11月4日に開催された「CGWORLD 2018 クリエイティブカンファレンス」では、美少女ゲームメーカーのイリュージョンから平井雄一氏が登壇。「真♥オトナのCG特集[ILLUSION]」と題して講演を行なった。CGWORLD本誌240号特集や(参考記事はこちら)、直後に行われたニコ生配信を補完する内容で、多くのゲーム開発者やCGアーティストが参加。講演後も時間いっぱいまで質疑応答が続き、高い関心度がうかがわれた。

TEXT & PHOTO_小野憲史/Kenji Ono
EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada

<1>概要と使用ツール

VRやVtuberのながれのなかで、急速に存在感を見せているのが美少女ゲームメーカーだ。「かわいい女の子のリアルタイムCG制作」を少人数・短期間で制作する上で、様々なノウハウを有している。『VRカノジョ』などで知られるイリュージョンもそのひとつで、CGWORLD本誌240号に掲載された「オトナのCG特集」は大きな反響を呼んだ。同社でリードキャラクターアーティストとアートディレクターを兼務する平井雄一氏は、講演で自身のもつ多彩なノウハウをあますところなく披露した。

平井氏による制作手順は、ローポリで大まかな形を整えて、サブパッチ(=サブディビジョンサーフェス)でメッシュを分割したのちに、ポリゴン化。その後、リダクションしてメッシュのながれを整えるのが大まかなながれ。このようにサブディビジョンサーフェスを多用するのが平井氏のスタイルだ。他にディティールの追加のため、ZBrushも適時併用されている。

使用ツール

  • ZBrush
  • 細かいシワやDetailの追加、ノーマルベイク用ハイポリメッシュ作成
  • 3D-Coat
  • 写真素材の転写、Light Baking toolでSSSのベイク用
  • Knald 1.2.1
  • SSSを使用する際のTransmissonマップ作成用
  • Quixel DDO
  • カラーIDマップと各種マップを使用し、モデルに質感をもたせる

<2>顔のモデリング

顔の制作手順は、まず眼球を作成し、それに合わせて瞼のラインを面貼りで形成する。次に鼻口耳なども同様の手順で作成。顔も大まかな形を作成し、耳・鼻・目などを合体後、サブパッチをかけて形を調整していく。「サブパッチを使うと、少ない頂点数ですむのでツールの操作が軽くなります。また、一点を動かすだけで広範囲に影響が及ぶため、全体のアタリをとりやすいメリットもあります。髪や胸、服の皺などの曲線がつくりやすい点も好みです」(平井氏)。

なお、顔のモデリングでは「目元・口元などでメッシュのながれを意識する」、「口は表情をつけるためにポリゴン数を多くする」、「鼻は特にポリゴン数を多く割いて、滑らかにする」、「頭頂部はローポリですませる」点に注意しているという。他に「顔と体は同時に進行するか、ダミーでもいいので胸像程度のモデルはつくっておきたい」とも補足された。体と顔をバラバラでつくると、後でバランスをとるのが難しくなるからだという。

どんなに精緻でも、可愛くなければ商品にならない。クリエイターのフェチ心がキャラクターに魂を注入していく。細かいつくり込みが光る部分だ

ある程度、形ができたら、ブラッシュアップしつつ可愛らしさを加味していく。「自分好みにつくっていく方が楽しいですよね。目の感じや唇、睫毛、髪型など、悩んでいる時間すら楽しく感じられます。自分は眼鏡フェチでもあるので、全てのキャラクターに眼鏡をつけています」(平井氏)。
ちなみに同社では経験に関係なく、絵を描ける人がキャラクターデザインをするとのこと。ただし大半のモデリングは平井氏が行うため、自然と平井氏好みのキャラクターになっていくと明かした。

