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デジタルを駆使したハイクオリティなフィギュア制作『ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン』レン

デジタルを駆使したハイクオリティなフィギュア制作『ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン』レン

Topic 02
決定版フィギュアを目指した徹底的なこだわり

顔、P90、マガジンなどのパーツまで、細部に宿る匠の技

演出面から装備品の造形にいたるまで、細部にわたり徹底したこだわりが随所に詰め込まれている本作。フィギュアにとって一番大事な顔について「レンは劇中で泣いたり笑ったり、表情がとても豊かです。フィギュアとしての顔をどこに設定するか悩みましたが、覚悟を決めてトランクから飛び出し敵を打ち倒すぞという、凛々しい表情に決めました」と鍋田氏。「劇中のイメージとしては涙目のシーンだけど、涙をこらえた後の凛々しい表情を演出しています」(土屋氏)。「アニメのイメージとは少しちがうので、カッコ良くするのに苦労しました。造形面では凛々しいモチーフだけど、その中にかわいらしさもほしかったので、打ち合わせの中で表情を変えています。顔をもっと幼く、輪郭を変えてほほを膨らませて目を下げるなど、意識して調整しました。かわいさと凛々しさを楽しんでほしいですね」(榊氏)。また、フィギュアの監修において非常に厳しい「顔に関する修正」が一度も入らなかったことも特筆に値する。その中でもイメージが左右されるのが、瞳の再現だ。本作では、デジタルでテクスチャを作成し、デカールにも同じデータを使用することで、CG画像から監修、原型展示まで統一されたイメージで制作することができた。顔の形状も精密であったことに加え、こうした徹底した工夫がよく活かされた作品となっている。

ポージングにあたっては、P90の存在感が十分に認識できる位置が模索された。P90を徹底的に研究し、左手で予備マガジンをP90にセットしている最中という、まさに一瞬の動きを再現している。腰に付けたマガジンポーチにおいても、横から中のマガジンをしっかり見ることができる。「本来であればコストを考えて一体整形したいところですが、ここは決定版をつくりたいという思いから、最後までしっかりとつくろうとクリアパーツにしました」(土屋氏)。これにより、土台とクリアパーツとカバーの3パーツが1つのポーチに必要となり、それが6つ装備されているので、それだけでも3×6パーツが必要となる。しかしそうすることで、蓋にあるベルトの先端を少し浮かせるなどニュアンスもリッチに加えられた。このようなこだわりは、本作のあらゆる部分で見ることができる。

チェックしながら即修正できるデジタルの強み

打ち合わせでは、モニタにZBrushの画面を映してその場で修正することで、修正対応の時間が削減された



  • 修正前



  • 修正後。頭身や帽子の形状が調整されている。ベルトの幅はすぐに直せるものではなかったため、幅の異なるグループを色別に分けて記録された。靴の形状もポリペイントで直接メモを書きこみ、後から調整される。全てとはいかないが、その場で調整できる点はデジタルの強みだ

テクスチャから生成した帽子のファー

「帽子の毛の質感は様々な検討を重ねました。最終的にはウサギの毛みたいな短い毛がながれているものとして、毛のテクスチャを押し付ける感じで、短い毛の質感を出しています。単純にならないように、別の毛のテクスチャをさらにかけ合わせて作成しました。結果、イメージに近い表現となっています」(榊氏)

毛の凹凸を作成するための、ZBrushCentralで公開されていた【毛のテクスチャ】

ZBrushの作業画面。Layerブラシに毛のアルファ画像【毛のテクスチャ】をセットし、何度もストロークして毛の凹凸を重ねる

デカールまで制作できるキャラクターの「瞳」

「瞳はテクスチャを使用しました。視線の変更(位置調整)も簡単で、テクスチャからデカール印刷も行え、原型展示や監修の際にもイメージを変えることなく便利です」(榊氏)



  • 平面投影して顔のUVを用意する



  • ZBrushのSpotlightで基のイラストの瞳を貼り付ける

Texture MapのNew From PolypaintでUVに合わせたテクスチャに変換し、Photoshopで整える

修正を行い、貼り直して完成だ

3Dモデルに使用したテクスチャはサイズを実寸に変更し、そのまま原型に貼るデカールとして使用された。デカールのサイズはあらかじめ3%おきに拡大・縮小したものも用意し、実際に貼ったときの印象によって最適なサイズを使用している

