜で構成された群衆表現へのチャレンジが決まったという。実写素材はRED HELIUMで撮影(先述の海中シーンも同様)。「8K解像度になるとちょっとした現代物の消し込みだけでも非常に時間のかかる作業になってしまうので、山口県宇部市にある海岸で行われた撮影には、われわれVFXチームも現場に立ち会って映り込みやバレものに対して入念なチェックをしながら撮影を進めていきました。HDRI素材もなるべく細かく撮影するようにしています。8KだとHDRのダイナミックさをよりダイレクトに活かせることが魅力ですね」と、日髙公平氏はふり返る。
800頭を超える恐竜の群衆シーンは、まず20~30秒程度の汎用モーションを作成し、使用する際には各恐竜のタイミングをオフセットして適用していった。むかわ竜については、汎用モーションが8パターン作成されている。800頭の恐竜を海岸線にレイアウトする作業には、Arnorld Scene Source(ASS)を活用。この物量では、恐竜を1頭ずつ配置するのは物理的に困難なため、自動配置できるしくみが構築されたが、自然なレイアウトを求めて最終的には手作業による修正も重ねたという。さらに、恐竜たちが棲息している場所が海岸線の砂地ということで、歩行する恐竜の足跡や緩やかな起伏のある地表への接地など、難しい処理が多く求められたという。足跡については、NUKEのパーティクルで足跡を配置し、エンボスフィルタを使って立体的に見えるように調整。「Houdiniを使うことも考えたのですが、コンポジットワークで対応した方が手早く行える表現については、NUKEで作成しています。個人的にNUKEのパーティクルを初めて使用したのですが、とても使いやすかったので今後も活用したいですね」と、加藤氏。微妙な高低差のある地表とのマッチムーブはNUKEX、PFTrack、SynthEyes等を使用し、結果の良いものを選択して使っているが三次元情報を形状化できないような場合は手作業で合わせているとのこと。「8Kだと実写の砂の粒が見えてしまったり、4Kに比べるとエフェクトと実写の馴染みなども大変になってきます。時にはトリッキーな手法など、目指す表現に応じて臨機応変に対応することが不可欠」とは、北川氏。また、ワークフローの構築やライティングをリードした渡部辰宏氏は次のようにふり返る。「8Kコンテンツは、しっかりやっただけ、その成果が表れてきます。裏を返せば"誤魔化しがきかない"ということを痛感しました」。
大小様々な数百頭から成る恐竜たちの群れ
群衆カットのブレイクダウン
完成形
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実写プレート。8Kセンサーを搭載したRED HELIUMで撮影、3軸制御のジンバルシステム「DJI Ronin」が併用された
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レイアウトとアニメーション。奥のボックス(赤色)は汎用モーションを.assファイルでエクスポートしてstandInに読み込み、フレームオフセットを付けて配置
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汎用モーションの.assファイルをstandInに読み込み並べた例。配置作業を効率良く行うため、各キャラがどれくらい動くかを表した矢印型のコントローラが取り付けられている
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standInを実際に配置したMayaシーン。赤色のオブジェクトがstandIn。数や位置などはカット作業時に何度もブラッシュアップが重ねられた
植物を食べるむかわ竜 ~実写素材の活用~
本プロジェクトでも適宜実写素材を活用することでクオリティと作業効率の両立が実践されている
足下の砂エフェクト ~ティラノサウルス~
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砂素材をMantraでレンダリング
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恐竜のアニメーション
臨場感を高める波飛沫 ~モササウルス~
波打ち際に近づいた子供のむかわ竜を捕食するモササウルスのカット。波飛沫エフェクトは、HoudiniのFLIPシミュレーションで作成された。アップになるカットは、WhiteWater(白波)をメインに作成。FLIPシミュレーションでは解像度を抑え、その代わりに2次シミュレーションの白波を生成することでパーティクル数を増やし、解像度を稼いでいる。メッシュ化した水は解像度感が緩く8K制作には堪えられないが、白波は比較的短いシミュレーション時間で生成可能であることに加え、数を増やすのも比較的容易なため8Kにも対応できたそうだ。また、質感についてはボリュームのスペキュラ素材を作成することで、水らしさを高めている。ただし、この手法はモササウルスが暴れているという設定だからこそ有効だったとのこと