シェーディング・テクニックはスタジオの共有財産
ルックデベロップメントの工程と担当者を設ける利点として、折笠氏は「シェーディング・テクニックの統一」「レンダーの最適化」「アセットのルックスの統一」「プロトタイプ、テストの高速化」の4点を挙げた。
「ルックデベロップメントによって開発されたシェーディング・テクニックをプロジェクト内で活用することに加え、それを以降のプロジェクトにも引き継ぎ、社内の全プロジェクトのシェーディング・テクニックを最新状態で統一しておくことが重要です」(折笠氏)。シェーディング・テクニックはスタジオの共有財産のため、ILMではソフトウェアやシェーダの進化に合わせ、基準となるマテリアルやシェーディングネットワークを常に更新しているという。
また、ルックデベロップメントの段階でレンダリングのテストを繰り返し、最適化を行うことも重要となる。特にレンダリングに時間のかかる大規模アセットは、ショット制作に入る前に最適化しておくことで、レンダリング時間を必要最小限に抑えることができる。
各アセットのルックを統一する上でも、ルックデベロップメントは重要な役割を担う。アセットのテクスチャは、それをペイントしたアーティストごとに多少のバラツキが発生することもあるため、そのバラツキをなくし、同じ世界感のルックで統一させることもルックデベロップメントの役割となる。
映画制作におけるアセットのルックは監督の承認がなければ次の工程へ進められないため、プロトタイプ制作とテストレンダリングを迅速に行い、いち早く監督に見せることも大切だと折笠氏は解説する。これを実践する上でも、シェーダのパラメータ調整によって高速かつ柔軟にルックを調整できるルックデベロップメントが重要となる。
なお、ILMのルックデベロップメントではMARIも重要な役割を担っている。MARIは3Dモデルへの直接ペイント、シェーダの作成、リアルタイムのプレビューなどが可能なため、テクスチャリング担当のアーティストもルックデベロップメントの一部を任されている。MARIで設定されたシェーダはリアルタイムに確認でき、ルックのバラツキを最小限に抑えることが可能なため、ルックデベロップメントの担当者はメインアセットの制作に労力を集中できるという。
スター・デストロイヤー(大規模アセット)によるダウンタイムを削減
最後に折笠氏はKATANAの特徴として、「並列作業による効率化」「ダウンタイムの削減」「ノードアセットの共有と再利用」の3点を挙げた。
CG制作のパイプラインは、レイアウト、モデリング、テクスチャなど数多くの工程で構成されている。ILMでは各工程の担当者が順番にデータを受け渡すのではなく、並列作業を行うことで効率化を図っており、工程ごとの進捗はデータベースでバージョン管理されている。ILMはKATANAのインポートマティック(アセットインポーター)を独自に強化しており、シーンの再構築が容易に行えるようにしているのに加え、複数ショット(マルチショット)におけるルックやライティングの差分をひとつのKATANAプロジェクトで一括管理できるようにしているという。「例えばマスターショットのライティングがアップデートされれば、関連するサブショットのライティングもアップデートされます。3割ほどのショットではそれに合わせたライトの微調整が必要になりますが、大幅な作業の自動化が可能なため、少ない人数で数多くのショットを担当できます」(折笠氏)。
ダウンタイムの削減の解説では、『ローグ・ワン』のスター・デストロイヤーのアセットが事例として取り上げられた。スター・デストロイヤーは、10個のサブ・アセットを組み合わせた大規模アセットで、キャノン砲などのインスタンスが17個あり、2万7千を越えるオブジェクト、900万を超えるポリゴン(サブディビジョンサーフェスの適用前)で構成されている。当然データのローディングには時間を要するが、KATANAにはDeferred Loadingという機能があるため、メモリにかかる負担を大幅に削減できたという。本作には更に大きなシールド・ゲート(車輪型の宇宙ステーション)のアセットも存在したため、KATANAによる大規模アセットローディングの高速化がスケジュールに与えた影響は非常に大きかったと折笠氏は解説した。
KATANAで設定したシェーダなどのノードグラフはエクスポートできるため、ほかのプロジェクトでの共有や再利用も可能だ。例えばスター・デストロイヤーの一部のシェーダは、ほかのアセットでも共有しているという。KATANAのシェーダはカスタマイズが容易なため、新規に作成したシェーダをCANONICAL PIPELINEに組み込み、以降のプロジェクトで再利用する場合もあるそうだ。
ILMでは前述のMARIによるルックデベロップメント、インポートマティックの強化、マルチショットの一括管理に加え、内製ツールによるレンダーパスの自動化を行うことで、パイプラインを強化している。ライティングアーティストやTDが1日の終わりに内製ツールを使ってレンダリング対象のショットを指定すると、自動的に最新バージョンのデータのレンダリングやコンポジットが実行され、翌朝のデイリーでムービーが確認できる仕組みになっている。そのため、監督などへのチェックの依頼もスムーズに進められるようになる。
折笠氏は「パイプラインにおける手作業を極力なくし、なるべく自動化することで、アーティストがクリエイティブな作業に多くの時間を費やせるように工夫しています」と語り、パイプライン強化の重要性を強調した。
以上のように、ILMでは優秀なルックデベロップメント&ライティングツールとして活用されているKATANAだが、日本国内でどの程度普及していくかは現時点では未知数だ。しかし今年に入りKATANAを導入した大手CGプロダクションが数社あるのに加え、本セミナーには数多くのCGプロダクションやゲーム会社の関係者が参加しており、パイプライン強化に対する関心の高さが伺えた。現在は30日間の無料トライアルもあるため、KATANAに興味をもった方は試してみてはいかがだろうか。
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▲KATANA プロダクトサマリー
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