<3>1年目の若手アーティストたちがふり返る学生時代にやっておくべきこと
ここまでは筆者の意見を述べてきたが、実際に今年新卒で採用したStealthWorksスタッフの宮下知己、上田涼平、中邨(なかむら)晃良の3名に「学生のときにやっていなくて今大変なこと」と「学生のうちにやっていたから今役に立ってるもの」の2つにフォーカスしてアンケートをとってみた。彼らは学生時代の記憶も新鮮で働きはじめてからのギャップをより強く認識しているため、特に現役の学生や新人諸氏に響くはずだ。
左から、宮下知己氏、上田涼平氏、中邨晃良氏
■学生時代にやっていなくて、苦労していること
[中邨]
・画づくりを意識したものづくり。とことん追求した作品をつくっておけばよかった
→仕事(商業レベル)で求められるクオリティ(ディテールへのこだわり等)とのギャップに苦戦中
・誰が見てもわかりやすい名前付け
→チームで共同制作を行う際の引き継ぎ、データ受け渡しの際に混乱が起きてしまう
[宮下]
・ヒーロショット以外の基本的なエフェクト
→作業負荷の軽いエフェクトをつくるときに意外と苦労している
・画づくり
→エフェクトひとつひとつのディテールやライティングはもちろん、どこにどのようなエフェクトを入れれば格好良くなるかのバランス感覚の重要性を痛感
・様々なシチュエーションに応じたエフェクトの作成
→学生時代は自分の好きなスケール感でやりやすい方法でつくっていた。キャラとのインタラクションのあるエフェクト制作も練習しておけば良かった
[上田]
・自分がやりたいデパートメントの前後工程に関する作業経験
→スムーズな連携がとれずに苦労している
・様々な表現の作品を観ておく
→観る作品が偏っていると表現手法の幅も狭まってしまう
・CGをリファレンスにし過ぎない
→実写など、現実世界の現象を参考にした上で、CGで+αの表現を加えるという意識の大切さを実感。実写を大元の参考にしないと、動きが嘘っぽくなりがち
■学生のうちにやっていたから、役立っていること
[中邨]
・スクリプト(プログラミング言語)
→自分の使いやすいツールをつくれた
・チュートリアル学習
→複雑なセッティングを理解する力が養えた
[宮下]
・Houdini
→CGソフト内部の考え方をある程度理解することができていたので、どのように組み立てていけば目的の効果が得られるかを、ロジカルに考えられるようになった
・Maya
→基本的なDCCツールの使い方をひととおり学べた。並行してHoudiniも学習していたのでCGについて柔軟に考えられるようになった
[上田]
・何かしらのプログラミング言語
→ソースコード見て、少しでも動き(原理)がわかると何かと便利
■学生時代にやり過ぎたため、今大変なこと
[中邨]
・チュートリアル学習
→画を見ず、数値だけを追ってしまう悪いクセが......。画で良し悪しの判断ができず、数値は合ってるから正しいはずといった先入観にとらわれてしまう危険性
[3名共通]
・就活へのあせり
→ソフトウェア自体の学習に偏りがちに
・VFXのエフェクトをリファレンスにしすぎてしまった
→リアリティに対する審美眼をもっと養っておけばよかった
......いかがだろうか? 学習の際、どうバランスを取るべきかの参考になれば幸いだ。またリアリティに対する目を養うためにも実写FXを多用した『パール・ハーバー』(2001)、『インデペンデンス・デイ』(1996)など、2000年頃の映画を観ておくことをオススメしたい。
<総括>まずは、"原点"に立ち返ろう
エフェクトを勉強しようとしている人に向けて筆者の思いを綴ってみた。日々のインプット、アウトプットは十分だろうか? また、偏りはないだろうか? 傑作と言われる映画やゲーム等の良質なコンテンツに接しているだろうか? たまにはPC、スマホでググることから離れ、デジカメを手に自分の足で本物のリファレンスを収集しているだろうか? 今一度、エフェクトアーティストを志そうと思った衝動に立ち返って本当につくりたかったものに向き合ってほしい。それはハリウッド映画のヒーローショットだろうか? その場合も、まずは大風呂敷を広げず小さなエフェクトを丁寧につくることからはじめて、達成感と経験を積み上げていってほしい。そして、"ゼネラリスト的視点"をもち、エフェクトは"動く背景"であるという思考によって日々の単調な情景が実はリファレンスの宝庫だと認識できれば、自ずと道は拓けることだろう。
info.
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月刊CGWORLD + digital video vol.256(2019年12月号)
第1特集:今気になる、男性アイドル
第2特集:CGエフェクト再考
定価:1,540円(税込)
判型:A4ワイド
総ページ数:144
発売日:2019年11月9日