CGWORLD vol.324の特集「オレンジの挑戦と進化」では、Netflixシリーズ『リヴァイアサン』(独占配信中)、Netflixシリーズ『BEASTARS FINAL SEASON』(Part1:独占配信中、Part2:2026年独占配信)の2作品を通して、オレンジの最新の挑戦と進化を深掘りした。本特集の中から、「PART 3『BEASTARS FINAL SEASON』/TOPIC 2 アニメーション」を全3回に分けて転載する。第1回では、オレンジ流“動かしてなんぼ”の演技設計や、作品世界の思想に基づく画づくりを紐解く。

記事の目次

    重心の変化だけでも入れる "動かしてなんぼ"の社風

    『BEASTARS FINAL SEASON』(以下、『BFS』)のアニメーション制作は、CGディレクターの太田光希氏の下で、清宮慎吾氏、川谷啓介氏を含む数名のCGサブディレクター(以下、サブD)が牽引している。

    太田光希氏

    CGディレクター(オレンジ)

    清宮慎吾氏氏

    CGサブディレクター(オレンジ)

    川谷啓介氏氏

    CGサブディレクター(オレンジ)

    2020年に中途採用された川谷氏は第2期の途中から参加し、当初は清宮氏のアシスタントを担っていたが、後にサブDに抜擢。サブD候補の若手育成も意識しつつ、モーションキャプチャやチェック作業など実務の中核を担った。基本的にモーションキャプチャの演技設計やアクターはサブDが担っているが、Part1 第2話のジンマ(シシ組)の乱闘や、第3話のゴーシャとレゴシの乱戦では、アクション専門のアクターを起用。足りない動きはサブDが自らアクターとなって撮り足し、調整している。

    ▲Netflixシリーズ『BEASTARS FINAL SEASON』Part1 メインPV
    Netflixシリーズ『BEASTARS FINAL SEASON』
    Part1:独占配信中
    Part2:2026年独占配信
    原作:板垣巴留『BEASTARS』
    (秋田書店「少年チャンピオン・コミックス」刊)
    監督:松見真一
    脚本:樋口七海
    制作:オレンジ
    キャラクターデザイン:大津 直・乘田拓茂
    VFXアートディレクター:船田純平
    CGディレクター:太田光希
    bst-animation.com
    公式X:@bst_anime
    公式Tiktok:@bst_anime

    ちなみに第9話のルナのポールダンスは、川谷氏がアクターを務めている。第2期 第16話のコスモのポールダンスではプロのダンサーを起用したが、ルナの場合はカット数が少なく、群衆の一部という扱いだったため、リファレンスを分析し、社内スタジオにポールを立てて収録した。清宮氏は「調整しながらも、川谷の姿が透けて見えて笑ってしまった」とふり返る。

    こうした"体を張る"演技設計は、オレンジらしい芝居重視の姿勢を象徴している。「"動かしてなんぼ"という社風なので、3コマベタ打ちではなく、ちょっとした緩急や、重心の変化だけでも入れるようにしています」(太田氏)。

    第2期まで使っていたフェイシャルキャプチャは廃止され、音声認識による自動口パク生成+手付け修正のスタイルに移行した。台詞のあるカットの表情はフェイシャル班が担当し、台詞のないカットはアニメーターが担当する場合もある。

    『BFS』は20〜30秒にもおよぶ長尺の会話芝居が多く、画面を分割して2匹以上の表情を同時に見せる演出も多いため、1カットあたりの作業負荷が高い。特に話を聞いているキャラクターの表情や仕草の設計は難度が高く、キャラクターの視線をそらす、目を伏せるなどの"間をもたせる演技"がモーションキャプチャの段階から工夫されており、それが芝居の濃密さに結びついている。

