アニメ作品として、全編を3DCGベースで描く。そのためには、より深みのあるキャラクター表現、作画アニメの手法を採り入れ3DCGに適したワークフローへと継承させるといった、新たな制作スタイルの確立が鍵となる。本作における取り組みを追った。
※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 245(2019年1月号)からの転載となります。
TEXT_大河原浩一(ビットプランクス) / Hirokazu Okawara(Bit Pranks)
EDIT_沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
TVアニメ『revisions リヴィジョンズ』
2019年1月 フジテレビ「+Ultra」にて放送予定、NETFLIXにて全世界独占配信、ほか各局にて放送予定
revisions.jp
原作:S・F・S、監督:谷口悟朗、CG監督:平川孝充、シリーズ構成:深見 真、橋本太知、キャラクターデザイン原案:近岡 直、メカデザイン:新井陽平、CGキャラクターデザイン:白井 順、BGコンセプトアーティスト:白田真人、MattePaintディレクター:大西 穣、美術・設定:坂本 竜、色彩設計:長尾朱美、撮影監督:高橋 和彦、編集:齋藤朱里、音響監督:明田川 仁、音楽:菊地 梓、企画:スロウカーブ、アニメーション制作:白組、制作:リヴィジョンズ製作委員会
© リヴィジョンズ製作委員会
<1>アニメとしてのケレン味だけでなくリアルな表現を追求する
2019年1月からフジテレビ「+Ultra」にて放送予定、Netflixにて全世界独占配信される、アニメシリーズ『revisions リヴィジョンズ』(以下、リヴィジョンズ)。約半径1kmの渋谷中心部が300年以上先の未来に飛ばされるという不可思議な現象に巻き込まれた高校2年生の主人公・堂嶋大介が幼なじみの友人たちと共に、未来人「リヴィジョンズ」の襲撃から渋谷を守り、そして元の時代への帰還を目指すという、ジュブナイルであり、SFパニックであり、群像劇でもあるというユニークな作品である。監督は『コードギアス』シリーズなどを通じて3DCGの活用にも意欲的な谷口悟朗氏、脚本は『PSYCHO-PASSサイコパス』シリーズなどで知られる深見 真氏、キャラクター原案は『WAKE Up, Girls!』の近岡 直氏が担当している。そして、本作のアニメーション制作をリードするのは白組の新規コンテンツ事業部だ。
〈前列〉右から、高橋和彦撮影監督、平川孝充CG監督、井出和哉プロデューサー、江原祐太BGサブリード、更谷 拓リギングリード/〈後列〉右から、藤井浩美アニメーションサブリード、篠崎徳太郎モデリングリード、小島宣利テクニカルリード、天井和文アニメーションリード、兵動靖高PM、白田真人BGリード。以上、白組 新規コンテンツ事業部
shirogumi.com
TVアニメ『えとたま』(2015年)にて、デフォルメ頭身のキャラクターたちがくり広げるバトルシーンをセル調の3DCGアニメーションで描いたことで注目を集めたが、本作ではアクションパートだけでなく、ドラマパートも3DCG主体で制作することにチャレンジ中だ。群像劇であるため多くのキャラクターが登場するが、デジタル作画の利用は回想シーン等にとどめて、基本的にはモブを含めた大半のキャラクターを3DCG化しているとのこと。「柔らかな絵柄が魅力的な近岡さんのキャラクターデザインで凄惨なシーンやシビアな状況を描くという、絵柄と物語のギャップをねらった世界観が構築されています。原作のないオリジナル作品なのでわれわれからもキャラクターデザインの要素をモデリングの際に効果的に反映するためのポイントなどを積極的に提案させていただきました。
近岡さんもご自身のキャラクターが3DCG化されるのは初めてということで、楽しみながらデザインをしていただけたようです」と、白組の井出和哉プロデューサーは語る。白組は製作委員会にも名を連ねており、脚本や絵コンテの段階から深く関わっている。そもそも本作は、リアルな頭身のキャラクターたちが織り成す群像劇であり、それをセル調のCGアニメーションとして成立させるというのは非常に難易度が高い。だからこそ、効率的かつ効果的に制作を進めていく上での様々な提案を白組側から積極的に行うことが欠かせなかったのだ。
3DCGの特性を活かしたアニメ制作を実践する上での取り組みは、多岐にわたっている。「CGキャラクターデザインの白井 順さんにもメカデザインの新井陽平さんにも白組内に籍を置いてもらっています。本制作を進めていく過程でデザインの変更や追加の設定が必要になったときにデザイナーが社内にいることで柔軟に対応できるようになりました」(井出氏)。全要素のうち、約8割を3DCGで描いているという本作だが、アニメーション制作を進める上では、リアリティの追求を意識しているとのこと。「3DCGは自由なカメラワークが魅力のひとつですが、基本的に実写撮影では不可能なアングルやカメラワークは行わないようにしています。キャラクターアニメーションについても、いわゆるタメツメは重要ですが、生身の役者さんによる芝居の間のようなものをしっかりと描くことを谷口監督から求められています。アクションではなく、演技として成立させる上ではほど良いところでまとめることが欠かせません。演出上ノイズになる部分は動きを抑え、ここぞという場面にコストをかけるようにして、制作においてもメリハリを心がけました。限られた予算とスケジュールの中で、3DCG主体のアニメ制作の新たなスタイルの確立に取り組んでいます」と、平川孝充CG監督は語ってくれた。
