Topic 2 「いばキラTV」の動画ができるまで
自社スタジオと経験を活かした番組制作
ここからは、番組制作の様子をお届けする。収録が行われるのは、スパイスのモーションキャプチャスタジオだ。広々とした空間には高解像度のOptiTrack Prime 41と画角の広い同Prime 17Wの2種類のカメラが取り付けられており、「ハイスペックすぎる構成ですね」と松本健一郎氏(スパイス)が漏らすほどの環境だ。キャプチャしたデータは、傍らに設置された3台のPCに取り込まれ、それぞれMotive(モーションキャプチャソフトウェア)、MotionBuilder、Unityの演算を行う。まずはアクターの骨格モデルを作成するのだが、OptiTrackはTポーズをしてワンクリックするだけで骨格モデルができ、指の動きをキャプチャするIGS-Cobra Gloveも2クリックで初期姿勢のキャリブレーションができる。準備時間がかからないため、実際の収録に十分な時間を使えるのも特徴のひとつだ。準備ができれば、あとはUnityでほとんどオペレーションできるため、ミニマムのスタッフで運用できるのもメリットだろう。
こうして収録された映像は、カット編集等は行うものの、ひよりさんの動きに関しては後付けをせず、収録時のデータがそのまま使用されている。3Dモデルの完成度の高さやトラッキングの精密さの賜物だ。収録後に余計な工程がない分、番組をより濃くするためのチャレンジもしていけるとのこと。「視聴者の方の親近感が湧くコンテンツをつくりたいと思っています。私自身、自治体に対して硬いイメージを抱いていましたが、接してみると"同じ人間だな"と実感しました。サブカルが好きな方やマニアックな趣味をもっている方もいます。そういう人間味まで伝わるような新しいコミュニケーションを目指しているので、"茨ひより"が良い意味で自治体のイメージを崩して、視聴者・ファンに好まれるようになってきているのは嬉しいです」と小林氏。また、人間やゆるキャラと比べて、時間や場所などの制約が少ないこともVTuberの魅力のひとつだと言う。これからもVTuberの強みを活かして、様々な場でわれわれを楽しませてくれそうだ。
ひよりさんの今後について「9~10月にかけて開催される、"いきいき茨城ゆめ国体・いきいき茨城ゆめ大会2019"に合わせたPR活動を予定しています。動画配信に加え、イベントに関わるかたちでのPRも考えています」と茨城県庁。訪日外国人の数が増加する中で、国内だけでなく国外も意識したPRも精力的に展開し、茨城県への観光客の誘致や県産物の輸出につなげていきたいという。ひよりさんのこれからの活躍に目が離せない。
番組収録のイメージ
収録風景(イメージ)。今回は、ひよりさんに代わってスパイスのスタッフの方に、収録の様子を再現していただいた。マーカーは全身に37個。撮影エリア(6m×13m)が広いため、動きへの制限はほとんどない
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スパイス自作のフェイシャルトラッキング用のカメラセット。カメラは単焦点レンズかつ映像が歪まないものを求めて、世界中のカメラを探しまわって見つけたものだという。ラグビー用のヘッドギアをベースに、アルミパイプを曲げたアームを取り付けている。使用者の疲労を考慮して、とことんまで軽量化された。実際に持たせていただいたが、小指一本で楽に持ち上げられるほどの重さしかなく、あまりの軽さに思わず驚きの声が出たほど
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IGS-Cobra Glove。指も、ひよりさんの動きが使用されている。データは無線でUnityへ飛ばし、Unity上で制御しているとのこと
表情切り替えコマンド。こちらで事前に準備しておいた表情に簡単に切り替えることができる
収録データのながれ
Motiveの作業画面。カメラで収録されたデータは、まずMotiveへ取り込まれる
MotionBuilderでの作業画面(左はX-Ray表示)。【上画像:Motiveの作業画面】のMotiveで取り込まれたデータは、別マシンのMotionBuilderへとながされ、ボーンに変換される。この工程を挟むことによって、ロールの調整などが可能となるのだ。脚の接地位置や首の可動域などがコントロールでき、破綻が少なくなるという
Unityでの作業画面。MotionBuilderで整えられたデータは、さらに別マシンのUnityへとながされ、IGS-Cobra Gloveで取得した手指のデータも組み合わされて最終調整が行われる
こだわりのフェイシャル&ポージング
フェイシャルキャプチャにはDynamixyz Performer2が使用された。ブレンドシェイプをベースに、様々な表情が用意されている。目パチや口パクにいたるまで、表情をほぼ完璧に再現できるが、それゆえに少々苦労することもあるという。それが視線の動きだ。台本を読みながらの収録では、台本の文字を追う視線の動きまでキャプチャされる。そこで、ディスプレイや譜面台を利用して視線の動きを軽減するなど、日々試行錯誤しているとのこと。どうしても難しい場合は視線を固定することもあるそうだ。このような苦労もあるが、精密なトラッキングが可能だからこそ、活き活きとしたキャラクターになるのだろう。また、トラッキングのほかに特別な17種類の表情が用意されている。上記【番組収録のイメージ】の「表情切り替えコマンド」を用いて、大田氏がリアルタイムで収録中の状況に合わせた切り替えを行うそうだ
ブレンドシェイプのパターン
特殊なポーズ例。これらのダイナミックな動きも、後付けではなく、その場で撮影しているものだ。どれも、とてもかわいらしい
Unityで制御するカメラワーク
番組制作に使用されているCG上のカメラは2台。基本的に、引きと寄りのカメラを組み合わせている。PANダウンなど14個ほどのカメラアセットも用意しており、台本の内容に合わせて最適なカメラを選んでいるそうだ。キャラクターをFollow(フォロー)するような動きをさせることもあるが、その場合は事前に動きを仕込んでおくのだという
実際にカメラから撮影した様子。様々な角度からの映像があることで、番組としてのリアリティも感じられる
Unity上で複数のカメラを表示している様子。実際のTV収録のようだ
スパイス提案による一歩踏み込んだシーン制作
こちらは番組「#14」内で、実写素材を背景として使用した例。これらのシーンはスパイスの提案により、台本で予定されていた内容から、より惹き込まれる動画となった
After Effectsによる3D カメラトラッカー。実写映像の動きに合わせて、ひよりさんが実際に歩いているかのように合成している。手ブレする実写映像にスタビライズをかけ、背景マップを起こした上で、トラッキングして対応した
ひよりさんの素材。こちらはバンジージャンプの遠景映像に合わせるためのもの。もともと遠景に合わせる予定はなかったため、モーション素材が足りなかったのだが、足りない部分はスパイスのスタッフが代わりに収録している。自社内にスタジオを有しているメリットがここでも活かされた
完成画。大田氏は「自分は実写合成をメインで担当していたので、やりたい欲求がウズウズして提案しました。スパイスはゼネラリストの集団なので、いろいろな引き出しをもっているのが強みですね」と自信の表情をみせた