<2>アニメ固有の表現を拡張する ~キャラクターアセット~
誇張表現と物理的に正確な表現を適確に使い分ける
キャラクターモデルの制作は、昨年3月から開始。「メリハリのついたシルエットにすることを心がけています。キャラクターデザインを忠実に再現する上では髪の毛の場合は、一般的な房状の髪の毛ではなく、頭頂部に近づくにつれてシンプルな見た目に仕上げる。まつ毛の位置もピクセル単位で微調整するなど、細部までこだわっています」と、モデリングリードを務める篠崎徳太郎氏。大きなチャレンジとなったのが、服のシワの表現。従来はテクスチャにシワを描き込むのがセオリーであったが、それだと作画アニメ的なシワの表現が難しいため、キャラクターのポージングに合わせたシワをPencil+ 4で表現できるモーフターゲットを作成し、アニメーターがキャラクターの動きに合わせてパラメータを調整できるしくみを考案。それと並行して、テクスチャ作成ではSubstance Painterによる3Dペイントも活用。また、オブジェクトによるCG影とテクスチャによる描き影との使い分けについては、「今まではほぼCG影で対応していたのですが、影の輪郭が汚くなりがちなことが課題でした。そこで今回は多くの影をテクスチャに描き込みつつ、制服などの形状との関係が難しいようなものは従来通りCG影で対応しています」(篠崎氏)。
キャラクターリグについては、『えとたま』プロジェクトで開発したカスタムボーンを用いたリグシステムを改良。本作では複数のキャラクターが登場するカットが多いため、できるだけレスポンスを高めるべく、演技に応じて切り替えが可能な脱着式のリグが開発された。「作成したアニメーションはベイクできるので、作業に応じてリグを外してシーンを軽くすることができることが利点です」と、リードリガーを務める更谷 拓氏。そしてアニメーション工程でも本作ならではのこだわりを実践。「第1話の制作では、作画アニメ特有のリミテッドアニメーション(2コマ、3コマ打ち)のポージングを意識するために、3ds Max上で全ポーズにキーを打ち、ステップで動きを付けています。一時的に作業効率は落ちてしまったのですが、こうすることで全アニメーター間で目指す動きを早期に共有することができました」(天井和文アニメーションリード)。
01 キャラクターモデル
主人公・堂嶋大介(CV:内山昂輝)のデザイン設定(制服)
堂嶋大介(制服)完成モデル。ショットワークにおける作業コストに配慮した結果、基本的に1発レンダリングで出荷。ジャケット部分はシワオブジェクトを搭載するため(後述)、シンプルに作成してある
ミロ(CV:小松未可子)のデザイン設定。人類が生き残る未来を護る組織「アーヴ」のエージェントスーツを着用している
ミロの完成モデル。こちらも基本的に1発レンダリングで書き出すことを前提に制作。エージェントスーツ着用時のキャラクターモデルの影表現には、ストリング・パペット(人形兵器)と同様に描き影(テクスチャ)とCG影(ライティング)のハイブリッド方式を採用
02 ディテールのつくりこみ
左上から時計回りで、大介、ミロ、張・露(ルウ)・シュタイナー(CV:高橋李依)、マリマリこと手真輪愛鈴(CV:石見舞菜香)の完成モデル。髪の毛部分のモデリングでは、付け根に近づくにつれてディテールが簡略化されるように調整。「4人の中ではマリマリがCGに起こしやすいデザインだったと思います。毛の柔らかさや手描きっぽさを効果的に表現できました」(篠崎氏)
上段から、堂嶋大介、張・剴(ガイ)・シュタイナー(CV:島﨑信長)、ルウの表情バリエーション。いずれも実際に本編で使用されているもの
顔周りの陰影表現について、描き影とCG影の使い分けに関する説明図。各キャラごとに同様の資料が作成された
大介(制服)モデルに組み込まれているシワセットの一覧。「各画像に近いシルエットになったときに、アニメーターが手動でパラメータを動かして、任意のシワを出すしくみです」(篠崎氏)