『revisions』流プロダクション・マネジメント
Shotgunのショット管理ページUI。最新状況が確認しやすく、作品の方向性やキャラ性などを共有する上で社内はもちろん、外部パートナーとの共有の面でもメリットが大きかったという。主な項目は下記のとおり
【A】Color Filter:各ショットのシチュエーションに合わせた色指定を明記。この情報を基にレンダリング素材が出力される
【B】Shot Memo:演出上の注意事項やデータ上の連絡事項などを明記
【C】パイプラインステップ:各工程の進捗状況を表したリスト。左から右へ工程順に並べ、各工程の進捗状況を確認すると共に、担当者の割り振りやリテイク表として使うなど用途は様々
【D】DialogueとAsset:各ショットのセリフとそこで使用される背景用アセットを明記。この項目を参照しチェックムービーにセリフテロップを入れ、音声がない状態でもShotgun上のムービーでセリフ内容がわかるようにされた
Shotgunの「ScreeningRoom」UI。各工程のチェックはOverlays PlayerやScreening Roomで直接フィードバックを描き込みながら伝達。口頭や電話で伝えることもあるというが、基本的にはShotgun上でやり取りされている。「スタッフ数も通常のアニメ案件よりかなり少数だったので、ショット担当者へ直接修正依頼をShotgunのNoteを介して伝えています。Shotgunベースに切り替えたことでExcelなどのローカルで作成していた従来のリテイク表は使っていません」(平川氏)。メールでのやり取りも激減し、チェック時間の効率化に寄与。また、各フィードバックの内容は全スタッフがいつでも確認できるため、クオリティラインを担保する上でも大きく貢献しているとのこと
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<2>アニメ固有の表現を拡張する ~キャラクターアセット~
<2>アニメ固有の表現を拡張する ~キャラクターアセット~
誇張表現と物理的に正確な表現を適確に使い分ける
キャラクターモデルの制作は、昨年3月から開始。「メリハリのついたシルエットにすることを心がけています。キャラクターデザインを忠実に再現する上では髪の毛の場合は、一般的な房状の髪の毛ではなく、頭頂部に近づくにつれてシンプルな見た目に仕上げる。まつ毛の位置もピクセル単位で微調整するなど、細部までこだわっています」と、モデリングリードを務める篠崎徳太郎氏。大きなチャレンジとなったのが、服のシワの表現。従来はテクスチャにシワを描き込むのがセオリーであったが、それだと作画アニメ的なシワの表現が難しいため、キャラクターのポージングに合わせたシワをPencil+ 4で表現できるモーフターゲットを作成し、アニメーターがキャラクターの動きに合わせてパラメータを調整できるしくみを考案。それと並行して、テクスチャ作成ではSubstance Painterによる3Dペイントも活用。また、オブジェクトによるCG影とテクスチャによる描き影との使い分けについては、「今まではほぼCG影で対応していたのですが、影の輪郭が汚くなりがちなことが課題でした。そこで今回は多くの影をテクスチャに描き込みつつ、制服などの形状との関係が難しいようなものは従来通りCG影で対応しています」(篠崎氏)。
キャラクターリグについては、『えとたま』プロジェクトで開発したカスタムボーンを用いたリグシステムを改良。本作では複数のキャラクターが登場するカットが多いため、できるだけレスポンスを高めるべく、演技に応じて切り替えが可能な脱着式のリグが開発された。「作成したアニメーションはベイクできるので、作業に応じてリグを外してシーンを軽くすることができることが利点です」と、リードリガーを務める更谷 拓氏。そしてアニメーション工程でも本作ならではのこだわりを実践。「第1話の制作では、作画アニメ特有のリミテッドアニメーション(2コマ、3コマ打ち)のポージングを意識するために、3ds Max上で全ポーズにキーを打ち、ステップで動きを付けています。一時的に作業効率は落ちてしまったのですが、こうすることで全アニメーター間で目指す動きを早期に共有することができました」(天井和文アニメーションリード)。
01 キャラクターモデル
主人公・堂嶋大介(CV:内山昂輝)のデザイン設定(制服)
堂嶋大介(制服)完成モデル。ショットワークにおける作業コストに配慮した結果、基本的に1発レンダリングで出荷。ジャケット部分はシワオブジェクトを搭載するため(後述)、シンプルに作成してある
ミロ(CV:小松未可子)のデザイン設定。人類が生き残る未来を護る組織「アーヴ」のエージェントスーツを着用している
ミロの完成モデル。こちらも基本的に1発レンダリングで書き出すことを前提に制作。エージェントスーツ着用時のキャラクターモデルの影表現には、ストリング・パペット(人形兵器)と同様に描き影(テクスチャ)とCG影(ライティング)のハイブリッド方式を採用
02 ディテールのつくりこみ
