Topic 2 CM制作におけるVFXの役割
2つのCM事例から垣間見るCutting Edgeの柔軟性
今年の元旦0時に放送されたソフトバンクのCMは、今が旬な5人の俳優やミュージシャンを使った豪華なものだった。VFX SVとして取りまとめたのが、申氏だ。このCMは編集によって6パターン、CGは16カットあり、企画コンテの段階から本編MAまで25日という、非常にタイトなスケジュールで制作された。うち、オフラインFIXからのCG制作は約8日だったという。スタッフはプロデューサーを含めて12~13人。タイトなスケジュールな上、撮影中に絵コンテも変わっていくので、VFXを達成するために、どう撮影・合成するか即断しなければならず、現場にVFXに精通したスタッフが必須であった。最終的に、濃密な6日間の撮影は充実したものだっ たという。
申氏は撮影前の企画から参加している。VFXは背景と合成する点から、美術とのやり取りが特に重要で、デザイン・設計図・グリーンバックの構成図などを見つつ、監督も交えて打ち合わせが行われた。「最初から参加しないと情報が減って、目指すものを100%は理解できません。多くのVFXにおけるCGは撮れないものを撮影したものに合成するものですから、そのプランニングが大変で、それさえ決まれば後は手を動かすだけという状態になります」(申氏)。一方で、現場から学ぶことも多いという。例えばライティングひとつとっても、どうやって照明を当てれば人を綺麗に撮れるかなど、実際の現場で学ぶことは多いそうだ。
GEEKLYのCMでは演出に対するアプローチから提案し、CGは申氏とコンポジットスタッフのふたりだけで制作している。こちらも時間が限られていたので、CGとコンポジットのやりとりを最小限にするために、撮影前の美術の立て込み時に現場を撮影してCG作業を進め、撮影直後に現場EDL・現場LUT・RAWデータを入手してアップデートすることで、撮影当日にはほぼCGを完成させたという。その後、グレーディング後に最終的なEDLとLUTをもらい、それを適用してコンポジットで調整してエフェクト制作をして仕上げるという「プチ・リニアワークフロー」(申氏談)となった。RAWでの作業のため色は合うというが、あまりに激しいグレーディングだとCGで合わせにくいので、最初に最終形を詰めておかないといけないとのこと。
最後にCM制作の醍醐味を聞いた。「最初から最後まで現場に立ち会えるのでやりがいあります。制作スパンが短いけど、その中でどこまでのものがつくれるか挑戦するのが楽しいですし、毎回テイストもちがって飽きません。CGだけでなく撮影や照明、美術などの知識も必要ですが、知ればさらなるチャンスが転がっている仕事だと思います」と申氏は語ってくれた。
ソフトバンクCM『自分で決めた何かにしばられない』篇
児玉裕一氏が総監督を務める2019年の年始(元旦)に放送されたソフトバンクのCMは、VFXだけでなくほぼ全ての工程を同時併行で進めるというタイトなスケジュールだったため、VFXに関する部分も即判断・即対応が必要だった。ポストプロダクションのフローは、オンラインと相談してカラースペースは全てACEScgに統一し、グレーディングを待たずに制作を始めている。この広瀬すずがガラスケースの中から飛び出してくる印象的なカットは、絵コンテでカメラはFIXだったが、現場のアングルチェック時に、よりカッコ良く見えるようにドリーへ変更となった。申氏らも撮影現場にいたため、マーカーや撮影リファレンスの追加もその場で随時対応したという。「現場での対応力、各部署とのつながりが非常に大切だと再確認できる現場でした」(申氏)
スタジオの資料。事前に資料を確認することでVFXの予定も立てやすい
撮影現場の様子。様々なスタッフが集まる
カメラデータ。後の合成をスムーズにするためには必須だ
CGで作成された割れたガラスの素材
ソフトバンクCM『大人にしばられない』篇
CM制作では、このようなコンポジットによる合成はオンラインで行われることがほとんどだ。当初はイントレの下をCGで制作する予定だったが、カメラがFIXだったので、女優(清原果耶)を撮影後、同じカメラを高い位置に変えてイントレを素材撮影し、背景をリプレイスして、セットエクステンションやマットペイントなどの2D処理が施されている。基本的には撮影素材かCGで作成しているが、コードなどの一部は手で描き足された。ACEScgベースであり、ほぼ全てをNUKEで完結している
ソフトバンクCM『ソフトバンクがいままでのソフトバンクにしばられない』篇
予定では田中 圭が家の「天井」を突き破る演出だったので、グリーンバックやリグ、照明などは「室内」を想定して準備された。すでにCG制作も開始していたが、撮影中に「屋根」を突き破る方向に大きく演出が変更され、即時対応が求められたという。「グリーンバックを使ってCGの合成があるショットでは、特に照明部のスタッフと一緒にいます。即座に新しいセットを設置するなど、現場の方々の対応力はすばらしいです」(申氏)
急遽設置された新しいセット
ソフトバンクCM『しばられるな』篇
代理店:電通/制作:Geek Pictures/VFX:Cutting Edge Japan
企画から提案し限られた期間に対応して制作 GEEKLY CM『Mr.Geekly /転職エージェントの意味』篇
PCでできたピラミッドの上に俳優が座り、セリフに合わせてズームイン・アウトをくり返す演出において、美術セット・撮影をCGでカバーできないかという相談を受け、CG制作や撮影手法をCutting Edgeが提案した。画像はMayaの作業画面だが、動画で制作してメインスタッフへプレゼンしている。最終的にクレーン撮影となったが、一度の撮影は困難だったため、3つのポジションからカメラのイン・アウトの位置を合わせ、カットを分けて撮影することになった。撮影スタッフと打ち合わせてCG側で必要な撮影時の情報をすり合わせ、セットの上部2段を美術で、下部3段(最終プリプロダクションミーティングで下部2段に変更)をCGでつくることに決まる
美術部が作成した資料。事前にデザイン画や設計図をもらうことで、美術とほぼ同時並行でCG制作が行えた。建込前日にはデザインのチェックを済ませておく
事前に入手したミニチュア
撮影現場の様子。美術部が作成したミニチュアを基に、レイアウトなどを確認する
撮影当日にはほぼ完成となったCG素材。プリCG制作は約1日とのこと
CGとコンポジットの往復を最小限にするために、CGへLUTを適用している。フローは①撮影(EDL、LUT、RAWデータを撮影直後に入手)→②仮編集(オフラインからEDL、オフラインQTをアップデート)。CGはRAWに合わせてコンポジットを開始→③グレーディング(プレートとLUTをもらいCGに適用)→④コンポジット(色調整およびライトエフェクトの再現)→⑤本編集、となる
完成画。なお、ショットを通してライトが点滅するのだが、CGはライトのアニメーションをさせず、各ライト要素(約20ライト)を分けてレンダリングし、コンポジットで点滅などを調整している。モニタ内はUVとマットを組み合わせることで、NUKE内でいつでも差し替えが可能となった。環境はリファレンスと簡易IBL用を撮影。モニタからのライトリファレンスは照明部のスタッフがセットしている
GEEKLY CM『Mr.Geekly/転職エージェントの意味』篇
代理店:電通/制作:Geek Pictures/VFX:Cutting Edge Japan