<2>エピソード4へのつながりも意識してつくられた映像
ロブ・ブレドー:列車強盗のシークエンスは20分間におよぶ長いものですが、ここでは最後の爆発シーンについてお話します。脚本には「見たことがないような爆発を」と記してありました。過去の『スター・ウォーズ』作品は斬新な映像の連続でしたから、それを踏襲する必要がありました。ちなみにエピソード4のデス・スター破壊シーンは、火薬を爆破して高速度撮影を行い、宇宙での無重力状態の爆発をデザインしたものですが、今見ても大変素晴らしいものがあります。
そこで、われわれはイタリアの山地ドロミーティへ行き、6日間のロケを敢行しました。ARRI ALEXA 65で、ショットに必要な120ものプレートを撮影しました。また、様々な変更に柔軟に対応するため、追加で1000枚近い画像をヘリコプターから撮影しました。これらをフォログラメトリーによってジオメトリを生成、そしてプロジェクション用の高解像度テクスチャも採取しました。
テクスチャは、プロジェクション時に最も高解像度のテクスチャを選び、プロジェクション・マッピングを行いました。こうしてデジタルの渓谷を生成し、完成した渓谷を背景として使用するわけですが、テクスチャには、撮影した日の実際の山地の質感、そして自然のライトが"ベイク"されています。こうして実在する風景を、3Dエンバイロンメントとして使用することができたのです。その後のセット撮影では、列車のセットでスタントの撮影を行い、合成パートへと引き継がれました。背景には3Dエンバイロンメントか実写プレートを使用して合成を行いました。
この後に例の爆発シーンが登場するわけですが、ILMには過去40年間の蓄積による、爆発映像の素晴らしいライブラリーがあります。この中から適格なものを探しても良いのですが、しかし、もっと斬新でユニークでカッコ良いものはないだろうか? と探していたところ、ある日の明け方、偶然にもYouTubeの「The Slow Mo Guys」のチャンネルでこんなものを見つけたのです(下記映像参照)。
Underwater Explosions at 120,000fps - The Slow Mo Guys
ロブ・ブレドー:この映像からヒントを得て、可能な限り背景の映像とアングルを合わせてカメラをセットアップし、高解像度+ハイダイナミックレンジ+25,000FPSで撮影しました。こうして得られた超スローモーションの爆発映像を、エリアル撮影素材、3Dジオメトリの山地、破壊される山、ボリューメトリック・シュミレーションと組み合わせて合成し、あの爆発ができ上がったのです。
パトリック・トゥバック:さて、4本の腕と2本足のキャラクター、リオについてお話したいと思います。初期のコンセプト・アートでのリオは、キュートなデザインで毛も多めでしたが、最終的には加齢して、毛も少しまばらにしました。それからアニメーションのテストを行いました。声は俳優のジョン・ファブローが演じていますが、彼の個性に合わせてセリフを柔軟に変更した箇所もあります。
リオの動きは、中に人が入った着ぐるみを撮影し、上半身をCGに置き換えています。戦闘服を脱ぎ棄てるシーンでは、4人のパフォーマーを動員して操演したものをベースに、ペイント、ロト、コンプを駆使してCGで差し替えています。
続いて、ロブがL3-37(女性型ドロイド)についてお話します。
ロブ・ブレドー:L3-37はこの作品の中でも独特のキャラクターで、立志伝中の女性ロボットです。基本的なデザインが固まった後、私は簡単なスケッチを起こし、どの部分を画面に残し、どの部分をグリーンで抜いて、どの部分をCGパーツで埋めるかを決めました。
最終的に画面に登場するL3-37は、女優フィービー・ウォーラー・ブリッジがコスチュームを着けて演じたプラクティカルなコスチューム、膨大なデジタルのペイントワーク、これらを繋ぐCGパーツのハイブリッドで構成されています。L3-37の動きはフィービーの演技がそのまま使用されているのです。
© 2018 Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved.
