>   >  コミック風映像への挑戦、映画『スパイダーマン:スパイダーバース』プロダクション・セッション~SIGGRAPH 2019 レポート(4)~
コミック風映像への挑戦、映画『スパイダーマン:スパイダーバース』プロダクション・セッション~SIGGRAPH 2019 レポート(4)~

コミック風映像への挑戦、映画『スパイダーマン:スパイダーバース』プロダクション・セッション~SIGGRAPH 2019 レポート(4)~

コミックのようなルックを映像で実現するため、色ずれや誇張したレイアウトも採用/ダニー・ディミアン氏(VFXスーパーバイザー)

「イラストレーションや紙にプリントされたようなコミックのようなルックを、どうやってシネマトグラフィーの中にうまく実現していくか。例えばこのサンプル画像は、マイルスや電車が写ってるショットですが、背景に単にフィルターをかけてボカすなどの従来の方法ではなく、何か新しい方法で、効果的にレンズを使って、深度を感じさせ、かつ味のある独特の絵づくりを行うかが求められました。これには複数のアイデアを考えてみました。古いコミック・ブックを観察してみると、スクリーン印刷の際にカラーレイヤーが印刷機上で正確にラインナップせず、色ずれを起こす。これが、ピントが少しボケたような、独特の見た目を醸し出しているがわかります。一方、実写を観察してみると、複数の反射現象によって、それがイメージがボケたような印象を与えることがあります。そこで最初に考えたのが、コンプでZデブスを使ってRGBパスをあえてずらして、ハーフトーンのように見せる方法でした」。

© 2018 Sony Pictures Animation Inc. All Rights Reserved. | MARVEL and all related character names: © & ™ 2019 MARVEL.

「もう1つ、構図やレイアウトも重要でした。例えばこのショット(映像を表示)。ショットを横から別のアングルで見てみると、NYのビルの配置は非常に不自然で、パースペクティブ的にも正しい配置とは言えません。しかし、メインのカメラから見ると、アニメ風の誇張したレイアウトに見えるのです。このような見た目優先のレイアウトも採り入れていきました」。

「アニメーションや動きの中でも同様のチャレンジがあります。カメラやキャラクターがとても速く動くショットでは、スタイライズな中にも、モーション・ブラーを使用せず、オブジェクトにスミアな形状をくわえることで対応しています。これにはエフェクト・チームが、スタイライズされた中にも躍動感を感じさせる、優れた仕事をしてくれました。これについては、パブに説明してもらいましょう」。

スミアによるスピード感の表現やハンド・ドローイング素材の利用など、エフェクトチームによるさらなる挑戦/パブ・グロコラ氏(エフェクト・スーパーバイザー)

「この作品では、モーションブラーやデプス・オブ・フィールドを全く使わないということが大前提でしたから、動きが速いシーンでは、スピード感やブラーの代わりにスミア・オブジェクトをどう効果的に入れるか、がチャレンジでした。これには、大きく分けて2つのアクション・ラインのタイプがあります」。

「1つはエンバイロンメント・ストリークと呼ばれる方法で、シングル・ポイントのパースペクティブの中で、注意深くアレンジを考えました。すごくスタイライズされたショットでも、Houdiniでたくさんのアトリビュートを仕込んで、正しいスケール、正しいデプスで、コンプの際にうまく調整できるようにしました」。

「その例として、このショット(映像を表示)ですが、まず普通に再生してみます。そしてコマ送りで見てみましょう。このように、パンチの際にブラーが入ったようなストリーク形状で、大幅なスミアを加えています。こうして絵にインパクトを与えているのです。さらに、これに破片を追加して、ストロボ風なフリッカーが起こってしまうのを防いでいます」。

「もう1つはアクション・ラインで、こちらはよりアニメ風で、手描きのアニメ風のアプローチによって、モーションブラーのようなラインを加えています」。

「さて、この作品がエフェクト部門にどのようなインパクトを与えたのかをお話しましょう。私はこの作品で一番最初にアサインされたエフェクト・アーティストでしたが、実は、簡単にできるだろうと高を括っていました。エフェクトのシミュレーションなども、レンダリング結果にフィルタを掛けて、アニメっぽくすれば良いだろう、と思っていたのです。残念ながら、そんな簡単にはいきませんでした。これは、先ほどお話したインクラインでトゥーン・シェーダが上手くいかなかったのと同じで、ハンド・ドローイングのような自然な感じには見えませんでした」。