左上から時計回りで、大介、ミロ、張・露(ルウ)・シュタイナー(CV:高橋李依)、マリマリこと手真輪愛鈴(CV:石見舞菜香)の完成モデル。髪の毛部分のモデリングでは、付け根に近づくにつれてディテールが簡略化されるように調整。「4人の中ではマリマリがCGに起こしやすいデザインだったと思います。毛の柔らかさや手描きっぽさを効果的に表現できました」(篠崎氏)
上段から、堂嶋大介、張・剴(ガイ)・シュタイナー(CV:島﨑信長)、ルウの表情バリエーション。いずれも実際に本編で使用されているもの
顔周りの陰影表現について、描き影とCG影の使い分けに関する説明図。各キャラごとに同様の資料が作成された
大介(制服)モデルに組み込まれているシワセットの一覧。「各画像に近いシルエットになったときに、アニメーターが手動でパラメータを動かして、任意のシワを出すしくみです」(篠崎氏)
[[SplitPage]]03 ストリング・パペット~メカ造形~
ストリング・パペットのデザイン設定
大介が主に操縦するストリング・パペット(白)完成モデル。テクスチャは「ベース色」「ハイライト」「影」「グラデーション」「劣化表現」の要素で構成されている。「フラットな印象にならないように、デフォルトで「劣化表現」が入っているのが特徴です。ライティングは描き影とCG影のハイブリッド方式ですが、影が汚くなりがちな大きなパーツは描き影を用いています」(篠崎氏)
Substance Painter(SP)による3Dペインティング例。テクスチャ構成要素の「ベース色」「ハイライト」「影」「グラデーション」「劣化表現」のうち、「ベース色」以外はSPで作成。また、劣化表現についてはSPでベースを描いたものをPhotoshopで調整するかたちで作成された
04 脱着式のリグシステム
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「rigLoad」UI。リグの設定、削除(ベイク処理)の管理のほか、FBX形式でモーションキャプチャデータを読み込んだりバグ修正パッチの実行なども行える
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「Add Facial Rig」UI。【左画像】から実行できるツールでフェイシャルリグを設定できる(フェイシャルリグも脱着式)
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ベースリグの設定例。向かって左側の大介は未装着の状態、同・右側のマリマリはベースリグを設定した状態。ベースリグが別ファイルとして用意されているのではなく、その場でスクリプトによって生成、構築する方式を採用。そのメリットとして、身長等大きさや関節構造に関係なく簡単に改変がしやすく、派生形のリグスクリプトを作成する際も手早く行えることが挙げられる
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マスターモデル(大介)。リグはなく、メッシュとスキンボーンのみのシンプルな構造になっている
髪の毛のセットアップ
リグ装着前のボーン構造。「髪などはキャラによってボーンの本数が異なるため、ボーンにネーミングルールを付け(髪であれば2~3桁の数字で管理)、そのルールを基にリグが作成されるようになっています」(更谷 拓リギングリード)
リグを装着した状態
リヴィジョンズのひとり「ニコラス・サトウ」(CV:大塚芳忠)は、そのデザインだけでなく、動きもカートゥーンのような誇張モーションが際立っているため、FFDが活用された
baseRigを装着し、さらにFFDリグを設定した状態。図のようにアニメーターが好きな状態にした上でさらなる調整が可能。「通常はbaseRigを装着した状態で基本的な動きを付けてもらい、必要に応じてFFDリグを追加するといった手順で運用されています」(更谷氏)
05 新開発のフェイシャルアニメツール
本プロジェクト向けに新開発されたフェイシャルアニメツールUI。全表示するとウインドウが画面の大半を占めてしまうため、フェイシャル作業時は、上部に配されたF・E・M(Face・Eye・Mouth)のいずれかをONにして部分的な表示に切り替えて使用するという。表情の種類は全キャラ共通だが、各キャラ固有の特殊な表情についてはSP枠に追加することも可能
斜め顔。(左)デフォルト/(右)モーフ使用(FL:100)。斜め顔モーフでは、前髪や口の周りが正面向きに回転する調整がされている
あおり顔。(左)デフォルト/(右)モーフ使用(Aori:100)。あおり顔モーフでは、前髪や口の周りが正面向きに回転、さらに顎下にラインが出るようにエッヂ1列を奥に移動する調整がされている
斜め+あおり顔。(左)デフォルト/(右)モーフ使用(FL:100、Aori:100)。あおり顔モーフは、斜め顔モーフと併用したときの結果も考慮されている。特に頬から顎のラインが崩れやすいため、入念に確認しながら調整しているとのこと
「Face Rig Selector」ツール。必然的に数が多くなる顔リグの選択、表示・非表示を簡単な操作で行えるように開発したもの
顔のシワとクマの線と影はオブジェクトで作られている。通常、顔の内側に隠れているが、リグを選択し前面に移動させることで表示可能