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メリットしかない! 全体のコストと余計な手戻りを削減する、北米流プリビズのお作法

メリットしかない! 全体のコストと余計な手戻りを削減する、北米流プリビズのお作法

日本におけるプリビズは、まだまだ上手く活用されているとは言い難い。その価値を最大化するには、北米に倣った技術的なアプローチはもとより高頻度なレビューや承認プロセスに関わる決裁者の意識改革が急務だ。ここでは、プリビズ専門セクションを起ち上げたAnimationCafeに話を聞いた。

※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 249(2019年5月号)からの転載となります。

TEXT_大河原浩一(ビットプランクス
EDIT_藤井紀明 / Noriaki Fujii(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
©2019 Cafegroup

プリビズを上手く活用すれば日本の作品は世界をリードできる

AnimationCafeはプリビズスーパーバイザーのゾンダック・ギブソン氏を迎え、アニメーターの田中 謙氏を加えて本格的なプリビズ制作専門の部門を起ち上げた。ギブソン氏は建築やインダストリアルデザインからキャリアをスタートし、Electronic Artsにてモデラーとして作品に携わる。

  • 右から、代表取締役・岸本浩一氏、プリビズスーパーバイザー・ゾンダック ギブソン氏、アニメーター・田中 謙氏。以上、AnimationCafe

その後、Vanguard Animationの『Space Chimps』(2008)の制作に参加。この頃はまだバンクーバーではプリビズを組み込んだワークフローが定着しておらず、本作はバンクーバーで最初の3DCG映画かつプリビズを使用した作品となった。ギブソン氏はその後、バンクーバー初のプリビズ専門会社Twentyone.incを共同設立し、『マン・オブ・スティール』のプリビズを手がける。そこでグリーンライト(後述)の分野に興味をもち、自らもプリビズ専門の会社を起ち上げている。「来日した理由は、北米のプリプロワークフローを日本が優位性をもつ分野と融合させたかったからです。日本はキャラクターデザインやアニメーション、ストーリーテリングに優れているので、日本のCG作品は世界をリードするポテンシャルがあると思います」(ギブソン氏)。しかし、現在の日本の制作現場では、ある程度映像がかたちにならないと判断できないという決裁者が多いため、どうしてもプロダクション段階での方向転換や修正が多くなり、現場のスタッフが疲弊してしまう。ギブソン氏は、日本もプリプロの初期にプリビズを作成し、決裁者の承認を早期に得ることで無駄なコストを大きくカットできるだろうと話す。

AnimationCafeがプリビズの部門を起ち上げたのも、プロジェクトのプリプロ段階から関わって制作の効率化を図りたいというねらいがある。「日本はまだ実写の撮影とCGの制作がバラバラに動いていることが多いです。プリプロからCG側がきちんとコミットするためにも、これからはプリビズを重視して撮影から請け負える体制をつくっていきたい」と、代表取締役の岸本浩一氏はAnimationCafeのこれからのビジョンについて語ってくれた。

Topic 1 日本と北米のワークフローのちがい

北米流のプリビズとはどのようなものか

日本の一般的な2Dアニメーションのワークフローでは、絵コンテが大きな役割を担っている。ライティングやアクティング、レイアウト、カメラワークを1枚で表現していることから、最初に絵コンテがあることで全てのセクションで作品の最終イメージに対する共通認識をもてるので、ある意味では非常に効率の良い制作ワークフローになっているとギブソン氏は話す。しかし、実写VFX作品や3DCGが絡む作品の場合には、複数のスタジオが工程ごとに分散しているため、一度下流の工程で修正がかかり上流の工程に戻そうとすると、膨大な時間とコストがかかってしまう。これが日本のCGプロダクションが抱える大きな課題となっており、日本の3DCGが絡む作品でも2Dアニメーションのワークフローのように最初に制作物のイメージを明確にすることを目指す必要がある。その共有すべきイメージがプリビズというわけだ。

