作画メインのアニメでも、3Dレイアウトやクルマ等、どこかでCGが用いられていることが多い。しかし、同じ用語でも意味合いが異なるなど、作画とCGの間にはまだ隔たりも存在する。そこで「カメラ」を共通言語として作画とCGをつなごうと誕生したのが「TMSCAM」だ。ここでは、TMSCAMの解説やTVシリーズにおける導入事例などを紹介する。
※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 247(2019年3月号)からの転載となります。
TEXT_永岡 聡(lunaworks)
EDIT_斉藤美絵 / Mie Saito(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
作画のデジタル化のその先へ
作画とCGを協業させるカスタムカメラ
昨年12月、Foundry、MODO JAPAN GROUP主催で行われた「デジタルアニメ ワークフローセミナー」にて、トムス・エンタテインメント デジタル推進室はオリジナルカスタムカメラ「TMSCAM」を発表した。このTMSCAMはMODOのカメラをカスタマイズし、作画(2D)とCG(3D)の連携を行う専用カメラとなっている。開発したきっかけや経緯をトムス・エンタテインメント デジタル推進室室長・伊東耕平氏に聞いた。
左から、伊與木 聡氏(アニメーター)、佐伯圭介氏(デジタルアーティスト)、伊東耕平氏(トムス・エンタテインメント デジタル推進室長)以上、トムス・エンタテインメント。高野怜大氏(CGディレクター/
KORAT)
www.tms-e.co.jp
TMSCAMの詳しい情報はこちら
「私たちは、グループ会社におけるアニメ制作のデジタル化と効率化を目的として、昨年5月から取り組みを開始しました。現在は、原画のデジタル化および、作画・CGの協業体制の強化などに取り組んでいます。近年、デジタルによる原画や動画の導入が進んでいますが、それだけでアニメ制作が変わるのは難しいという想いがありました。そこで、デジタルにおけるワークフロー、パイプライン、制作の管理体制の整備という3本柱をテーマに活動しています。作画の場合、デジタルと言っても手描きであることに変わりはないので、作業の効率化にはいたりません。実績のあるデジタル動画でも、月産枚数はアナログと大差ありません。作画作業の効率化のためには、デジタル環境を活かした何かしらのしくみが必要だろうと感じました。そこで、既存の3Dレイアウトを汎用化し、作画の要になるレイアウト作業を効率化することで、早さと質をある程度担保できるようにしたいと思ったのです。現在アニメーション業界は過渡期にあり、様々な取り組みが提案されています。TMSCAMもそのひとつです。作画とCGだけでなく、業界を越えてつながらないといけない状況ですので、アニメに関わる皆さんの助けになれたら嬉しいですね」(伊東氏)。
昨今、作画とCGとのハイブリッド作品も珍しくなくなってきたが、制作現場ではアナログとデジタルが混合することで、思わぬズレが生じ、事故や制作の遅延につながることもある。そこでデジタル作画やレイアウト作業を効率化し、作画とCGの親和性を高める支援ツールとして誕生したのがTMSCAMなのだ。ではこれから、TMSCAMの使い方や制作事例を紹介する。
-
TVアニメ『つくもがみ貸します』
原作: 畠中 恵(角川文庫・KADOKAWA刊)/監督:むらた雅彦/シリーズ構成:下山健人/キャラクター原案:星野リリィ/キャラクターデザイン:谷野美穂・吉沼裕美/制作:トムス・エンタテインメント/アニメーション制作:テレコム・アニメーションフィルム
tsukumogami.jp
© 2018 畠中恵・KADOKAWA/つくもがみ製作委員会
MODO 12
MODO 恒久ライセンス(1年間メンテナンス付き):238,000円(税抜き)
MODO サブスクリプション 1年間:80,000円(税抜き)
modogroup.jp
Topic 1 レイアウトを中心にカメラで作画とCGをつなぐTMSCAM
作画スタッフも扱えるわかりやすいCGツールを目指して
TMSCAMを開発した高野怜大氏は「同じ言葉でも、業界によってどこまで作業するかの意味合いがちがうことがあります。"レイアウト"もそのひとつです。そこで、それぞれの業界をつなぐためには何かしらの共通言語が必要だと思い、皆が使いやすいフォーマットは何か思案した結果、作画とCGの垣根を取り払うために"カメラ"に注目したカスタムツールが必要だと考えました。TMSCAMはAfter Effectsや昔の撮影台、大判カメラのしくみから着想を得ています。作画を支援したい、使いやすくしたいという想いからつくりました。作画のレイアウトは紙に描くことから自由度が高いので、フィルムバックのサイズも横長・縦長など、比較的容易に設定できるソフトを探しました。カメラごとにレンダリングサイズを変更でき、作画や制作の人にもわかりやすく、ボタンを押したらすぐに目的が達成できるようにユーザーインターフェイスをカスタマイズできることも重要でした。そこで出会ったのがMODOです。レンダリングも綺麗ですし、比較的新しいソフトなのでAlembicなどのフォーマットも読み込め、処理しやすいのも魅力でした。こちらの要望も開発側に受け容れていただき、サポートも良かったですね」と話す。その思想は、カメラの名称やユーザーインターフェイスにもしっかりと反映されている。例えばカメラの名前だが、背景原図を映すカメラは「GENZU_CAM」、撮影用のカメラは「Preview_CAM」と呼び、作画スタッフも直感でわかるようにとの配慮が感じられる。また、ユーザーインターフェイスもシンプルにし、GENZU_CAMの中をタップ穴がついたPreview_CAMが動く等、アナログの作画作業のイメージを前面に押し出した。
