CGWORLD vol.324の特集「オレンジの挑戦と進化」では、Netflixシリーズ『リヴァイアサン』(独占配信中)、Netflixシリーズ『BEASTARS FINAL SEASON』(Part1:独占配信中、Part2:2026年独占配信)の2作品を通して、オレンジの最新の挑戦と進化を深掘りした。本特集の中から、「PART 3『BEASTARS FINAL SEASON』/TOPIC 2 アニメーション」を全3回に分けて転載する。第3回では、内面の動揺や狂気まで表現するアニメーションや、“その場にいる感”を生み出す演技と環境の相互作用を紐解く。

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    第4話・ルイとアズキのベッドシーン

    ルイとアズキのベッドシーンは、動きを精密に調整する必要があるため、清宮氏が全カットを自ら担当。2匹のモーションキャプチャを別撮りして組み合わせている。アズキがルイを引き寄せる際、手をルイの体にピタ止めするだけでは力が感じられない。ルイが一瞬だけ抵抗するような"クッ"とした演技を加えることで、動きの主導権の移行が伝わる。キャプチャ段階からその意図が織り込まれているため、そこは活かしつつ、余計な動きやノイズを取り除いて仕上げた。

    ▲プライマリ段階の映像。アズキのアニメーション用ローモデルはないため、コスモで代用した
    ▲完成映像

    アズキの上でルイがモノローグを語るクローズアップショットは、「動きが大げさで、感情が表に出すぎている」として、プライマリ段階で井野元 英二氏(オレンジ 代表/チーフディレクター)が修正を加えた。ここではルイの内面の動揺を表現するために、あえて台詞と動きのタイミングをずらし、芝居のボリュームを抑える方向で調整している。また、ルイのローモデルは服を着た状態だったため、後に裸のハイモデルへ差し替えた際に、サイズ感や肩甲骨の形状などが微妙に変わり、清宮氏いわく「地獄だった」ほどの再調整を要した。

    ▲プライマリ段階の映像
    ▲完成映像

    第1話&第9話・メロンの演技とリファレンス

    本作のプレスコはガンマイクを用い、声優が体を使って演じる。その様子を録画した映像が、演技のリファレンスとして松見監督から提供されることもある。第1話制作時には、メロン役の沖野晃司氏の映像が共有され、指の動きなどの所作に反映された。キャラクター像には、『パイレーツ・オブ・カリビアン』のジャック・スパロウなどの要素も加味されており、狂気の片鱗を感じさせつつ、フェミニンな動きになりすぎないよう注意を払った。

    ▲第1話のメロンの指の動き
    ▲第9話で初めて素顔をさらした際の演技。芝居がかった指の動きが特徴的だ

    第7話&第12話・環境との相互作用による、キャラクターの存在感の強化

    川谷氏は『BFS』のカット制作にあたり、"その場にキャラクターがいる感覚"を強く意識し、環境との相互作用を演技に取り入れる方針をとった。その実践例が、第7話の観覧車内でのレゴシとハルの会話カットだ。絵コンテにはなかったが、ハルが柵を指ではじく演技をアドリブで追加。環境に対するアクションを追加することで、彼女がその場の状況に納得していない心理を自然に表現している。このような演出意図を深めるための演技の足し算は、チーム全体で推奨されている。

    ▲プライマリ段階の映像
    ▲完成映像

    キヌスを飲んだ警備員がヤフヤから逃走するカットは、太田氏がカット制作も担っており、環境との相互作用を意識して、警備員が柵を掴んで廊下を折り返す動作を追加した。絵コンテにはなかったが、最短ルートを必死に逃げる様子を強調した演出だ。モーションキャプチャ収録時には柵がないため、こうした接触動作は手付けで補完している。背景も通常よりかなり広く設計し、アクションにケレン味をもたせている。演出と技術の両面から試行錯誤が重ねられた一例だ。

    ▲プライマリ段階の映像
    ▲完成映像
    ©板垣巴留(秋田書店)/東宝

    INFORMATION

    月刊『CGWORLD +digitalvideo』vol.324(2025年8月号)

    特集:オレンジの挑戦と進化
    『リヴァイアサン』と『BEASTARS』で描く未来
    定価:1,540円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:128
    発売日:2025年7月10日

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    TEXT&EDIT_尾形美幸/Miyuki Ogata(CGWORLD)
    文字起こし_大上 陽一郎/Yoichiro Oue
    PHOTO_弘田 充/Mitsuru Hirota