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クライマックスを盛り上げる ~海ほたるシーン~
物理的な整合性と演出を両立させる
白組が担当した、クライマックスの舞台となる「海ほたる」シーンのVFXは69ショット。ドクターヘリのアセットは1から支給されたが、1ではレンダラにV-Ray、白組ではArnoldを採用していたため、データ変換を行う必要があったという。「Arnoldは、物理ベースの処理に定評がありますが、モーションブラーも綺麗 でした。通常はローター系のブラーは実写素材を乗せたりするのですが、今回はそうした対応はいっさい行なっていません」と、白組チームを率いた高橋正紀VFXディレクターは語る。
海ほたるシーンの主なVFXとして、先にもふれた予告編にも登場する空撮ショットが挙げられる。オフライン編集時にランピング(タイムストレッチ)処理が施されていたため、黒煙のCGエフェクトや実写プレート中に映り込んだ走行するクルマ等、演出との整合性をとるのに苦労したという。「通常であれば可変前のノーマルなプレートでシミュレーションして、それから可変するのが美しいのですが、今回は可変後のものをトラッキングし直してシミュレーションをかけるというながれで、黒煙エフェクトを作成しました。1,500フレームと長尺なことに加え、カット頭で理想的な状態にするためには相応に事前の計算時間も求められました」とは、エフェクトワークを手がけた松本 圭氏。多大なる労力の上に完成したことは想像に難くない。
当然ながら海面の表現でも3DCGが活躍している。いずれのカットも自然な海面に仕上がっているが、基本的にはBOSS(Bifrost Ocean Simulation System)が使われている。「BOSSを使って波を作成し、それを元にBOSSキャッシュとして海面の波をベクターディスプレイスメントマップとして吐き出し、実際のカットではその画像を板ポリに対してディスプレイスさせて使用しています。航跡まではやらずに、海と何かがぶつかった ときに泡っぽいものが出るように工夫しました」と、大型フェリーをはじめとする船舶のアセット制作からショットワークまでをリードした田口工亮氏は語る。「ベクターディスプレイスメントの精度が高く、海面などの細かい波も表現できて良いと思います」と高橋氏も海面のレンダリング結果に太鼓判だ。そのほかにも、白組の調布スタジオが山崎 貴監督作品などを通じてノウハウを蓄積してきたデジタルエキストラが本作でも活躍している。フォトグラメトリーをベースに作成されたものだが、今回は特に上手くいったそうだ。「救命胴着や消防士の衣装のカラフルさや突起の多さがCGキャラクターの質感や陰影を施す上で効果的だった気がします」(高橋氏)。
広大な空撮ショットに華を添える
劇中で海ほたるに衝突する大型フェリーの完成モデル。モデリングには、MayaとZBrushを使用。テクスチャ作成ならびに質感付けにSubstance PainterとMARIが用いられた
黒煙エフェクトはFumeFXで作成された
ブレイクダウン
3DCGによる海面の表現
海面の表現にはMaya 2017から実装された「BOSS(Bifrost Ocean Simulation System)」が用いられた。「BOSSで波を作成し、それを基にBOSSキャッシュとして海面の波をベクターディスプレイスメントマップとして書き出しています。実際のショットでは、その画像を板ポリに対してディスプレイスさせて使用しています」(田口氏)
ブレイクダウン
一連のコンポジット処理が施された完成形。白組 調布スタジオの強みとして、実写素材の効果的な活用術も知られているが、本作でも海面等に実写が併用されている。「現在最も使い勝手が良い実写素材は、iPhoneの4K動画だと思っています。露出もバッチリ合いますし、iPhoneユーザーのスタッフも多いので様々な種類の素材を手早く集めることができます」と、高橋氏は隠しTIPSを披露してくれた
さらに進化した白組のデジタルエキストラ
Mayaで作成したデジタルエキストラ
ブレイクダウン
一連のコンポジット処理が施された完成形