Topic 2 TVアニメとオリジナル作品でみる制作事例とTMSCAMの可能性
アニメ業界の未来を見据えて共通ツールの存在意義
ここでは実例を通してTMSCAMの可能性を探っていく。TVアニメ『つくもがみ貸します』(2018)では、むらた雅彦監督からの「江戸のがやがや感を表現したい」というオーダーの下、CGエキストラを作画アニメに適切に入れ込んでいる。本作では作画とCGで上手く協業できるかも検証された。実際のカットで3Dレイアウトを組み、アニメーターやCGスタッフからヒアリングするなど、様々な立場のスタッフから情報を引き出し、現在も検証を続けているという。なお時期は未定だが、将来的にTMSCAMの配布も予定しているとのこと。「アニメ『つくもがみ貸します』では、トラブル回避のためデジタル推進室でアセットを用意し、カット単位で検証しましたが、大きな事故はありませんでした。作画とCGとは、考え方やつくり方の文化、予算の配分もちがうので、デジタル推進室が作画とCGの調整役になっています。そして両者をつなぐ共通のプラットフォーム「TMSCAM」により、業界として上手く育っていけるようにしたいです。紙と鉛筆という共通のツールを使うことで、作画の手法や技法が受け継がれ進化してきたように、TMSCAMによって業界が進化していったらいいですね」(伊東氏)。
『つくもがみ貸します』における制作事例
デジタルアーティストの佐伯圭介氏に解説をお願いした
「実際に使用したTMSCAMの作業画面です。背景には、既存の3Dレイアウトシステムから出力した画像を原図として使用しています。[カメラ選択]ボタンを押すと先にGENZU_CAMが選択され、初期設定ではGENZU_CAMとPreview_CAMは同じ位置になっています。このカットのようにPANさせたいときは[2DPAN]ボタンを押すと、GENZU_CAMは動かずにGENZU_CAMの中をPreview_CAMだけ移動させられます」
Preview_CAMの1フレーム目。右端にPreview_CAMのフレームがある
230フレーム目。左端にGENZU_CAMのフレームが移動している。3D空間ではあるが、作画用紙をそのまま動かしているようなイメージだ
実際のカットの原図と完成画
『つくもがみ貸します』のエンディングカットの背景原図。既存の3Dレイアウトシステムから書き出されたこの原図を基に、アニメーターと演出の指示の下、CGのモブキャラクターを配置した
完成した最終画面
TMSCAMを用いた原画作業の例
アニメーターの伊與木 聡氏によるTMSCAMを使用したデモ作画を紹介する。「CLIP STUDIO PAINTにも3D機能はありますが、キャラクターのポージング参考としての使い方がメインで、3Dに特化したものではありません。ステージングのしやすさでいうとTMSCAM(MODO)の方が良いです。CGの下地がなかったら、このようなカメラが動きキャラクターのパース変化も大きい大胆な芝居をさせようとは思いません。背景も空や木のみであれば手描きの方が早いですが、パースを気にするべきオブジェクトが多いものほど、TMSCAMの使用で効率は上がりますね」(伊與木氏)
TMSCAMの作業画面。キャラクターの頭身に合わせた人体モデルを配置し、カメラワークに合わせて簡易的に動かしていく
CLIP STUDIO PAINTの作業画面。MODOでレンダリングした画像を読み込み、原画を描く
完成した原画の連番画像。躍動感のある動きだ