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メリットしかない! 全体のコストと余計な手戻りを削減する、北米流プリビズのお作法

メリットしかない! 全体のコストと余計な手戻りを削減する、北米流プリビズのお作法

Topic 2 実際のプリビズ制作プロセスにみる作業内容

できるだけ時間をかけず修正に対応しやすく制作

ギブソン氏が手がけたプリビズを、2例紹介したい。いずれも架空の映画作品を想定して制作されたプリビズだ。ひとつはイタリアのシチリア島で開催されていた公道自動車レースをテーマにした『Targa』という作品で、ギブソン氏が過去に自主制作として制作したものだ。もうひとつは、近未来のアフリカを舞台に、ロボット兵による民衆弾圧をテーマにした『Sicarius』という作品で、ギブソン氏がAnimationCafeに移籍後に作成している。

『Targa』
©2019 Cafegroup

『Sicarius』
©2019 Cafegroup

AnimationCafeでは主にMayaを使ってプリビズを作成しているが、その理由は次の通り。「プリビズはあまり時間をかけずに作成するのが大前提なので、なるべくひとつのツールで完結させるというのが時短術として有効です。モデリングからアニメーション、エフェクトまでをデフォルトの状態で利用できるので、われわれにとっては一番作業が早い。群衆シミュレーション用にMASHなどを試したり、新しい技術は柔軟に取り入れていますが、基本的にはデフォルトの機能を使ってプリビズを作成しています」(田中氏)。使用しているアセットもMayaで簡易にモデリングしたものや、キットバッシュ的にアセットを組み合わせて使用しているという。『Sicarius』では多くの群衆が登場するが、これらの人物アセットはAdobe Fuse CCを使ってバリエーションを作成し、Adobe Mixamoでリグを作成したものを利用。背景用のアセットなどはPhotoshopにリファレンスを並べながらイメージを固めていった。

このようなプリビズを作成するときのポイントは「カメラワークに時間がかかってしまうようなつくり方をしない」ことだという。日本のように絵コンテをベースにプリビズのショットを作成してしまうと、レイアウトに合わせようとしてステージの構成やキャラクターのアクション、カメラワークに非常に時間がかかってしまうため、まずはショットに使用するステージを作成して、実写の撮影と同じようにキャラクターにアクションを付けた後で、そのステージに複数のカメラを設置してカメラワークを模索している。この方法であれば、複数のバリエーションのカメラワークを提案することができ、修正も楽に行える。

とにかくプリビズを素早く制作することで、プリプロの期間内でクライアントなどの上流の意思決定者とのコミュニケーションを密に図ることができ、プロダクションやポストプロダクションの時間やコストを効率化できる。プリビスを作成するときには、プリプロの段階でなるべく早く承認を得ることができる工夫を、常に考えていかないといけないのだ。

プリビズでの正しいブロッキング

『Targa』は約2分半のプリビズで、2ヶ月程度の制作期間で作成されている。クルマやメインのディテールのあるキャラクターモデルはギブソン氏が自作したものだが、プリビズ制作のスピードを上げるため、アセットを準備するのに時間がかかるようなものは、実写などのリファレンスで構成することもある。プリビズでのブロッキングで重要なのは、ショットに必要な演技以上のものが含まれるようにシーンを作成することだという

シーン全体を作成したら、複数のカメラを追加して演技の一部始終をとらえ【A】、編集でシーンに必要なショットを選定できるようにしておく【B】【C】。こうすることで、複数のブロッキングを作成する時間を節約でき、修正の手戻りがあっても対応がはるかに早くなる

リファレンス収集とアート作成

アフリカが舞台となる『Sicarius』。ごちゃっとしていて独特な色彩をもつ街並みのイメージは、【A】のようにリファレンスとなる画像をGoogleマップなどを使って集め、Photoshop上に並べてイメージを固めていった。さらに世界観を具体化するために、リファレンス画像などを参考にしながら【B】~【D】のような様々なイメージボードやデザイン画を作成していく

シーンビルド手順



  • まずは個々のアセットをMayaに読み込む



  • シーンのビジュアルイメージを表現するために、ディテールをつくり込む



  • イメージに合うライティングを探るため、スカイドームライト、スポットライト、フォグを用いてライティングを調整していく。スポットライトを使って雲から落ちる影を表現し、シーンが平面的に見えてしまうのを防いでいる。シェーダはArnoldを使用



  • シーンが整ったところでロボットを含むキャラクターを配置。スケール感を合わせるために建物のアセットの位置を調整し、家の並びをランダムにすることで、より有機的な街並みになるように調整している

最後に、アクションと移動範囲を必要最低限のキーフレームで表現することに注意しながら、キャラクターにアニメーションを付けていく

キャラクターアセットを素早く作成

プリビズではなるべく手間と時間をかけずに制作することが重要なので、キャラクターアセットも手軽な方法で作成していく。『Sicarius』ではAdobe Fuse CCを使ってキャラクターを作成している。Adobe Fuse CCではキャラクターのベースをテンプレートから選択し、服装や体型などをカスタマイズして制作することができるようになっているため、モデリングの時間を大幅カットしながら、多くのバリエーションを作成することが可能だ

作成したモデルは、AdobeのWebアプリであるMixamoを使ってアニメーション用のリグを作成

汎用のアニメーションを埋め込んでfbxファイルとして出力すれば、Mayaで開くことができる。Mixamo Auto Control Rigというスクリプトを使えばMaya上でもリグを作成可能だ

MASHを利用した群衆アニメーション

『Sicarius』では、デモをする大規模な群衆シーンがある。群衆シミュレーションなどを使用してしまうと、時間を含めたコストがかかってしまうので、本プリビズでは個別のアニメーションが付けられた20人のキャラクターをMayaプラグインのMASHを使って配置、サイズと方向をランダムに設定したり、Point Countを使って人数を増やすことで、規模の大きな群衆モーションを時間をかけず効率良く作成している



  • Point Count:100



  • Point Count:1,000



  • Point Count:5,000



  • 実際のシーン全体を俯瞰した様子

イメージシーケンスによる爆発エフェクト

本プリビズではシーンに必要な爆発のイメージシーケンス(連番テクスチャ)がなかったので、Mayaの流体エフェクトで簡単な爆発エフェクトを作成し【A】、イメージシーケンスとしてレンダリングして平面ポリゴンにマッピングして使用している【B】。エフェクトを作成する際に、複数アングルの異なる設定の透明情報をもったEXRファイルとしてレンダリングすることで、速度コントロールが可能になっている。平面ポリゴンにエフェクトをマッピングする方法を採ることで、ビューポート内でリアルタイムでサイズの変更やタイミングの調整が可能になり、ショットの設定の作業効率が大きくアップした

夜景ショットのライティング手順



  • まず、シーンに高速でプレビュー可能な低解像度のセットを作成する



  • ハードウェアフォグを追加して大気感を調整



  • ライトとスカイドームライトを追加して、全体の光量を落として夜の設定にし、部分的に明るくライティングする



  • 2Dフォグテクスチャを作成して配置

最後にフォグテクスチャのサイズを変更して配置し複製。このように、最終的な映像のルックを理解するのに役立つプリビズのシーンを素早く作成している



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