アイドル系アニメのOPやEDはもちろん、それ以外のジャンルにおいてもアニメでダンスが描かれることは珍しくない昨今だが、ダンスそれ自体をモチーフとした作品となると、意外にも例を挙げるのが難しい。10月より放送がスタートしたTVアニメ『ワンダンス』は、ストリートダンスを踊る高校生たちの青春を描いた作品だ。

記事の目次

    ※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 328(2025年12月号)からの転載となります。

    ストリートダンスをモーションキャプチャでアニメ化

    原作マンガにおいても躍動感あふれるダンスの描写が特徴だった『ワンダンス』。アニメ化においてもダンスに注がれる期待の視線は熱い。

    TVアニメ『ワンダンス』
    毎週水曜よる11時45分~ テレビ朝日系全国ネット“IMAnimation W” 枠ほかにて放送中
    ※一部地域を除く
    毎週木曜0時15分~ ディズニープラスにて見放題独占配信中
    原作:珈琲『ワンダンス』(月刊アフタヌーン/講談社)/監督・脚本・VFX:加藤道哉/アニメーション制作:マッドハウス×サイクロングラフィックス
    wandance.asmik-ace.co.jp
    Ⓒ 珈琲・講談社/ワンダンス製作委員会

    監督を務めるサイクロングラフィックス加藤道哉氏は、高校ストリートダンスからダンスバトルまでを取材する中で、すっかりダンスカルチャーに魅せられていった。「このダンスカルチャーを理解すればするほど、『ワンダンス』という世界観をたくさんの人に知ってもらいたいと思うようになりました」と、語る。この思いが制作へのモチベーションになっているという。

    左より、監督・脚本・VFX:加藤道哉氏、CGプロデューサー:吉野智美氏、CG監督:秋山侑輝氏(以上、サイクロングラフィックス)
    www.cyclone-graphics.com

    本作ではダンスシーンにモーションキャプチャを採用しているが、キャプチャ後は調整のみに留めて、ダンサーのダンスそのものを活かすスタイルを採っている。背景には「主役はダンサー」という考えがあった。「ダンスそのものをダンサーが描く。モーションキャプチャで全て記録することで、表現の起点をダンサーに置きたい」と、加藤監督。また、アニメ化に際しては30曲以上のダンス音楽がつくられ、振り付けが行われた。音楽・ダンス・ストーリーをつなげるため、加藤監督は脚本とVFXを一手に担い、総合的な舵取りを行なっている。

    「多くの方に観ていただくことが原作の魅力を伝えることになり、ダンス文化そのもののリスペクトにつながると思います。またCG技術の発展にもつなげたいです」(加藤監督)。今回はモーションキャプチャはもちろん、Blenderを活用した特徴的なエフェクトまで、詳しく解説していきたい。

    ダンサーの動きをそのまま活かす! ダンスそのものを軸にした制作のながれ

    本作の制作フローにおいても、ダンスと音楽が“主役”だ。音楽が仕上がると、まずダンスシーンでながれる音楽を基に加藤監督が展開を構成する。この時点で音楽の構成やリズムが画面演出に与える影響は非常に大きい。

    編集した音源を作曲家が承認した後、ダンスプロデューサーのRIEHATA氏に監修・指導をしてもらい、モーションキャプチャ収録に臨む。収録は何度も行われ、1年を超える期間で10回以上にもおよんだという。ダンサーはRIEHATA氏を筆頭に、世界的に活躍するダンサーたちがキャラクターごとにダンスキャストを担当し、ダンスのスタイルもキャラクターに合わせている。

    収録は無駄なテイクを重ねないよう緊張感あふれる現場だった。「皆でダンスカルチャーを盛り上げようという意識にあふれ、熱量の高い収録現場でした」(加藤監督)。収録にあたってはフェイシャルからフィンガーまで記録し「ダンサーによるアニメーション」が徹底的に追求された。また、後から自由にカメラ位置を設定することで、実際のダンスでは見られないようなアングルで見せるなど、映像表現としても3DCGの有用性が発揮されている。