ロブ・ブレドー:ダメージを受けた後のL3-37はCGですが、コスチュームをフォト・スキャンして正確なデジタル・モデルを起こしました。ルックデヴ・スーパーバイザーがプラクティカルなL3-37モデルを参考に、CGモデルの見た目を可能な限り近づけました。
余談ですが、L3-37に顔を掴まれた男性を演じているのは、ロン・ハワード監督の弟で俳優のクリント・ハワードです。
さて次に、コックピットのシーンなどで多用されたプロジェクションについて紹介しましょう。われわれは、撮影時になるべく多くの要素を画面に取り込むよう心がけました。この作品は、過去のシリーズでは例を見ないほど、ミレニアム・ファルコン号のコックピットでのシーンが数多く登場します。
© 2018 Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved.
ロブ・ブレドー:『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』のときにVFXスーパーバイザーのジョン・ノールが、LEDスクリーンでプリレンダー映像を再生して、その前での演技を撮影する手法を採用しました。これは、効果的なインタラクティブ・ライティングが得られる最適の方法でした。俳優の輪郭部分にも、とても自然なリム・ライトが得られます。
今回は、ミレニアム・ファルコン号のコックピットのセットの周りに曲面スクリーンを配置し、そこにプリ・レンダー映像を投影し撮影しました。5台の4Kレーザープロジェクターで投影すると、大変明るい映像が得られます。
この手法が大変効果的に表れているのが、私のお気に入りのショットの1つ、ランドとL3-37がハイパースペースへジャンプするのを後ろで見ているハン・ソロの嬉しそうな横顔シーンです。彼の瞳と顔面に、非常に効果的な反射や照り返しが得られているのがおわかりいただけると思います。
このショットの最初のリハーサルで、役者3人がコックピットに入り演技を始めたとき、前方にハイパージャンプの映像が投影され、スタッフ達がコックピットのセットを揺らしました。終わった瞬間、3人はハイタッチをして大興奮、子供のように喜んでいました(笑)。
© 2018 Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved.
ロブ・ブレドー:このほかにL3-37とキーラが語り合うシーンでも、ガス雲の照り返し映像がコックピット内の間接照明の役割を果たしていますし、ドライデン・ヴォスのパーティ・シーンでも、窓の外の風景の照り返し効果を出しています。
SIGGRAPH会場内のプロダクション・ギャラリーには「ランド・ファルコン」のミニチュア造形も展示されていた
グレッグ・ケーゲル:ドライデン・ヴォスの話が出たところで、彼のキャラクターについてお話します。ポール・ベタニーが演じたドライデン・ヴォスは、われわれにとっても興味深いキャラクターでした。撮影時には顔面に傷跡は入っていませんでしたが、普通の人間ではなくエイリアンの血が入っていることを匂わせるようなキャラクター性をもたせるために、後から傷跡を顔面に付け加えることになったのです。しかし、ポールの感情面の演技がきちんと見えなければなりません。そこで、「ドライデン感情レベル監視メーター」と称される感情レベル表をつくり(笑)、彼の感情に合わせて傷跡の濃淡を調整できるようにしました。
では続いてパットが、「ケッセル・ラン」のシークエンスについてお話します。
パトリック・トゥバック:ケッセル・ランは映画の中核であり、サード・アクトの重要なシークエンスでした。
まず最初に惑星ケッセルのコンセプト・アートを起こしました。黄を基調色とする木星のような惑星です。エチオピアに実在するダロル火山などを参考にしましたが、ナショナル・ジオグラフィックの映像を見ているような自然ではなく、もっと邪悪な雰囲気をもたせる必要がありました。
実際には、プロシージャル・テクスチャとフォトモデル・テクスチャの組み合わせ、2D&3Dの蒸気、100人規模のウーキーの奴隷などを合成して、仕上げていきました。
ジョセフ・カスパリアン:惑星ケッセルに着陸した後のシークエンスは、Hybrideが担当しています。まずILMから届いたグランド・レベルのアート・ワークやジオメトリをベースに作業を開始しました。セット・エクステンションが主でしたが、クローズ・アップでディテールが足りない箇所などは、鋭意アップレゾをしながら作業を進めていきました。
