>   >  ビデオゲームが描く「デジタルな美」とは何か?~GDC 2019レポート(2)~
ビデオゲームが描く「デジタルな美」とは何か?~GDC 2019レポート(2)~

ビデオゲームが描く「デジタルな美」とは何か?~GDC 2019レポート(2)~

絵画から映画そしてゲームへと続く美の系譜

最後にTaini氏は「何に対して美を知覚するのか」というテーマを、「不均衡さと対称性」、「形状と輪郭」、「コントラスト(光と色)」という3つの要素に分解し、解説していった。

はじめに「不均衡さと対称性」についてだが、ここでは画面上における物の配置や関係性や焦点など、いわゆる「構図」が重要になる。人間は長い歴史の中で日の丸構図やサンドイッチ構図、放射構図、黄金分割など、人が本能的に好ましいと感じる様々な構図を体系化し、絵画や映画で数多く応用してきた。こうしたながれはゲームにも及んでおり、近年では開発段階から画面の構図を意識したものが登場しつつある。カットシーンやプリレンダームービーだけでなく、『ワンダと巨像』のようにゲーム中のフリーカメラでも構図を意識した作品が登場しているほどだ。


絵画における形状


映画における構図


『ワンダと巨像』における三分割法

続いて「形状と輪郭」について、Train氏は「三角形」の奇妙な特性について指摘した。三角形をした土器は地理や文化を越えて世界中から発掘されており、多くの絵画・映画・ゲームでもモチーフとされている。3DCGを形づくるポリゴンも三角形であり、三角形の組み合わせだけであらゆる形状を表現可能だ。絵画においても三角形を意識した構図をとることで、作品に立体感を与えられる。

これに対して輪郭はキャラクターデザインで重要な要素で、シルエットだけでキャラクターの意味や特性を理解させることが重要だ。Train氏はフランス新古典主義の画家ドミニク・アングルの絵画『泉』について、ルドルフ・アルンハイムの書籍『Art and visual perception』の内容を引用しつつ、「写実的なようでいて、鑑賞者の視線を誘導するための綿密な計算がなされている」と分析。「優れた芸術家は生理学的に正しい人体ではなく、人体の本質的な要素を描き出すことができる」という言葉を紹介した。

こうしたながれを受けて、Taini氏は2010年代に入ってから、ゲームでも映像がもつ「情感を沸き立たせる力に注目が集まりつつある」と語った。「『LIMBO』『INSIDE』で描かれる世界は、現実の世界よりも暗く沈んでいますが、それはつくり手によって意図されたものです。また『Firewatch』ではゲーム中で写真のような風景が広がりますが、完全に同じではありません。逆に些細なちがいが現実らしさを引き立てています」。


『LIMBO』のアートワーク


『Firewatch』のアートワークと写真の比較

その上でTaini氏はラマチャンドラン夫妻の「芸術の目的とは現実を忠実に複製することではなく、現実を超越する点にある」という言葉を紹介した。実際にTrain氏がコンセプトアートを描いた『Dmc Devil May Cry』では、魔界と人間界が接する狭間の世界「リンボ(辺獄)」が舞台になっており、現実界の地形を歪ませたような、シュールレアリズム的な世界観が特徴だ。他に『モニュメントバレー』『バウンド:王国の欠片』など、同様のアートスタイルをもつインディゲームも人気を博している。


『Dmc Devil May Cry』の世界観

その後Taini氏は、コレージュ・ド・フランス名誉教授で神経科学者のジーン・ピア・シャンジュー氏による「アートワークによって表される形態は、分類されるのに十分なほど自然であり、記憶されるのに十分なほど人工的でなければならない」という言葉を紹介。アポカリプス後の世界で冒険を繰り広げる『ENSLAVED ODYSSEY TO THE WEST』で、植物に侵食された廃墟をモチーフとしたのも、こうした考え方が下敷きにあったと明かした。

色と光のコントラストがプレイヤーに与える感情


最後にトピックはコントラストと、それを構成する「色と光」にうつった。まず色については、色彩心理学などの知見から、色が人に与える様々な印象が知られている。赤は情熱的で青はクール、黄色は好奇心旺盛といった具合だ。映画『インサイド・ヘッド』のように、色彩感情と形状を組み合わし、キャラクターデザインに応用する例もみられる。

また、色彩感情は背景に活用するのも有効だ。映画でもポストエフェクトの段階でカラーグレーディングを行い、シーンの意図を色で強調する演出が一般的になっている。Taini氏も『Dmc Devil May Cry』で主人公ダンテのステージを赤、双子の兄のバージルのステージを青基調とし、各々のキャラクター性を強調したという。

色彩と共に多用されるのが光(照明)だ。ホラー映画では「下からの照明」、「バックライト」、「懐中電灯」、「赤」、「長い影」などが定番の演出となっている。ここでTaini氏が紹介したのは、水面や夜空がキラキラと光るエフェクトだ。これらは見る者に希望や、何か幸せな感情をもたらしてくれる。ゲームでもこうしたエフェクトは様々なシーンで多用され、ときに命の象徴としても扱われる。こうした技法をうまく活用することがゲームを次の段階に進めるとして、講演を締めくくった。



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