異なるパイプラインをもつ2社間でのデータの受け渡し
プロジェクト開始直後のパイプライン構築と海エフェクト制作のR&Dには、特に力を入れたし、時間もかけたとスミルノフ氏は語った。「OLM DigitalはWindows環境で、メインツールはMaya、制作管理にはShotgunを使っていたのに対し、われわれはLinux環境で、メインツールはHoudini、制作管理にはftrackを使っていました。まったく異なるパイプラインをもつ2社間でのデータの受け渡しは非常に複雑だったのに加え、大きなシーンの場合はデータ変換だけで1時間以上を要しました。手作業では高確率でヒューマンエラーが起こるし、時間もかかるので、MayaからHoudiniへのデータ変換と、納品データ作成の大半を自動化しました」(スミルノフ氏)。
▲パイプラインの概要。OLM Digital(Windows環境)でつくられたMayaのアセット&ショットファイルを、リンダ(Linux環境)のHoudiniで読み込めるデータに変換してから、納品データをパブリッシュするまでの一連の作業が、Houdiniだけで完結するようになっている。アセット、ショット、尺、バージョン、ファイル従属などの情報はftrackで一元管理しており、ヒューマンエラーを防ぐため、データの登録や更新の大半が自動化されている。例えば、OLM Digitalからアニメーションやカメラデータの最新バージョンを受け取った場合には、更新ボタンを押すだけでftrackを経由してHoudiniの作業ファイルに反映される。テストレンダリングやプレビュー映像などの各種納品データも自動的に作成され、Mayaファイルを開かなくても、プレビュー映像を見れば、納品データに問題がないかどうかをチェックできるようになっている。加えて、納品データを上書きしないための権限チェックも自動的に行われる。なお、レンダリング管理にはDeadlineを使っている
▲エフェクト制作用の作業ファイルは、マルチカット設定用ノード(複数ショットで使用されるエフェクトエレメントを一元管理する内製ノード)、カメラノード、作業ノード、アセット読み込みノードの4種類で構成されている
▲Maya ROPノード。スミルノフ氏が作成した内製ノードのひとつで、MayaのファイルをHoudiniで読み込めるassやalembic形式のデータに変換する際に使用
▲Read OLM Assetノード。OLM Digitalから受け取ったアセットを、正しい形でHoudiniに読み込む際に使用
▲FX Element ROPノード。エフェクトエレメントの納品キャッシュを書き出す際に使用。ヒューマンエラーを防ぐための権限チェックなども同時に行う
▲Assemble Maya ROPノード。納品Mayaファイルを作成する際に使用
▲Arnold Maya Render ROPノード。納品Mayaファイルのテストレンダリングをする際に使用。ヒューマンエラーを防ぐための権限チェックなども同時に行う
各ショットの納品データ
▲各ショットの納品データ作成時のフローを示している。OLM Digitalより受け取ったMayaのショットファイル[shot001]は、ショット内のエフェクトエレメントごとに、異なるHoudiniの作業ファイルに分けられる。[fx_clouds]は雲、[fx_lightning]は雷、[fx_ocean]は海の作業ファイルだ。エフェクト制作が完了すると、最初に納品キャッシュが書き出される。例えば海[fx_ocean]の場合なら、納品キャッシュは海のメッシュ[mesh.ass]、飛沫や泡のパーティクル[particles.ass]、微粒子のボリューム[mist.vdb]の3つで構成されている。さらにプレビュー動画[preview.abc]も作成される。続いて、納品Mayaファイル[fx_ocean.v01.ma]が作成される。併行して、HoudiniのシェーダをMaya用に変換する。最後に納品Mayaファイルのテストレンダリングを行い、プレビュー画像[fx_ocean.v01.exr]とプレビュー映像[fx_ocean.v01.mov]を出力する。加えて、Readme[mesh_readme.jpg][particles_readme.jpg][mist_readme.jpg]の出力も行う
▲【上】とあるショットの爆発のReadme/【下】爆発による衝撃波のReadme。その名が示す通り、Readmeは納品データの概要説明だ。納品キャッシュの数だけ作成され、データの用途、フレーム数、主な設定項目などのテキスト情報が、プレビュー画像と共に記載してある
以上のパイプラインによって作成された納品データの総量は約40テラ、Mayaファイルの総数は744に上ったが、それら全てのプレビュー映像やReadmeがほぼ自動的に作成できたため、少人数での円滑なデータの管理と納品が実現した。
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©2019 ピカチュウプロジェクト
パイプライン篇は以上です。海エフェクト篇はこちらでご覧いただけます。
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