パトリック・トゥバック:コークスクリュー・トンネルは、惑星ケッセルから安全に出入りするためのトンネルです。このガス・トンネルの表現には、FX部門で新しい方法が開発されました。平坦なサーフェス上でボリュームにプロシージャルにノイズを発生させた後、トンネルの形状に沿って変形させるというアプローチです。これにより、ボリュームの動きの細かいコントロールが可能となりました。
グレッグ・ケーゲル:コークスクリュー・トンネルを抜けた後は、空間にカーボンバーグと呼ばれる隕石が大量に浮遊しています。FXテクニカル・ディレクターは、カーボンバーグをインスタンスすることによってMantraでレンダリングしました。背景にあるガスのアトモスフィア素材には、稲妻のライトパスも含まれ、合成時に稲妻のタイミングをNukeでコントールできるようにしました。これらの複雑なエレメントはDeep Compで合成しています。
パトリック・トゥバック:課題の1つに、新品同様のミレニアム・ファルコン号がケッセル・ランで徐々にダメージを受け、エピソード4でのビンテージなファルコンになっていくという表現がありました。
テクスチャでそれらしく見せるか、それともモデルを切り替えるか。どちらにせよ膨大な作業で、CG現場からはあまり歓迎されませんでした(笑)。そこで設定を整理してオーガナイズし、最低限の作業で収まるよう検討したのです。
ロブ・ブレドー:『スター・ウォーズ』シリーズで豊富な経験をもつデザイン・スーパーバイザーのジェームズ・クラインが、ダメージ段階のデザインを手がけました。彼はエピソード4の初期デザイン画などを参考にしながら、どのようにダメージ段階を展開していくかを検討しました。
ランドは戦士ではなく運び屋ですから、彼の性格を考慮して脱出ポッドも装着されました。また、この映像(※会場で紹介された資料)でもおわかりのようにエピソード4のランディング・ギアは3本でした。そしてエピソード5のランディング・ギアは前が3本、後ろが2本の計5本ありました。『ハン・ソロ』ではエピソード4につなげるため、カーボンバーグに接地し機体がスライディングする際に前の2本が失われるという設定にしました。
では、エピソード5でどうやってランディング・ギアが5本に増えたのか? という疑問が残ります。われわれは、エピソード5の中にそれらしいセリフが入っているのを見つけました。ランディング・ギアを修理するチューイに、ハン・ソロが「Why did you take this apart now? Put them back together now!」と怒鳴るセリフ(※)があります。チューイは、映画『ハン・ソロ』のときに前足2本を失ったことを覚えていたので、エピソード4とエピソード5の間に修理したのでしょう(場内から拍手が起こる)。
※『エピソード5/帝国の逆襲』DVDの7分5秒目あたりに登場する
パトリック・トゥバック:スペース・モンスターを飲み込み、ファルコン号も危うく引きづり込まれそうになった巨大なブラックホール、グラビティ・ウォールについてお話します。グラビティ・ウォールは、コンセプト・アートを元に、FXスーパーバイザーのフローレント・アンドーラが、計算時間を要するシュミレーション・ベースではなく、Houdiniのプロシージャル・ベースによるグラビティ・ウォールの開発に成功しました。
歴代『スター・ウォーズ』作品には様々なクリーチャーが登場しましたが、今作では触手のあるスペース・モンスターがファルコン号とのチェイスを繰り広げます。目はサメや深海魚のような不気味さを放ち、8本の触手をもつクリーチャーです。グラビティ・ウォールの重力で皮膚が剥がれていくショットは、『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』の頭が溶けるショットなどをリファレンスにしました。
ロブ・ブレドー:そろそろ終了時間ですので、プレゼンテーションはこれで終わりたいと思います。『ハン・ソロ』は、ILMだけではなく、膨大なショットを担当したHybrideを始め、多くのVFXパートナー各社との連携によって完成しました。大勢のアーティストが携わり、素晴らしい仕事をしたと考えています。
Making the Kessel Run in Less Than 12 Parsecs - The VFX of "Solo: A Star Wars Story"
photo by Jim Hagarty
© 2018 ACM SIGGRAPH