<4>セットアップ
ブレンドシェイプとボーンの組み合わせで多彩な表情が表現されている。なお、表情は全て手付けアニメーションで行われている
モデリングの次はセットアップについて解説された。表情はブレンドシェイプを中心に作成し、眉毛・眼球・口周りなどで補助的にボーンを仕込む。「ブレンドシェイプと併用すると、かなりそれっぽくなるのでお勧めです」(平井氏)。なお注意点として、VRコンテンツ向けにモデルを作成する場合は、距離に応じてパースがきつくなる傾向にあるため、プレイヤーとの距離に応じて顎のラインや耳の傾きを自動処理したり、モデルの切り替えをしたりする必要があるという。同様に距離に応じて顔のパーツを中央に寄らせることも重要だと述べられた。
わずかに外側に反り返る指や腕。こうした漫画的な動きがキャラクターに命を吹き込む源になる。モーションキャプチャでは再現できず、ここでも手付けが重要になる
体では上腕と二の腕にねじれ補正を行い、肘や膝を曲げたときに鋭角になるように補助ボーンを追加する。尻も太もものつけねにねじれ補正を行うほか、足を前に曲げたときに自然に尻肉がつぶれるように、補助ボーンを追加する。指はリグを入れずに、手動で制御するのがポイントだ。「指を外側にそらせるなど、指に漫画的な表情をつけると、かわいくなると思います」(平井氏)。腕も同様で、外側に軽く反らせるなど、漫画的な動きを重視している。そのため固定する必要がない関節は、極力FK制御にしているという。
腰と胸の動きで専用のボーンを入れるのはアダルトコンテンツならでは
アダルトコンテンツならではのボーンも存在する。下半身には腰回りを動かすための専用のボーンはそのひとつだ。「腰の位置を保ちつつ、下半身をグラインドさせられるので便利です。しなやかな腰の動きを表現する場合、必須となります」(平井氏)。胸も同様で、3本のボーンが入っており、先頭の骨で乳首の可変を表現する。「ウエイト調整は特に丁寧にしてください」(平井氏)。その後、ポーズを撮らせて可動域や見え方のチェックを最終調整していくというながれだ。
<5>ライティング・Unityとの連携
最後に講演はライティングと、ゲームエンジンとの連携に移った。同社の人気タイトル『VRカノジョ』では、ゲームエンジンにUnityを使用している。ただし標準のライティングだけでは、キャラクターに意図しない形で影が落ちてしまうことがある。そのため常にレフ板で顔周りが照らされるイメージで、最善なライティングが行われるようにプログラムされている。広大なマップを歩き回るようなゲームではなく、女の子の可愛らしさが売りのゲームであるため、キャラクター中心のライティングを行なっているというわけだ。
肌の質感、胸揺れ、ポストプロセッシングなど、様々な場面でUnityのアセットが効果的に使われている
肌の質感は物理ベースのシェーダアセット「Alloy Physical Shader Framework」を使用し、肌のきめの細かさはDetalmapで表現。服はシェーダをグラフィカルに作成できるアセット「Shader Forge」などが用いられている。このほか、胸揺れはUnityのアセットで、骨や関節に物理的な動きがつけられる「DynamicBone」をベースに独自カスタマイズ。通常のものよりも滑らかで、理想的な旨揺れになるように工夫されている。ポストプロセッシングでは純正のPost Processing Stackが使用されている。
特別編としてアニメ系のキャラクターモデリングについても補足された。基本的な部分はセミリアル系と同じだが、アニメ系ではキャラクターの表情がより多彩にできる。その一方で眉毛を前髪の前に表示させるなど、プログラム的な工夫も必要になるとされた。また頭髪はセミリアル系では「笹かまぼこ状」だったが、アニメ系では、より厚みをもった「バナナ状」と表現。重たい感じにならないように注意すること。また「メリハリを出したいところにエッジ処理をいれること」、「毛先が単調にならないようにすること」などの注意点が示された。
基本的なつくり方はセミリアル系のキャラクターと同じだが、表情づけなどがより激しくなる。髪の毛も短冊ではなく、かまぼこ的な厚みのあるパーツで構成されている
同社のワークフローは美少女を「単体、または数人で」、「大きく」、「可愛く」表現することに注力している。プラットフォームもPCで、高性能なGPUや潤沢なメモリなどに支えられており、「新作タイトルが発売される度に、PCをアップグレードしてくれるお客様がいるほど」(平井氏)だ。そのためボーン数やポリゴン数などは、一般のコンシューマゲームやスマホゲームとは比較にならないほどリッチなものになっている。一方でリアルタイムCGならではの簡略化もあり、ユニークな立ち位置のコンテンツになっている。ジャンルの特殊性もあり、クリエイターのこだわりを生で聞ける機会はなかなかないだけに、多くの参加者にとって印象深いセッションになったようだ。