ゲーム開発をはじめとして様々な事業を展開する面白法人カヤック。近年注目を集めるAI技術の導入を積極的に行なっている。クリエイターの制作プロセスを改革するため、AIを用いたアプリ開発を推進中だ。同社でAIでのアプリ開発に従事するキーマンに、AI技術導入のメリットを聞いた。また、実際にAIで開発されたアプリも公開しているため、ぜひ一度使ってほしい。
専門知識なしでもアプリ開発ができる時代に
CGWORLD(以下、CGW):昨今のAI技術の進化をどう感じていますか?
天野清之氏(以下、天野):ChatGPTをはじめとする優秀な対話型のAIツールの登場により、検索して情報を探るより、「まずAIに質問してみる」というように情報へのアクセスの仕方が変わりつつあるように思います。弊社の業務でも開発や企画の段階でAIツールを活用しています。開発においては、ソフトウェア上のエラーもAI側で解析して改善策まで出してくれフローそのものが変わってきています。
自分が欲しい機能を打ち込むことで専門知識がなくともツールが作れるため、深い知識をもっていなくてもツール開発ができる環境になりました。とはいえ出力されたものに対して、的確な指示を与えて希望に沿った調整をしていくには相応のスキルと知識が必要になります。
また、画像や動画など具体的なアウトプットを求める方面での活用が注目を集めがちですが、制作フローの部分的なプロセスの改善などにおいてもAIの使用が必須になってきていると感じます。たとえばクリエイターの制作ソフトの開発といった活用の仕方で、AI技術を発展させていきたいと考えています。
面白法人カヤック
XR事業部 事業部長・M&A責任者 天野清之氏(左)、技術部 伊藤孝紘氏(右)
CGW:注目されているAIアプリがあれば教えてもらえますか?
天野:私が注目しているのは、制作プロセスを大きく変える可能性を秘めた5つのAIアプリです。まず「Google AI Studio」は、Googleが提供する信頼性の高い生成AIプラットフォームで、ノーコードでアプリを開発できる点が魅力です。最新モデル「Gemini」などを無償で試せるため、AIを日常業務に取り入れる第一歩として最適です。
一方「ComfyUI」は、ノードをつなぐことで自在に生成フローを構築できる高機能ツール。環境構築には多少の知識が必要ですが、ビジュアルでAIの仕組みを理解しながら独自の表現を追求できるのが特徴です。文章生成では「Claude」と「ChatGPT」が双璧であり、前者は長文理解と論理構成に優れ、企画書や脚本制作など構成力が求められる用途に適しています。後者は対話型の柔軟な思考支援が得意で、アイデア整理やスクリプト作成など、日常的な“AIパートナー”として心強い存在です。
さらにビジュアル制作の分野では「Midjourney」が欠かせません。テキスト入力だけで高品質なビジュアルを生成し、アニメ調からフォトリアルまで幅広く対応。短時間で多様なビジュアルを提示できるため、コンセプト設計やアートディレクションにも活用できます。これらのAIはそれぞれ得意分野が異なり、組み合わせて使うことで、クリエイティブの発想と制作速度を大きく拡張できると考えています。
CGW:AIはクリエイターにとってどのような恩恵をもたらすでしょう?
天野:AIを使った学習に関していえば、学びの速度を上げられる点が興味深いです。自分の主要分野以外の技術であっても、AIを使って学習してアウトプットできるようになるので、クリエイターにとって大きなアドバンテージだと感じます。
ただ、AIツールを導入してできることが増える一方で、処理する情報量やタスクも爆発的に増えてしまい、相対的に作業時間が足りなくなるのではないかという懸念ももっています。昨今は制作されるコンテンツの量が増えて質も上がり続けていますが、個々のコンテンツに対してユーザーの消費時間は減っていく傾向にあります。前述した懸念に矛盾するようですが、作業時間が足りなくなるような状況だからこそ、AIツールによるサポートを採り入れて、情報やタスクの処理速度を上げるべきだと考えています。
つくり手こそAIを使うべき
天野:AIを取り巻く環境をみていると、エンジニア職の方はAIを積極的に取り入れていく傾向があり、エンジニア以外の職種の方も後を追って参加してくるながれがあると感じています。ツール開発の現場では、開発するエンジニアと、使う側のクリエイターで立場が分けられます。
「使う側の方が、開発側より良いものをつくれる」という発想で、開発側よりもツールを使うクリエイターからエンジニアリング着想ではないレビューをしてもらうことが、より良いプロダクトを開発するために重要だと考えています。AIを使った開発であったとしてもその点は同じで、クリエイター自身がAIを使うことで制作ツールを開発できる世の中になりました。
CGW:AIを用いて今後どのようなコンテンツを開発されますか?
天野:弊社はゲーム開発をしていますが、今後手がけていく予定の事業では、面白さとユニークさを兼ね備えた「遊び場」をつくっていきたいと思っています。現実の公園のような遊び場は本来制限がなく自由なもので、バーチャルでのコミュニケーションやAI技術と融合させて、もう一歩別の体験に拡張したエンターテインメントを提供していくことを目指していきます。
CGW:現在、貴社ではどのような方を求めていらっしゃいますか?
天野:弊社スタッフはいずれも「面白いものをつくる」という目的の下に集まっています。その点については今後も変わりません。いま特に求めているのは「つくりたいものがある」方です。なにかをつくる情熱があり、人に言われなくてもつくる、というような自発性のある方であれば、弊社の体制に馴染んでもらえると思います。「ものづくり」という同じ目的のために協力する仲間がいて、それぞれが孤立化しない組織づくりをしています。仲間を助けてあげようと思ってくれる同僚がたくさんいて、助け合える土壌を育てています。
採用情報ページは コチラから!
カヤックでは、モノづくりの情熱のある方を求めスタッフを積極採用中だ。同社採用ページも是非チェックしてほしい。
新卒採用はこちらから!
https://www.kayac.com/recruit/fresh
中途採用はこちらから!
https://www.kayac.com/recruit/career
【実践】AIでつくる! 簡単アプリ開発
伊藤孝紘氏(以下、伊藤):本記事の掲載にあたり、ツール開発の作例としてGoogle AI Studioを活用して3Dテクスチャ生成AIアプリ「AI 3D Texture Generator」を開発しました。これはUV画像に基づきAIがテクスチャを自動生成するアプリです。手作業で作成する優先度の高くない、補助的なモデルや背景用のテクスチャ生成を自動化することで、デザイナーがよりクリエイティブな業務に時間を充てられるようになることを想定しています。以下で開発の流れを説明します。
AI 3D Texture Generator はコチラからアクセス可能!
>>https://ai-3d-texture-generator-809392527510.us-west1.run.app/
※1日の生成回数に制限があるため、大量のリクエストをされますと利用がストップする可能性があります
6. AIとの対話で確認と修正をくり返し、完成した AI 3D Texture Generator の実行画面。左パネルの「Mask Settings」で「表紙」「裏表紙」などパーツごとに色分けし、"magic book with stars"というプロンプトを送信。右下には生成された3パターンのテクスチャが、右上にはそれが適用された3Dモデルが表示されている
Google AI Studioを使えばAIを使った開発がノーコードでできるため、プログラミングの専門知識がなくともアプリ開発が可能だ。上記のように、プロンプトを入力してものの数分でアプリが生成される手軽さも魅力。この機会にぜひ一度、アプリ開発にチャレンジしてみてほしい。
TEXT・EDIT_小倉理生(種々企画)