また、「目のパーツで一番大事なのは睫毛」という平井氏。極力ポリゴンで作成し、3本1束ほどの毛束をベースに植毛していく。このとき上睫毛に対して下睫毛は軽くするのがコツだ。目元は自然さを出すために、眼球の外側に影を落とすと良いとのこと。瞳のハイライトはテクスチャではなく、ポリゴンで作成されている。顔の向きに応じて最適な位置に移動するよう、プログラムで動かせるようにするためだ。鼻は永遠の課題で、小鼻の比率や鼻の穴の見え方で印象が変わるという。

髪は短冊状の3Dモデルを組み合わせて植毛していく。ほつれ毛の1本1本まで3DCGモデルで表現されている。高性能なGPUを搭載し、メモリも潤沢に使えるPCゲームならではの開発手法だ

髪は房ごとに3Dモデルをつくって植毛していく。はじめに短冊状のポリゴンをつくり、笹かまぼこ状にした後でサブパッチ化し、形状を整えていく。その後、ポリゴン化してリダクションしたうえで植毛するというながれだ。「毛先のながれを考えながら植えていくと良いです。このとき、微妙にUVをずらしてランダム感を出します。その後、ほつれ毛的なものを3DCGで表現していきます。下地になるポリゴンから切り出し、浮かせるだけで、それっぽい感じになります」(平井氏)。

<3>体のモデリング

続いては、体のモデリングへと話題が移った。はじめにボックスで上半身・下半身・腕・足・頭部などをつくり、全身のあたりを取りつつ、TスタンスかAスタンスに変形。ZBrushでDivideやDynbameshを行いながら、全体の形状を整えていく。その後、Smoothブラシで整えてobjで書き出し、DCCツールに読み込ませる。最後にDCCツール側でサブパッチ化したり、メッシュのながれを整えたりして、仕上げを行なっていく。

平井氏のこだわりポイントは「前から見たとき、股間の隙間から尻肉が見えるようにすること」、「胸回りは胸揺れを意識して、ポリゴン数を多めに分割すること」、「胸のながれを意識してメッシュを分割していくこと」などだ。ただし、胸は先端に行くにつれてメッシュが密集していくので、適当な箇所でポイント結合が必要になる。「あとは自分好みの形と大きさを追い求めてください」(平井氏)。

指先の形状と動きはキャラクターの性格を表現する上で重要とのこと。他に肩や膝裏のラインなども重要で、メッシュのながれを整えていく。足の動きによって尻の形状が崩れないことも重要で、いずれも美少女ゲームならではのこだわりポイントだ

他に重要な点に指がある。「指はキャラクターの性格を表現する上で非常に重要なので、納得がいくまで試行錯誤を続けます」(平井氏)。指の関節部分は切れ込みを入れておき、実際に曲げ伸ばしをしながら調整を続けていく。尻は足の動きによってメッシュが伸縮するため、ウエイトにあまり影響のないところで頂点を縮めるのがポイント。背中は肩甲骨のながれを意識すること。膝裏はHのラインをメッシュで入れておくこと......などが注意点として挙げられた。

テクスチャは女性モデルの全身をデジタルカメラで撮影したデータを基に、3D Coatなどを使用して作成する

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<4>セットアップ

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<4>セットアップ


ブレンドシェイプとボーンの組み合わせで多彩な表情が表現されている。なお、表情は全て手付けアニメーションで行われている

モデリングの次はセットアップについて解説された。表情はブレンドシェイプを中心に作成し、眉毛・眼球・口周りなどで補助的にボーンを仕込む。「ブレンドシェイプと併用すると、かなりそれっぽくなるのでお勧めです」(平井氏)。なお注意点として、VRコンテンツ向けにモデルを作成する場合は、距離に応じてパースがきつくなる傾向にあるため、プレイヤーとの距離に応じて顎のラインや耳の傾きを自動処理したり、モデルの切り替えをしたりする必要があるという。同様に距離に応じて顔のパーツを中央に寄らせることも重要だと述べられた。