ギブソン氏が考えるプリビズの定義は、プリビズとはまず作品のイメージをスケッチアウトするもので、簡単なアセットを使って映像のレイアウトやアクションの組み立てを試行錯誤できるようにするためのツールだという。プリビズで使用するアセットは、本制作の工程の指標とはなるが、本制作で使用することを想定しているアセットではないため、アセットの制作に時間をかけることはない。北米では、プリビズは本制作で使用する絵コンテ(レイアウト)とは考えられておらず、単純にストーリーのながれやカットの構成、カメラワークを提示し、どのような内容の作品なのかをクライアントをはじめとする決裁者に確認してもらい、意見を得るためのものであるため、ラフな仕事を素早く正確にこなすことが重要になってくる。

現在の日本の制作現場では、このようなラフな状態のプリビズで上流の意思決定者に早期の承認を得ることができないので、アイデアを提示するために正確なアセットを作成することに必死になってしまい、本来本制作が主体とならないといけないモデラーやアニメーターがプリプロ段階で疲弊してしまっており、非常にコスト的にも作業効率的にも良くない状況に陥っているという。「日本がより世界的にグローバルな商業展開をするには、この承認構造の急激な転換が必要」とギブソン氏は話す。

北米では、プリビズを通して提示された内容について、クライアントをはじめ撮影から編集にいたるまで、全てのディレクターが意見を出し合ってプリプロ段階でコミットしていくため、プロダクションやポストプロダクション段階では、決済された事項を覆すような修正はほぼ発生せず、コストと制作期間の大幅な削減になるという。実際、総制作費1億2,000万ドルと言われている『スターウォーズ/エピソード2 クローンの攻撃』(2002年)では、プリビズによって全体の10%を超える1,500万ドルが削減されたという試算もあるようだ。

北米の一般的なプリビズワークフロー

※1 グリーンライト:作品のコンセプトアートやアニマティクス、リファレンスなどをクライアントに提示するもので、作品全体のトーンや登場するキャラクターの説明に使用される超初期段階のプリビズを指す。ピッチビズとも呼ばれる

※2 ビートボード:キャラクターのアクションのみを線画でビジュアル化したもの。ストーリーボードと似たものだが、情報量としては少なくシンプル。アートディレクターなどから提示されるもので、これがあることでプリビズが作成しやすくなる

※3 キーショットアート:アートディレクターが、ショットごとにライティングのイメージを提示するための資料。プリビズの内容がおおまかにクライアントに承認を得た後に作成される。プリプロの最終段階に作成されるもので、このキーショットの承認が下りてはじめてレイアウトなどの本制作に入っていく

※4 テックビズ:カメラドリーの有無や、爆破などの特殊装置の有無、ヘリコプターでのカメラワークなど、現場での撮影時に起こりうる問題を明確に提示して、技術的な解決策を考えるためのプリビズ

※5 ポストビズ:撮影された実写プレートにラフなCG素材を合成し、シーン選択やVFXの本制作のボリューム調整を行うためのもの

日本と北米の大きなちがいは、北米では企画・プリプロ段階に多くの手間と時間をかけ、プロダクション期間の割合が少ないことだ。北米のプリビズは「早く」「安く」「何度も」つくることが求められるため、絵コンテベースの日本とは異なり、北米のプリビズはレイアウトの前段階で行われる。アセットについても日本ではレイアウトの前に作成されるが、北米ではプリビズアーティストが簡易的なものを作成し、レイアウトの後でモデラーがプロダクション用のアセットをつくる。また、承認制度も大きく異なる。日本は階層構造になっており、セクションごとにスーパーバイザーなどがチェックした後にクライアントなどが初めてチェックするため、そこで修正が発生した場合はプロセス全体に大きなダメージを負う。一方、北米はフラットな構造で、プリビズを早い段階からプロデューサーやクライアントに見せることで大幅な修正が発生しにくくなっている

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Topic 2 実際のプリビズ制作プロセスにみる作業内容

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