>   >  民生向けとしては最大規模の32コア64スレッドCPU「第2世代Threadripper」が登場! AMDが仕掛ける新たなCPU戦略とは
民生向けとしては最大規模の32コア64スレッドCPU「第2世代Threadripper」が登場! AMDが仕掛ける新たなCPU戦略とは

民生向けとしては最大規模の32コア64スレッドCPU「第2世代Threadripper」が登場! AMDが仕掛ける新たなCPU戦略とは

Threadripperを取り巻くプラットフォーム

第2世代Threadripperを取り巻くプラットフォームについても言及しておこう。第2世代Threadripperは、先代Threadripperからチップセットやソケット形状の変更はなく、従来から存在する第1世代Threadripper用としてリリースされているチップセット「X399」ベース、「TR4」ソケットベースのマザーボードがそのまま利用できる。ただし、BIOS等のアップデートは必要だ。

第2世代Threadripperは基本的に既発売のX399チップセット搭載マザーボードがそのまま利用できる。写真はASUS製X399マザーボード「ROG ZENITH EXTREME」

第2世代Threadripperでも引き続きPCIe3.0が64レーン提供されるAMD X399プラットフォームを利用することとなる

前段で「16C32Tの第1世代Threadripperの1950Xと第2世代Threadripperの2950Xのちがいは、第2世代Threadripper向け専用機能の有無にある」と述べたが、そのちがいとは、先行して発売されていたZEN+コアベースの2世代目Ryzen(Ryzen Desktop 2000シリーズ)向けに提供されている各種オーバークロック関連の機能にある。具体的には「Precision Boost 2」(PB2)、「Extended Frequency Range2」(XFR2)、「Precision Boost Overdrive」(PBO)などのオーバークロック支援機能のことを指している。

PB2は、各CPUコアの負荷の高低に応じて、現状の発熱状況に的確に配慮しながら25MHz単位で動作クロックを制御するものだ。XFR2は、その時点での各CPUコアの温度条件に応じてさらに積極的なオーバークロックを25MHz単位で行うもの。PB2とのちがいは、PBO2が定格運用範囲での動作クロック制御であるのに対し、XFR2はCPUコアが冷えていればいるほどオーバークロックマージンを積極的に使ってオーバークロックを実践するという点だ。いずれもAMDが開発段階、動作検証段階で取得したプロセッサコアの動作特性データを基にした制御で、いわばAMD謹製のオーバークロックメソッドと言うことになる。

PBOはXFR2よりもさらに限界オーバークロックに挑むことをAMDが容認するモードだ。ただし、このPBO利用時はAMD謹製の機能ではあるものの定格外の動作となるため、故障時は保証対象外となる。

PBOは動作保証対象外のオーバークロック機能となるが、少ない設定項目で比較的成功率の高いオーバークロックが楽しめる

レイトレーシングを高速に実践するデモが公開

AMDは第2世代Threadripperのうち、特にWXシリーズをCGクリエイター向けに訴求したいと考えていることもあり、発表時にはそうしたユースケースを意識した実動デモが公開されていた。1つは、Mayaにおいて光源の位置を変えたり、マテリアルの設定を変えたりした際に、ほぼ瞬時に全体的なイメージがわかる程度の映像を第2世代Threadripperのみでレイトレーシング描画するというものだ。これはMaya用のプレビュー画面を、AMDが誇るレイトレーシングエンジンRadeon ProRenderプラグインで描画したものになる。

左が制作画面、右がレンダリングプレビュー画面。ややノイジーだが、ほぼ瞬時に全体的なイメージがわかる程度の映像が出てくることは、アーティストの制作スピードを加速させるはず、というのがこのデモのコンセプト

もうひとつはGPUとCPUの両方を活用し同じくRadeon ProRenderでレイトレーシング描画を行なっているデモだ。こちらは基本的にはGPU主体で描画していく実装になっているが、再帰的で複雑なレイのキャストが行われる箇所についてはCPUが描画を担当するというCPU/GPUハイブリッドなユースケースを見せる内容となっていた。

GPUとCPUの両方を活用してRadeon ProRenderでレイトレーシング描画を行わせるデモ。四角で囲まれている箇所はCPUで描画進行中の領域を表している

これらのデモPCのタスクマネージャやデバイスマネージャを撮影したものが下の画像になる。デバイスマネージャ上に64個の論理CPUが並ぶ様子はなかなか壮観だ。また、一般的な環境下のCPU負荷メータでは折れ線グラフが並ぶはずのデバイスマネージャは、64個もの論理CPU環境下ではパーセント数値表示となってしまうのが面白い。

デバイスマネージャの「Processors」項目を開くと、こんな感じに64個分の論理コアが並ぶ衝撃の画面が現れる

タスクマネージャのCPU負荷メータ。一般的なCPUでは折れ線グラフが立ち並んでいるこの表示も、論理コアにして64個も並ぶと数値表記になってしまうようだ

2019年も続くAMDの新CPU攻勢。競合Intelの動きにも要注目

AMDは昨年RyzenとThreadripperを発表してそのコストパフォーマンスの高さから人気を博し、その影響は競合IntelのCPUリリース方針に大きな影響を及ぼしたともいわれている。この好調ぶりをさらに加速させるかのごとく、わずか1年でそのリファイン版の第2世代Ryzen、そして今回発表された第2世代Threadripperを投入したことで、ハイエンドPC、ワークステーション向けのCPUとしていまやAMDブランドは台風の目となりつつある。

懸念事項があるとすれば、高い接続汎用性が求められるワークステーションにおいて、現状のX399プラットフォームがThunderbolt 3に対応していないことが挙げられる。とはいっても、これはThunderboltの特許をIntelとAppleが抑えていることが大きな原因となっている。しかし、これに関しても状況は好転しそうだ。というのもIntelはこのThunderbolt関連の特許をライセンスフリーとして開放するアナウンスを昨年5月に行なったのだ。AMDも次世代チップセット等でこの対応状況の改善に踏み出すかもしれない。

さて、今後もAMDのCPU戦略は攻勢が続きそうだ。2019年には7nm製造プロセスを用いた新世代マイクロアーキテクチャを採用した「ZEN2」プロセッサを投入予定だからだ。このZEN2コアベースのCPU製品は、最初はサーバ、データセンター向けのCPUブランド「EPYC」シリーズとして投入されることが予告されている。当然、この技術は民生向け、ワークステーション向けのCPU製品にも転用されるはずで、早ければ2019年に再び、新たなRyzen旋風、Threadripper旋風が巻き起こる可能性がある。

こうしたAMD攻勢に対して競合Intelも指をくわえてただ見ているわけもなく「反撃ののろし」ともとれる、次世代CORE Xシリーズの投入をほのめかす実動デモを6月に台湾で開催されたCOMPUTEX TAIPEI 2018で行なっている。2019年はIntelの反撃も考えられ、CPU戦局は今年以上に白熱しそうである。

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