わずか6ヶ月で完成ーUnityによるスピード感のある開発
本作は2017年9月から制作がスタートした。オープン日が当初から決まっていたため、わずか半年という短期間での制作となったが、3DCGなどのアセット類にUnity アセットストアを活用することにより早期にプロトタイピングが可能となり、3ヶ月後の12月にはアセットを含めたプロトタイプが完成していたという。ワンオフとなるハウスダストおよび戦闘機DB-01については、アセット制作全般をリードした沼口氏がコンセプトアートを制作し、モデリングはNeun Farben側の3DCGアーティストが対応している。戦闘機の外観は後にPV制作の過程で追加されたものであるため、開発初期のアセット数は少なくて済んだという。
ハウスダストおよびDB-01の、デザイン画(左)と完成したアセット(右)。アセット制作にはMayaとZBrushが使用された。花粉やカビなどは、リアルさを保ちつつゲームオブジェクトとして成立するよう沼口氏がデザインを詰めていき、Neun Farben側が詳細に再現を行うことで、アセットストアのリアルな背景と合致したルックとなっている
「3DCGアセットにはリアリティのある表現が求められましたが、ホコリやカビなどはリアルに再現しすぎると面白みに欠けるため、私の方でかなり脚色しています。例えば現実のカビの胞子はただ丸いだけなのですが、そこにゴツゴツ感を加えたり、泥の塊のように見えてしまう食べこぼしも、カビの茎のようなものが生えるようになっていたりと、パッと見て敵だと認識できるようなデザインになっています」(沼口氏)。
実際のステージ画面
また、ムービー制作におけるカメラワークにはUnity 2017から新たに追加されたTimeLine機能が活用されている。Timelineウィンドウは時間経過に沿ってオブジェクトを発生させることが容易で、パラメータ変化がリアルタイムにSceneビューとGameビューで確認できるため、基となる映像はUnity上で作成し、Recorderで収録後にAfter Effectsなどでポストプロセシングを行うという手法が採られている。
ハウスダストの出現はUnity上のTimeline、周りのUIのようなものは全てUnity外の映像編集で合成されている。画像はAEでの編集画面。沼口氏いわく「それっぽいメーターなどをたくさん出しておくことで、説得力が増すような感じがします」とのこと
Timeline機能によるカメラワーク設定の様子
ハウスダストの出現パターンの設計については森氏が担当。今回は16人同時プレイということで相当数を描画する必要があったが、負荷対策のために視界外のハウスダストを消していくことで最適化を図っている。森氏にレベルデザイナーの経験はなかったそうだが、これまでのゲームプレイの経験と周囲からのフィードバックを基に、出現パターンの精査を行なったという。
ハウスダストが出現しているところを別アングルからみた様子。カメラより奥にはハウスダストが出現していないことがわかる
開発後期で問題になったのがハウスダストのスケール感。本作では最終ステージにボスとしてダニが出現するが、当初実装していた「無数のダニを倒していく」という展開では恐怖感が少ないため、「巨大なダニに襲われる」という展開に変更された。そのため、12月の段階でステージを1から設計し直すことになったが、これは沼口氏が約2週間で対応。結果として、「絶対に倒せない巨大な敵」からハウスダストの怖さを覚えていくという印象的なラストステージに仕上がっている。
無数のダニを倒していくという初期案。ステージ1、2に比較して変化が少ないため、ボツとなった
採用された演出。ダニを下から見上げるような構図となり、恐怖感が煽られる
Vol.1でも触れたように、本作はゲームらしさとリアルさがせめぎ合う中、スケール感については何度もトライ&エラーが行われた。そのたびに「おそうじの大切さを伝える」当初のコンセプトを遵守し、最終的には写実性よりも演出的なわかりやすさを重視するデザインが採用されたというわけだ。
なお、ダスキンダストミュージアム敷地内での実地テストは3回行われた。現地ではコントローラキャリブレーションのテストおよび座席の位置や全体の広さの確認が行われ、プロジェクタ投影の歪みなども調整された。「最初に現地に行ったとき、HDMI接続のプロジェクタがまったく映らないなどのトラブルが多発しました。調べていくと変換機がNGだったり、USBハブがバスパワーであるための不具合だったりと、ハードの相性問題である場合が多かったです。ソフト側はNeun Farbenとの協業で早期に完成していましたが、現地での調整も相応に工数がかかりました」(森氏)。また、ムービー再生の際のテロップなどは、画面下に表示すると前の人の頭で隠れてしまうことが現地テストで判明したため、現地テスト後に上部に表示するよう変更されている。開発後期では、こうしたソフトウェア側へのフィードバックも多かったという。
谷田氏の企画案を基に開発がスタートした本プロジェクトは、国外も含めた3社共同の下6ヶ月という短期間ながら完成度の高いプロダクトを生み出すことに成功した。しかし、一般公開がスタートした後も、運用・オペレーションについては様々な試行錯誤があったという。次回は現地での運用と、プロジェクト参加者が目指す未来について紹介する。