    モーションキャプチャの収録

    モーションキャプチャは、映像制作やモーションキャプチャ機器の輸入販売でも知られる、スパイス モーションキャプチャスタジオ(東京都港区赤坂)で収録された。

    ▲足場には実際のストリートダンス用リノリウム(床材)を敷き、本物の床の感触を再現。10人以上が踊る群舞収録の際には建物が揺れるほどの迫力だったという
    • ▲ダンスでは指の動きも重要になるため、フィンガーキャプチャもされている。収録機材はManus Quantum Metagloves
    • ▲ダンサー1人に対して数人のサポートが付くため「まるでF1のピットのような現場でした(笑)」(加藤監督)
    ▲キャプチャスーツ。ダンスの途中で一部のマーカーが外れてしまうこともあったが、相互補完機能により十分な収録ができた。スーツ、ヘッドギアなどの機材は、収録ごとにカスタムし、工夫が重ねられている(ダンサー:YOUTEE氏

    モーションキャプチャから始まる制作のながれ

    モーションキャプチャ収録から完成までの模様を第3話のオーディションシーンを例に解説する。

    ▲まず前準備として、ダンスシーンでかかる音源を基にシーン構成を固める。ここでは前半でダンス経験者の湾田光莉(女子)がすぐに踊り始める様子を見せ、中盤になって主人公のカボ、こと小谷花木(男子)が動き始め、その後2人で息が合ったダンスを見せていくというながれ
    OptiTrackによるモーションキャプチャ収録風景。これらの映像は8台のiPadでリファレンス用に同時撮影したもの
    ▲プレカメラと呼ばれる、音楽に絵コンテを当ててムービーにした状態。上記の「OptiTrackによるモーションキャプチャ」の撮影風景のリファレンスと絵コンテとを合わせたオフライン編集を行い、尺を確定させる
    ▲キャプチャデータをBlenderモデルにながし込んだ状態。前述のようにダンサーの動きをアニメーションに活かすため、基本的なクリーンナップ以外に手は加えられていない。この段階でカメラ位置やカット割りを確定させる
    Marvelous Designer(以下、MD)で作成したカボの服装データ
    ▲同じく、湾田の服装データ
    ▲上記の「キャプチャデータをBlenderモデルにながし込んだ状態」に「MDで作成した服装」のデータを加えたダンス映像
    ▲さらに髪の揺れのシミュレーションを加えた状態
    ▲撮影後の完成カット。ダンスの動きは速くて細かいため、120fpsで収録したものを最終的に24fpsに落とし込んでいる

    CGレイアウトの制作

    本作ではBlenderを用いたCGレイアウトシステムを構築し、加藤監督が全てのカットのレイアウトをチェックできる体制を整えている。各話につき約300カットを1日でチェックし終える早業の理由は、「Blenderとスプレッドシートを連携させたパイプラインによるものです」(加藤監督)とのことだ。

    カメラのチェックが完了すると、作画用にCGレイアウトをレンダリングする工程に入る。1話数あたり300カットにおよぶレイアウトは、カット情報を記入したスプレットシートのカットリストから、クラウド上にレンダリング用のバッチファイルとして出力される。このバッチファイルを用いて、BlenderからCGレイアウトを一括でレンダリングするしくみだ。

    • ▲CGレイアウトのテイク1
    • ▲左記の「テイク1」に対する監督修正指示。カメラをアオリにするオーダーが書かれている
    ▲レイアウトのOK画像

    3DCGによる背景美術の制作

    本作の背景美術のつくり方は実写映画のノウハウに従っている。原作の背景を参考にSketchUpを使って簡易的な美術デザインを起こし、それをBlenderにインポートしてクリーンナップし、3DCGの背景モデルとして仕上げる。実写的なライティングのカットではこのまま背景として使用するが、ここからレタッチして2Dの美術を描き出すカットもある。このシステムは過去にサイクロングラフィックスが参加したTVアニメ『ノー・ガンズ・ライフ』(2019~20)で構築したUnreal Engineによる3D背景システムを、Blenderベースへ移行したものだ。

    ▲SketchUpによる美術デザイン
    ▲3DCGの背景モデル
    ▲美術監督の渡邊洋一氏によるレタッチが施された背景美術

    (2)に続く。

    CGWORLD 2025年12月号 vol.328

    特集:映画『ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-』
    判型:A4ワイド
    総ページ数:112
    発売日:2025年11月10日
    価格:1,540 円(税込)

    詳細・ご購入はこちら

    TEXT_日詰明嘉 / Akiyoshi Hizume
    PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
    EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada