>   >  葛飾北斎の天井絵を立体化! 名画と最新技術の融合作品『八方睨み鳳凰図3D』
葛飾北斎の天井絵を立体化! 名画と最新技術の融合作品『八方睨み鳳凰図3D』

葛飾北斎の天井絵を立体化! 名画と最新技術の融合作品『八方睨み鳳凰図3D』

Topic 02
フルカラー3Dプリンタならではの色のつくり方

3Dプリンタの特徴を知り求める色彩に近づける

今回使用した3Dプリンタ「3DUJ-553」は先述の通り、1,000万色以上に対応し、発色の良さを大きな特徴とする機種だ。そこで吉本氏は、色づくりまでデジタルでやることをひとつの命題にしたという。この機種は、テクスチャもPolypaint情報も扱えるということで、本作ではPhotoshopで描いたテクスチャをメインに、一部はZBrushのPolypaintで描いている。「着色に関しては、今はまだアナログの手塗りが主流ですが、デジタルによる彩色も今後は増えていくことでしょう。今回、塗りまでZBrushでやりたかった理由には、ZBrushだけで塗りまで完結できれば、より多くの人がフルカラー出力を前提としたデジタル造形に参入しやすくなり、もっと造形界隈が盛り上がるのではないか、という思いがありました」(吉本氏)。もっとも、フルカラー3Dプリントのノウハウ自体は、まだ確立されていないのが現状だ。ウルトラモデラーズでは、機械の特徴を知るところから始めて、出力テストをくり返し、ノウハウを蓄積している。例えばフルカラー3Dプリンタは、一括で出力とカラーを済ませるため、継ぎ目を後から彩色で消せないことや、後で分割するとトポロジーが変わってUV情報が消えてしまうことがわかったため、本作では先に分割を決めることで対応したという。また、積層痕などは、逆にそれを活かした表現に利用することで利点に変えることもできる。

塗りの作業は、Polypaintで仮の色付けをし、UV展開後、Polygroupを分けて、さらに描き込んでいく。Polypaintは立体にリアルタイムでペイントでき、テクスチャは高解像度で描けるため、それぞれの利点に応じて、鳳凰の体はPolypaintで、松の鱗はテクスチャで描かれた。Polypaintの際には、ハッチングというアナログの描画技術を使ってグラデーションや影を表現しており、吉本氏のアナログ技術の高さが、そのままデジタルにも活かされている。なお、Polypaintの出力はPLY形式が綺麗に出せるのでオススメとのこと。

デジタル造形の将来について「今後、技術が向上していくのはまちがいありません。ひとりでも多くの人が、デジタル造形に取り組んでくれたら、もっと楽しいことができそうだと実感しています」と吉本氏。ワクイ氏は「デジタル化によって物流が変わりますし、輸送中の損壊も恐れなくてよくなります。デジタルなので、縮小してグッズ化することも容易だし、アニメーションやVR・ARに発展できる潜在力もあります」と可能性を語った。

アナログの技法をヒントにしたPolypaintの描画

Polypaintのマテリアルは、色が綺麗に出るSkin Shade 4が使用された。3D上にオブジェクトを置き、油彩と同じようにパレットをつくり、色のストックや擬似的な調色を行う。グラデーションのかかり具合は、Smoothブラシでパレット上の色と色の境界をぼかして確認された。また、ZBrushのPolypaintは頂点カラーで、ポリゴンの頂点数に依存するため、彩色のためにもポリゴン数を上げる必要がある。「出力するための推奨最大ポリゴン数は、1パーツで300万ポリゴンです。場合によってはこれを超えても成立するため、Polypaintでも十分な解像度が出せました」と吉本氏

Polypaintの設定・作業画面

ハッチングを用いた例。ZBrushでもグラデーションを綺麗に描けている

パレットの作業画面。様々な色が調色された

カラー出力を考慮したUV展開



  • テクスチャを描く部分は、まずPolypaintでアタリを付ける



  • UV Masterを使用し、なるべく多い頂点数でUVを展開。必ずクローンで作業を行う。UVマスターのPolygroupにチェックを入れてアンラップすると、Polygroupに合わせて展開してくれる



  • Polypaint情報が消えた場合は、クローン元のサブツールを使い、Polypaintを投影する



  • テクスチャマップでPolypaintからテクスチャを作成してPSDに書き出し、Photoshopでテクスチャを描き込む

インポートからテクスチャを読み込むと、テクスチャマップが使用できる

ZBrushではUV情報を残したままポリゴン数を減らすことも可能だ。【画像左】の頂点数は98,306、【画像右】は49,153

ZBrushのUV展開で思うような結果が得られない場合はOBJで書き出し、補助的にBlenderで作業する。ただし、クリース情報などが消えてしまうので注意が必要だ

1枚を丁寧につくった松の鱗

原画の鳳凰の翼は、めでたい植物である松の鱗で表現されている。翼は全体の中でも占める割合が多く、印象を左右する見せ場のため、テクスチャで細かく描き込まれた。3Dモデルありきのズレのないテクスチャにするため、3Dモデルに鱗を配置し、黄色い松葉の部分を作り込んでから、その造形に合わせてテクスチャを制作している。この鱗部分も、ハッチングの技術で絶妙な質感が出された。「当初は5パターンの鱗を用意しましたが、配置してみるとうるさい印象になったので、最終的には1パターンにしました」(吉本氏)。統一感が出たことで、鳳凰の毅然とした厳かな雰囲気を出ている。吉本氏は「色も造形もできる3Dプリンタは言い訳ができないので、細部まで詰めました」と覚悟を語ってくれた



  • 松の鱗の単体



  • 松の鱗を配置した状態

最終的な全体像

展示会「ウルトラモデラーズ」にて出展された『八方睨み鳳凰図3D』

モニタと出力品との色のちがい

モニタの色彩と出力品の色彩との差は、出力する際に問題となることのひとつだ。吉本氏は「モニタにも依存しますが、おおむね出力品は、モニタと比べて明度が30%程度、彩度が15~20%程度下がる感覚です」と話す。そのため、モニタではややビビッドに彩色している。このあたりの色彩感覚は、洋画を描いていた吉本氏の地力だ。ただし、仮出力して見ることは必須とのこと。このようなノウハウの開発について、ワクイ氏は「3Dプリンタの技術者の方も限界に挑んでくれ、アーティストと技術者のせめぎ合いという感じがあります。かつて葛飾北斎と木版画職人が、互いに限界に挑んでいた姿と重なって、不思議な巡り合いを感じますね」と話してくれた



  • モニタでの色彩(iMac Retina 5K、27-inch、Late 2015)



  • 出力品の色彩



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