SteamのVRコンテンツ売り上げ上位ランキングに鎮座する『VRカノジョ』。高水準の3D技術に裏打ちされたアダルト表現は、他に類を見ません。業界初となる制作メイキングを、ILLUSIONの平井雄一氏に伺いました。
※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 240(2018年8月号)からの一部転載となります。以降に続く「キャラクターセットアップ」、「アニメーション」、「ルックデヴ」、「コラム:IVR潜入取材」は本誌をご覧ください
TEXT_坂本一樹 a.k.a. ますく(@mask_3dcg)
EDIT_藤井紀明 / Noriaki Fujii(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
3D技術の積み重ね
今でこそ隆盛を誇るVR市場ですが、2017年2月にリリースされた『VRカノジョ』の開発時はヘッドマウントディスプレイ(HMD)の普及率を低く見積もっていたため、ILLUSIONでは少人数で開発を行なっていたそうです。しかしながら、リリース後に予想以上の反響があり、発売から1年経った今でも人気の衰えを見せないヒットコンテンツになりました。日本での人気はもちろん、海外市場に関してILLUSIONはもともと中国や台湾で人気があり、アメリカやロシアでも好評を得てきましたが、2018年初頭にSteamで『VRカノジョ』の全年齢版をリリースしたことで海外のユーザーも購入しやすくなり、現在は北米を中心にさらに販売本数を伸ばしているそうです。
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1992年に発足し横浜に本拠地を置く、3Dに特化した老舗PCアダルトゲームブランド。常に時代を先取りした最新技術を取り入れたハイエンドPC向けのコンテンツを発信し続けており、VR分野でも業界をリードしている。
www.illusion.jp
今回は『VRカノジョ』の中心的な開発者でもあり、ILLUSIONで数多くの作品を生み出してきた平井雄一氏に取材しました。まず驚かされたのが、『VRカノジョ』は平井氏をはじめ、プログラマーと進行管理役のたった3人で開発し、キャラクターモデルを中心としたグラフィックスの開発は平井氏がほぼ全てひとりで行なっているということです。開発者の平井氏はもともとトゥーン系のキャラクターモデラーとして話題作を生み出してきたクリエイターでもあり、2012年にリリースされた初監督作品『俺が主人公』では当時本格的な3DCG作品の少なかったスマートフォン向けに高い水準の3D技術を用いたスピンオフ作品をリリースしたりと、技術的にもアダルト表現もハイエンドを攻めるILLUSIONの姿勢が話題を呼び、高い評価を受けました。今回はそんな『VRカノジョ』の開発において使われた技術を、特別に包み隠さず披露していただきました。
平井雄一(@Genz_3D)
ILLUSION勤続18年目のベテランキャラクターモデラー。代表作は、初監督作品となる2012年リリースのADVゲーム『俺が主人公』。『VRカノジョ』のグラフィックスをほぼ単独で開発し成功を収め、VRコンテンツ開発を専門に担うIVRスタジオを起ち上げた中核メンバーのひとり
MODELING
サブディビジョンでつくる顔モデル
モデリングでは主にLightWaveが使用され、サブディビジョンサーフェスでキャラクターを作成し、ディテール付けの作業のみZBrushが併用されています。まず眼球をつくり、それに合わせて瞼のラインを面張りで形成し、鼻や口も面張りで作成。はじめは少ないポリゴンでつくり始め、最終的にはサブディビジョンをかけ、ZBrushでフェイシャルモーフや歪みが調整されています。早い段階で髪のラフモデルや目のテクスチャを乗せることで完成形をイメージしやすくなり、作品のクオリティアップにつながるのだそうです
サブパッチによる髪の作成
髪の作成では、まず写真素材【画像左】をベースに抜きの板ポリ【画像右】を作成します
サブパッチ(メタナーブス)の状態でドラッグネットを当てて形を整え、分割を加えます
【画像】の赤くなっている部分は、浮いた柔らかい髪を同じ要領で追加しているところです
モデルを重ねて表現された目とまつ毛
目は球体を半分にカットし、影のグラデーションやハイライト用のモデルを重ねて使用しています。目に影を入れることで、より自然な表現が可能になります。まつ毛は以前まで板ポリのアルファ抜きで作成されていましたが、VRの場合は近くまで寄ることができるためポリゴンで作成する工夫が施されています
【画像】が影用のモデルを追加する前の瞳
【画像】が追加した後の瞳です
VR向けモデルならではの注意点=パース!
VRコンテンツ向けのキャラクターをつくるときに気になるのが、PCモニタ上で見ているよりも、VR上で見ると顔のパースがきつくかかり、歪んでしまうということです。実際の人間に近寄っても顔が流線形に伸びるようなことはありませんが、VRコンテンツではパースが強くかかりすぎて、近寄った人物などが流線形に伸びて見えることがあります。『VRカノジョ』のモデリングで一番こだわったというのが、一度作成したモデルをVR上で違和感なく表示するためにHMDで見たときのパースの歪みを補正することだそうです。PCモニタ上でモデルを完成させた後にHMDを何度も着脱し、顎骨や耳などの開き具合をVR用の顔の比率に修正しています。モデルの最終調整では顔のエラの張り具合などをモーフィングで調整し、最適化されています。
【画像左】2Dゲーム時にちょうど良いバランス、【画像右】VR画面上で見たときにちょうど良いバランスです。
[[SplitPage]]SHADER & TEXTURING
Knaldを用いた透け感のある人肌表現
本作では特に人肌の質感にこだわり、人肌などの表面下散乱表現を再現するためSSS(サブサーフェス・スキャタリング)が取り入れられています
現実の世界では耳や手のひらなど厚みのない箇所は光をよく通す(皮膚の下で皮下散乱する)性質がありますが、SSSをシェーダ単体で使用すると全身に均等にSSSがかかってしまい、人体の厚みによってSSSの効き具合に差をもたせることができません。そこで必要になってくるのが肌の透け具合を指定するトランスミッションマップ【画像左】で、このマップを生成するために用いるのがKnald【画像右】です。Knaldはベイクやテクスチャ生成専用のソフトで、ハイポリとローポリの差分からノーマルマップやAOマップなど様々なテクスチャマップを生成できますが、今回はKnaldでキャラクターのSSS用トランスミッションマップを生成、Photoshopで微調整してUnityのAlloyシェーダに適用、という手順で運用されています
Toolbagによるノーマルベイク
ベイクにはMarmoset Toolbagのベイカーが用いられており、ノーマルマップとIDがベイクされます。ベイク時は、重なっている部分を切り離して一発でベイクしているとのことです。ToolbagでベイクしたノーマルマップをKnaldで変換することで、AO・Curvature・Heightなどの各種マップが生成されます
3Dスキャンとディテールマップの活用
テクスチャはCGTextureなどの素材サイトで購入したものを加工することもあるそうですが、キャラクターの肌質感に関しては、ILLUSIONが独自にモデルさんを全身スキャンした超高解像度の肌素材がベースとして使用されています。転写には3D-Coatが用いられており、テクスチャは左右非対称にすることでよりリアルで自然な見た目になるように意識しているとのことです。さらにキャラクターに近寄ったときに肌の質感が出るように、Unity上でセカンダリマップ(ディテールマップ)も適用されています。セカンダリマップには人肌のような質感のタイルマップを使用し、唇など適用したくない箇所はマスク素材で指定されています
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『VRカノジョ』
ジャンル: アドベンチャー
開発元:ILLUSION
パブリッシャー:ILLUSION
リリース日: 2018年4月9日
store.steampowered.com/app
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