仮出力

修正がひと通り終わると、途中段階で仮出力を行う。Formlabs Form 2で体全部をまとめて出力し、マガジンポーチなどは別パーツとして後で組立てる。仮出力段階で全体のボリュームやポーズを再確認する。「安い出力機が出てきて気軽に仮出力が出せるようになりましたので、確認しやすくなりました」(榊氏)

こだわりの質感表現修

「衣装には様々なパーツがあって、素材も多数使用されていますので、単調にならないように、それぞれの材質を意識してもらっています。そこは徹底的に相談しつつ、随時対応していただきました。特にベルト周りなどは、素材感もそうですけど、激しいポーズをとっているので、こっちは足を上げているから内側のベルトがしまる、こっちは足を伸ばしているから緩むよね、と食い込みやベルト周りのシワの付け方にもこだわりました」(土屋氏)。腰周りのポーチもポーズと服装に合わせて全部角度が繊細に変えられており、これにより密度に加え、圧倒的なディテール感を実現した

ギリギリまで修正した膝パット



  • 原型出力後に入った修正。データ上でパットの形状のみ修正し、出力し直す



  • 正面を向いた状態で溝や穴用のオブジェクトの形状を変更し、リアルタイムにブーリアン結果が確認できるLiveBooleanを使用する



  • 分割を終えている部分はそのまま使用するため、修正する部分のポリゴンのみ削除し、修正したメッシュを配置する



  • Curve Bridgeブラシで分割済みと修正したメッシュを繋げて完成だ

ひとつひとつ個別に付けられたマガジンポーチ

腰のマガジンポーチは、ひとつひとつ個別に調整して付けられた



  • ポーチの長さを変更する際は、底面のポイント以外をマスクして、Gizmoのスケールで長くしている



  • [Shift]キーを押しながら行うとスケールの数値を0.5刻みで変更することができるため、別オブジェクトでも同じ数値で変更することができる。画像では2つのポーチをスケール1.3で同じ長さで伸ばした。「Gizmoがなかった頃は同じように長さを変更することができなかったので便利になりました」(榊氏)

後工程を考慮した嵌合の形状

左右同じようなパーツは台形と五角形のダボを使用している

マガジンはクリアパーツのため、袋と蓋分、マガジンがそれぞれ分割された。その際にも縦横比率を変更して、全てユニークなダボをつくることで、パーツの組み立て時に間違いが起きないよう工夫されている

自然に見せるための形状の工夫

「分割時のポイントは、パーツのはめ込み箇所を単純なブーリアンにせず、少しだけ遊びの空間をつくることで、パーツが内側に少し入り込む感じに見えるように工夫していることです」(榊氏)

帽子を装着した完成イメージ。帽子パーツを取ると、中まで髪の房がつくられている

帽子の縁で髪がブーリアンで削れるようにせず、髪と帽子が接触しない部分(赤帯の箇所)を用意している図。3Dプリント時に出た歪みやレジンキャストの複製により、髪と帽子にわずかな隙間ができた場合、ブーリアンで削ったエッジが見えると隙間が目立ってしまうが、隙間をつくっておくことで、自然に髪が帽子に入り込んでいるように見え、隙間も目立たなくなる

壊れたトランク

トランクは、レンを引き立てる重要な役割があったため、かなり細部までつくりこまれた。壊れかけている瞬間を表現するために、蝶番も抜きを意識しつつ、造形を損なわないギリギリのところでせめぎ合っている。中は別パーツにすることで、質感のちがいも表現された

アスファルトの表現

アスファルトは写真を加工して表現された

アスファルトの凹凸を記録するレイヤーを用意し、Surface Noise強めに作成しておく

3Dプリントを行うと少しデイテールがぬるくなるため、それを見越して凹凸の強さをレイヤーの数値で変更し、調整している

実物も参考にして作成したP90

「裏からみた形状やマガジンなども徹底的に追い込んでいます」(土屋氏)

P90はCAD(Rhinoceros)で設計し、STEPデータとしてそのまま工場へ入稿した

P90の3Dモデル

マガジンの透明パーツの内側に弾の溝を掘り、そこを金色で塗ることで弾が入っているように見せている。実機同様、弾がずれて配置されているところもポイントだ。銃マニア納得の造形である



  • 月刊CGWORLD + digital video vol.244(2018年12月号)
    第1特集:このアニメ、新感覚!
    第2特集:デジタルアートで世界を描く
    定価:1,512 円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:144
    発売日:2018年12月10日

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