    第5話・作品世界の信念に沿ったレイアウト調整

    『BEASTARS』では、肉食と草食に優劣をつけず、どちらの存在も等しく尊重する世界観を描いている。その思想はレイアウトにも色濃く反映されており、キャラクターの身長差を無理に帳消しにするような"嘘の画づくり"は行わない。例えば第1期 第5話では、ハルがレゴシのリュックに座って目線を合わせるなど、自然な工夫で距離を縮めている。

    ▲第1期 第5話の、ハルとレゴシの会話カット

    こうした現実感のある共生表現は、『BFS』でも徹底されている。Part1 第5話では、ウサギの受付員がレゴシからカードを受け取るシーンにおいて、体を乗り出さないと手が届かない問題が発生。だが身長差をごまかすのではなく、クッションを敷いて座高を調整し、作品世界の信念に沿った画づくりを貫いた。

    ▲調整前
    ▲調整後。クッションを敷いて座高を調整している
    ▲プライマリ段階の映像。カメラにクッションは映らないにも関わらず、噓をつかないことを徹底した。なお、受付員のアニメーション用ローモデルはないため、ミズチで代用している

    第9話・絵コンテと背景モデルの整合性確認

    太田氏は、キャラクターやプロップ、背景の3Dモデルを、カット制作に先立ち確認する役割も担っている。絵コンテの意図を正しく再現できるかチェックし、必要に応じてリテイクを出している。背景モデルは美術設定に沿ってつくられるが、絵コンテが先行する場合も多く、両者に齟齬が生じることがある。その際は、演出内容に支障が出ないよう、背景を修正するか、演出をアレンジするかを各話演出と協議して判断する。

    例えば第9話の仮面パーティー会場裏のカットでは、絵コンテで「レゴシが下手にはける」演出が示されていたが、美術設定や、それを基にした背景では下手方向に足場が存在しなかった。結果として「レゴシを正面から映し、下手にはけさせる」構図に変更することで、背景を活かしつつ、演出意図を保つレイアウトを実現した。

    ▲絵コンテ
    ▲仮面パーティー会場裏の、階段の美術設定
    ▲背景モデル
    ▲プライマリ段階の映像

    第9話・カウンターチェアのモデル調整

    第2期・第23話に登場したバーでは、動物キャラクターの構造に配慮し、しっぽが通るように背面に凹みのあるカウンターチェアがデザインされ、ルイ、イブキ、女装レゴシが座った。

    ▲第2期・第23話のカウンターの美術設定
    ▲第2期・第23話の、ルイとイブキの会話カット

    Part1 第9話に登場する仮面パーティー会場のカウンターについても、同様のデザインを踏襲すべきと判断し、太田氏が背景モデル確認時にリテイクを提案した。さらに、カウンターまわりがシンプルすぎる点も指摘し、「リアリティを高めるための棚などを追加してほしい」と要望。画の説得力を担保し、作品世界に自然に没入できるようにするための演出調整も、太田氏の重要な役割のひとつとなっている。

    ▲『BFS』Part1 第9話のカウンターの、調整前の背景モデル
    ▲完成映像

    第11話・屋台のモデル調整

    第11話では、屋台ののれんがサグワンの顔を隠してしまい、画が成立しなかったため、屋根を上げてのれんの位置を調整。本作はキャラクターの身長差が大きいため、高身長のレゴシやサグワンの登場時には、こうした調整が必要になることもある。

    ▲調整前の屋台のモデル
    ▲完成映像
    『BEASTARS FINAL SEASON』の演出と芝居【第2回】は8月13日(水)に公開します。
    ©板垣巴留(秋田書店)/東宝

    INFORMATION

    月刊『CGWORLD +digitalvideo』vol.324(2025年8月号)

    特集:オレンジの挑戦と進化
    『リヴァイアサン』と『BEASTARS』で描く未来
    定価:1,540円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:128
    発売日:2025年7月10日

    詳細・ご購入はこちら

    TEXT&EDIT_尾形美幸/Miyuki Ogata(CGWORLD)

    文字起こし_大上 陽一郎/Yoichiro Oue

    PHOTO_弘田 充/Mitsuru Hirota