「これまで作画をやってきた人の中で、CGに興味のない人にもある程度使ってもらうためには、最初に使った印象が良くないと受け容れてもらえません。見た目も、私がパッと見て"やれるかも"と思うくらいにしてください、とお願いしました」(伊東氏)。あくまでも2Dの作画側に土台を置いたつくりを目指したのだ。
TMSCAMの基本的な使用方法
TMSCAMを適用したMODOの操作画面。左がパースペクティブビュー、右上がPreview_Cam、右下がGENZU_CAMの画
-
Preview_Camを左へ2DPANさせた。タップ穴のある作画用紙を模した線が画角のアタリとして表示され、カメラに連動して動く。作画スタッフにとって非常にわかりやすい画面構成となっている -
Preview_Camが2Dズームしている画。GENZU_CAMでレイアウト位置を確認できる
同様にPreview_Camがカメラロールしている画
HTMLベースでつくられた作業効率アップツール「TmsCamPicker」。カメラの追加や選択、レンズ設定などがボタンひとつで簡単に行える
自由度の高いフレーム調整
[Item Properties]内にある[レンダー解像度無効]オプションにより、カメラごとにレンダー解像度を自由にカスタマイズできる
横長の原図に合わるため、GENZU_CAMの解像度無効オプションをONにし、幅6,600ピクセル、高さ2,040ピクセルにした
同じシーンのPreview_CAM。幅2,340ピクセル、高さ1,654ピクセルとした。同じシーンにGENZU_CAMと異なる比率のカメラを設定できる
上がPreview_CAM、下がGENZU_CAMから見た画。上下のカメラで解像度(比率)がちがう。このような設定は他のソフトでは類を見ないユニークなものだ
MODOの選定理由にもなった解像度の設定
[Item Properties]のフレームタブにて、解像度の単位を指定できる
解像度を300(上)から150(下)に変更してサイズが変わっても、見え方は変わらない。後から解像度を変更することができるので、作画や背景などの平面素材に合わせることも容易にできる
次ページ:
Topic 2 TVアニメとオリジナル作品でみる制作事例とTMSCAMの可能性
Topic 2 TVアニメとオリジナル作品でみる制作事例とTMSCAMの可能性
アニメ業界の未来を見据えて共通ツールの存在意義
ここでは実例を通してTMSCAMの可能性を探っていく。TVアニメ『つくもがみ貸します』(2018)では、むらた雅彦監督からの「江戸のがやがや感を表現したい」というオーダーの下、CGエキストラを作画アニメに適切に入れ込んでいる。本作では作画とCGで上手く協業できるかも検証された。実際のカットで3Dレイアウトを組み、アニメーターやCGスタッフからヒアリングするなど、様々な立場のスタッフから情報を引き出し、現在も検証を続けているという。なお時期は未定だが、将来的にTMSCAMの配布も予定しているとのこと。「アニメ『つくもがみ貸します』では、トラブル回避のためデジタル推進室でアセットを用意し、カット単位で検証しましたが、大きな事故はありませんでした。作画とCGとは、考え方やつくり方の文化、予算の配分もちがうので、デジタル推進室が作画とCGの調整役になっています。そして両者をつなぐ共通のプラットフォーム「TMSCAM」により、業界として上手く育っていけるようにしたいです。紙と鉛筆という共通のツールを使うことで、作画の手法や技法が受け継がれ進化してきたように、TMSCAMによって業界が進化していったらいいですね」(伊東氏)。
『つくもがみ貸します』における制作事例
デジタルアーティストの佐伯圭介氏に解説をお願いした
「実際に使用したTMSCAMの作業画面です。背景には、既存の3Dレイアウトシステムから出力した画像を原図として使用しています。[カメラ選択]ボタンを押すと先にGENZU_CAMが選択され、初期設定ではGENZU_CAMとPreview_CAMは同じ位置になっています。このカットのようにPANさせたいときは[2DPAN]ボタンを押すと、GENZU_CAMは動かずにGENZU_CAMの中をPreview_CAMだけ移動させられます」
Preview_CAMの1フレーム目。右端にPreview_CAMのフレームがある
230フレーム目。左端にGENZU_CAMのフレームが移動している。3D空間ではあるが、作画用紙をそのまま動かしているようなイメージだ
実際のカットの原図と完成画
『つくもがみ貸します』のエンディングカットの背景原図。既存の3Dレイアウトシステムから書き出されたこの原図を基に、アニメーターと演出の指示の下、CGのモブキャラクターを配置した
完成した最終画面
TMSCAMを用いた原画作業の例
アニメーターの伊與木 聡氏によるTMSCAMを使用したデモ作画を紹介する。「CLIP STUDIO PAINTにも3D機能はありますが、キャラクターのポージング参考としての使い方がメインで、3Dに特化したものではありません。ステージングのしやすさでいうとTMSCAM(MODO)の方が良いです。CGの下地がなかったら、このようなカメラが動きキャラクターのパース変化も大きい大胆な芝居をさせようとは思いません。背景も空や木のみであれば手描きの方が早いですが、パースを気にするべきオブジェクトが多いものほど、TMSCAMの使用で効率は上がりますね」(伊與木氏)
TMSCAMの作業画面。キャラクターの頭身に合わせた人体モデルを配置し、カメラワークに合わせて簡易的に動かしていく
CLIP STUDIO PAINTの作業画面。MODOでレンダリングした画像を読み込み、原画を描く
完成した原画の連番画像。躍動感のある動きだ