「そこで考えたが、2つの方法です。1つには、なるべくたくさんのハンド・ドローイング素材を集めること。2つ目は、様々なテクニックやトリックを使って3Dエフェクトの上に乗せてハンド・ドローイング風に見せること」。

「最初の方法は、2Dアニメの手描きエフェクト・アーティストを雇って、エフェクト・アニメーションをたくさん描いてもらいました。これはCGツールではなかなかつくることのできない、2Dのエフェクト・アーティストによるユニークなタッチやパターンをたくさん得ることができ、大変うまくいきました。Houdini上でアセンブルするツールをつくり、これはゲームのエフェクトでよく使われる手法で、スプライトを使ってリアルタイムに再生でき、希望の箇所に配置することができました」。

© 2018 Sony Pictures Animation Inc. All Rights Reserved. | MARVEL and all related character names: © & ™ 2019 MARVEL.

「もう1つの方法は、様々なテクニックやトリックを使ってつくった素材を、3Dエフェクトの上に乗せて使用する方法です。簡単な例だとスパークがありますが、モーションブラーが使えないこともあり、少々ちがう方法でつくることになりました。パーティクルをモーション・ブラーする代わりに、グラフィカルなジオメトリを発生させ使用しました」。

「また、スパイダー・ネットを再帰的に発生させる"マルチバース"という手法も開発されました。これは、カメラが継続してズームインしていくと、奥の方から次から次へと新しいスパイダー・ネットの形状が現れるというもので、マンデルブロー集合と同じような理論でつくられました」。

ショット毎に細かく調整し仕上げていくグラフィック・ライティング/ベン・ヘンドリックス氏(CGスーパーバイザー)

「......残り時間があと4分しかないそうで、手短にお話します(笑)。私はグラフィック・ライティングについてお話します。これまで説明したような、素晴らしいアニメーション、FX、ルックデブ、カメラワークなどを引き継いでショットを仕上げていきます。プロジェクション・マップなども組み合わせ、各エレメントのバランスに注意しながら、調整していくのです」。

「(映像を表示)これは、あるショットの例ですが、前述のように背景は可能な限りシンプルにして、メイン・キャラクターのマイルスやピーターにフォーカスしつつ、コンプの作業を進めていきます。ショット毎にかなり細かい調整が必要なので、シンプルに、もっとグラフィカルに、を念頭に作業を進めました」。

© 2018 Sony Pictures Animation Inc. All Rights Reserved. | MARVEL and all related character names: © & ™ 2019 MARVEL.

「監督はリファレンスとしてカービー・ドッツ(※)のような見た目を好んで用いていました。各シークエンスの中での色の変化は、ポジショニング・マスク、ファイシング・レシオ、そしてZデブスなどの各パスを組み合わせて調整し、コンプの際はNUKEのテンプレートを用意し、コンポジターと共有しました」。

※コミックアーティストであるKirby Krackleにちなんで名付けられたドット表現。参考サイト

「最後になりますが、この作品では、多くのキャラクターがマスクをしていますし、たくさんのチャレンジが要求されました。この作品で重要だったのは、800人以上のアーティストやエンジニアが、力を合わせて『スパイダーマン: スパイダーバース』を完成させたということです。今日は、どうもありがとうございました」。

© 2018 Sony Pictures Animation Inc. All Rights Reserved. | MARVEL and all related character names: © & ™ 2019 MARVEL.



info.

  • 『スパイダーマン:スパイダーバース プレミアム・エディション【初回生産限定』
    品番:BPBH-1225
    JAN:4547462121332
    リリース日:2019年8月7日
    価格:9,200円(税別)
    www.sonypictures.jp/he/1342084
    © 2018 Sony Pictures Animation Inc. All Rights Reserved. | MARVEL and all related character names: © & ™ 2019 MARVEL.

特集