わずかに外側に反り返る指や腕。こうした漫画的な動きがキャラクターに命を吹き込む源になる。モーションキャプチャでは再現できず、ここでも手付けが重要になる

体では上腕と二の腕にねじれ補正を行い、肘や膝を曲げたときに鋭角になるように補助ボーンを追加する。尻も太もものつけねにねじれ補正を行うほか、足を前に曲げたときに自然に尻肉がつぶれるように、補助ボーンを追加する。指はリグを入れずに、手動で制御するのがポイントだ。「指を外側にそらせるなど、指に漫画的な表情をつけると、かわいくなると思います」(平井氏)。腕も同様で、外側に軽く反らせるなど、漫画的な動きを重視している。そのため固定する必要がない関節は、極力FK制御にしているという。

腰と胸の動きで専用のボーンを入れるのはアダルトコンテンツならでは

アダルトコンテンツならではのボーンも存在する。下半身には腰回りを動かすための専用のボーンはそのひとつだ。「腰の位置を保ちつつ、下半身をグラインドさせられるので便利です。しなやかな腰の動きを表現する場合、必須となります」(平井氏)。胸も同様で、3本のボーンが入っており、先頭の骨で乳首の可変を表現する。「ウエイト調整は特に丁寧にしてください」(平井氏)。その後、ポーズを撮らせて可動域や見え方のチェックを最終調整していくというながれだ。

<5>ライティング・Unityとの連携

最後に講演はライティングと、ゲームエンジンとの連携に移った。同社の人気タイトル『VRカノジョ』では、ゲームエンジンにUnityを使用している。ただし標準のライティングだけでは、キャラクターに意図しない形で影が落ちてしまうことがある。そのため常にレフ板で顔周りが照らされるイメージで、最善なライティングが行われるようにプログラムされている。広大なマップを歩き回るようなゲームではなく、女の子の可愛らしさが売りのゲームであるため、キャラクター中心のライティングを行なっているというわけだ。

肌の質感、胸揺れ、ポストプロセッシングなど、様々な場面でUnityのアセットが効果的に使われている

肌の質感は物理ベースのシェーダアセット「Alloy Physical Shader Framework」を使用し、肌のきめの細かさはDetalmapで表現。服はシェーダをグラフィカルに作成できるアセット「Shader Forge」などが用いられている。このほか、胸揺れはUnityのアセットで、骨や関節に物理的な動きがつけられる「DynamicBone」をベースに独自カスタマイズ。通常のものよりも滑らかで、理想的な旨揺れになるように工夫されている。ポストプロセッシングでは純正のPost Processing Stackが使用されている。

特別編としてアニメ系のキャラクターモデリングについても補足された。基本的な部分はセミリアル系と同じだが、アニメ系ではキャラクターの表情がより多彩にできる。その一方で眉毛を前髪の前に表示させるなど、プログラム的な工夫も必要になるとされた。また頭髪はセミリアル系では「笹かまぼこ状」だったが、アニメ系では、より厚みをもった「バナナ状」と表現。重たい感じにならないように注意すること。また「メリハリを出したいところにエッジ処理をいれること」、「毛先が単調にならないようにすること」などの注意点が示された。

基本的なつくり方はセミリアル系のキャラクターと同じだが、表情づけなどがより激しくなる。髪の毛も短冊ではなく、かまぼこ的な厚みのあるパーツで構成されている

同社のワークフローは美少女を「単体、または数人で」、「大きく」、「可愛く」表現することに注力している。プラットフォームもPCで、高性能なGPUや潤沢なメモリなどに支えられており、「新作タイトルが発売される度に、PCをアップグレードしてくれるお客様がいるほど」(平井氏)だ。そのためボーン数やポリゴン数などは、一般のコンシューマゲームやスマホゲームとは比較にならないほどリッチなものになっている。一方でリアルタイムCGならではの簡略化もあり、ユニークな立ち位置のコンテンツになっている。ジャンルの特殊性もあり、クリエイターのこだわりを生で聞ける機会はなかなかないだけに、多くの参加者にとって印象深いセッションになったようだ。